たくさんのおふだ
日本の昔話に『三枚のお札』という作品がある。お寺の小僧が山姥に追いかけられるも、和尚に貰った三枚のお札で危機を切り抜ける話だ。
地域によって細部は異なる。神奈川と静岡の県境付近の極一部に伝わる民話では、三枚どころか数えきれないくらい多くのお札が登場する。
和尚に山姥が退治されるところまでは同じだ。違うのは、その後である。
一時は平和になった山中だが、和尚が高齢となり病に倒れると、新手の山姥が出没するようになってしまった。
このときを待っていたのが成長した元小僧である。酷い目に遭って改心した彼は真面目に修行に励み自分でお札を作れるようになっていたのだが、妖怪変化が現れないので効き目を試す機会がなかった。この好機を逃すわけにはいかぬと山へ行こうとしたら、またも和尚に止められた。お札が効かず逃げてきても病気の自分では助けられないというのである。
「今度はお札をたくさん作りました。これだけ用意していたら何とかなりますよ」
三枚しかお札を渡さなかった自分への嫌味を感じ、和尚は面白くなかった。だが元小僧に悪気はない。
「山姥を捕まえてきます。あれを食べたら元気になりますよ」
和尚は好きで山姥を食べたわけではない。そんなものは要らない、もう寿命だから何もしてくれなくて結構だ、それより危険なことは止めてくれと頼む。だが元小僧は山姥を生薬か何かだと思い込んでいるようである。
「絶対に捕まえてきますから、待っていてください」
そう言って山に向かうと見事、山姥をお札で捕らえた。お札を全身に貼られて動けなくなった山姥を背負い籠に入れ寺に戻るが和尚は既に亡くなっていた。
和尚の死を目の当たりにして命の大切さを学んだ彼は、もう悪さをしないと誓う山姥を逃がした。命を救われた山姥は大いに感謝し山野で収穫した食物を寺へ届けるようになり、最初は警戒していた元小僧も進物を受け取り返礼としてありがたいお経を唱えてやる等していたら、仏の功徳なのだろうか、凶悪な人相だった山姥は次第に美しい娘へと変化していった。メイクを止めたヤマンバギャルと美青年に成長した元小僧は恋仲となり二人の間に子が生まれたが、僧侶の女犯は大罪である。恋人の将来を憂いた山姥は泣く泣く身を引き子供を一人で育て上げた。その子が足柄山の金太郎、後の坂田金時である――と昔話は伝えている。