6.事件の香りと助っ人召喚
やっと店主から情報ゲット。タダラが少し出てきます。
ひとしきり買い物が済み、落ち着いた後やっと本題に入る。今度はカミラだけでなくキースとヒースと楓も店主を挟むように座卓を囲み、全員で話を聞く。秘書は用が済んだからか控え室の方へ戻っていった。
「改めて、私は現店主のバビノアです。カミラ様とカミラ様のお連れ様にお会い出来て嬉しく思います。しかし、今は間が悪いと言いましょうか。この村では最近、夜な夜な人を喰う人狼が現れるのです。その手口から人狼か吸血鬼の仕業だろうと考えられますが、魔女様達にとっても危険かと。」
おもむろに店主が語り出した話は、3年前から、村人の変死があり最近増えているというものだった。事件が起こるのはは毎回満月の夜だと言う。満月の夜に狼に変身する人狼か、闇の眷属の吸血鬼が有力な犯人候補として挙がっており、村人も怯えている。変死の状態から何かに噛みちぎられたような痕や歯形があり、人狼の可能性が高いらしい。しかし、各遺体はそれぞれ微妙に状態が違うことから、人狼と断定はできていない。今年はすでに5人もの犠牲者が出ており、最近では村人も犯人発見に躍起になってきているとか。そんな中でカミラの来訪である。しかも今回は従者たち付き。
(いや、言っちゃなんだけど俺らも半分人狼)
(食人衝動皆無だけどね、バレてないのか)
((ケープと帽子のおかげか!!!))
店主の犯人のくだりでぎくり、とヒースはキースと目を合わせたのちサッと前を向く。
店主は2人に気づかず話を続ける。
「せっかく来てくれた皆さんには申し訳ないのですが、我々自身を守るのが精一杯でお客人を守りきれる程腕の立つ者もおらずでして。皆さんに何かある前に帰る、というのも選択肢の一つでございます。」
「ご心配いただき、ありがとうございます。
…そうねぇ、死人が出てているとは言え、村の問題に第三者が変な横槍を入れるべきではないかしら?あるいは同胞が非力な人族に悪さしているなら逆に即時解決の為に介入するべき?」
店長の配慮に、カミラは悩み始める。
「僕達はご心配には及びません。」
「俺達も魔法は使えるし人ではないので」
「カァァァ、カァァァ」
「えぇ、魔女様の使い魔様ですから人でなくても理解できます。聡明な魔女様とその従者様ならきっとお強い事でしょう。ですが、この村にいらっしゃるのであれば、引き続き私共も出来る限りの事はする所存です。ご恩がありますので。」
「むしろ、私たちが店主を護衛しましょう。
少しお待ちくださいな?ヒース、タダラを」
「かしこまりました、カミラ様」
ヒースはカバンからタダラと通信できる通信機を取り出す。その場で起動させた。
ポワン、ポワン、ポワン、ピコーン!
「はい、我輩タダラだが。どうした?」
3コールでタダラが出る。ありがたい。
「タダラさん、ヒースです。緊急事態です」
「どうしたのかな?梅鳴も呼ぼうか?」
「いえ。簡単に説明すると、僕らの立ち寄った村で変死事件が起きていました。何人か腕の立つ吸血鬼のお知り合いはいらっしゃいますか?可能なら人狼とも戦える人材が好ましいです」
「フム。我輩の親友であればその村に近い所を根城にしている奴らがいるから、召喚してみてはいかがかな?」
「ありがとう、助かるよ」
「奴らは人間嫌いかつ獣血を好物とする偏食な変わり者だ。名前は夜寝という。ちなみに夜寝には朝愛という伴侶がいるから、運が良ければガードマン2人確保できるぞよ。話は今通すから。」
「よろしく頼んだ。タダラお土産欲しい?」
「欲しい!!!高価な物を1個より、珍しいものいくつかの詰め合わせを希望する。」
「「了解。」」
その後いくつか確認事項のやり取りをした後、通話を切った。
すると、カミラは早速席をたつ。机とクッションをどかし、絨毯をそのままに床へ愛用の長杖で魔法陣を描いていく。黄緑色の光でどんどん文字が描かれていき、ラストに夜寝と朝愛の名を綴った。
「じゃあ、早速召喚するわよ〜!普段薬草いじりばかりで、召喚術は学校時代ぶりだから腕が鳴るわ〜!!!」
「「不安」」
「召喚!!!!」
ぼわん!
「ん?ここは、カミラ殿の所か?」
「間髪入れずの召喚でしたね、ギリギリだ」
「「全く、多々楽の奴、今度覚えとけ!…ん?」」
煙に包まれつつ、2人の人影が現れた。どちらも見目麗しい麗人である。長身痩躯の青年男性が2人、それぞれトランクを持って立っていた。が、何故か2人ともキースとヒースに釘付けだった。どうやら、カミラの召喚は成功だ。
「初めまして、夜寝さんと朝愛さんでしょうか?」
「「いかにも」」
「今回は急にもかかわらずお呼び出ししてすみません。呼びかけに応じて下さり感謝します。多々楽の知り合いの魔女カミラです。」
「あぁ、聞いているぞ。森林の魔女」
「いつもこちらこそ世話になっています」
召喚で急遽呼び出したが、2人ともしっかり旅支度を済ませてきたようだ。カミラは2人から、手土産の紙袋を渡される。
「初めまして、夜寝様と朝愛様。
僕はカミラの使い魔でハーフ人狼のヒース。よろしく」
「俺はハーフ人狼のキース。こちらは楓」
失礼のないよう、ヒースとキースも折を見て挨拶する。楓は会釈するように頭を下げた。
「なるほど、貴殿らは人狼のハーフか。通りで芳しい香りがしている。私はヴァンパイアの夜寝という。これからよろしく」
「初めまして。私、朝愛と申します。お目にかかれて光栄です。こちらはニアです」
恭しく夜寝がキースの手を、朝愛がヒースの手を取り礼をする。何故か2人とも双子に対する距離が近い。また、2人が連れてきたコウモリのニアも楓との距離が近い。
(ぬ?これはまさか、そのまさかかしら??
デジャヴが。…獣血好きの偏食家?!)
とある事に気づき、カミラが慌てて声をかけたその時。
「まっ!」
「「お近づきの印に。」」
カリリ、ペロリ
「「?!!」」
(あちゃー、やられたわ。流石、タダラの親友なだけあるわ。類は友を呼ぶのね…あら?)
ポワン!
「アホー!アホー!アホー!カァァ!!!」
夜寝にキースが、朝愛にヒースが挨拶と見せかけて手を軽く口づけられ噛まれた瞬間、なんと楓が即座に反応し術を行使した。すぐに威嚇し、キースとヒースの間に移動した後、翼を目一杯広げて2人の視界を遮る。そして、夜寝と朝愛に目線を合わせると、楓の目の色が黒から翡翠色に変わった。
「「…ッハ!!!」」
次の瞬間には、夜寝と朝愛の目が緋色から深い紫色に変化して落ち着いた様子に変わる。
「すまない、極上の血を前に少々取り乱した。私とした事が、おかしいな。」
「驚かせて申し訳ありません、いきなり距離を縮めすぎました。時間が必要ですよね」
「どこから突っ込めば良いのかしら。
楓、よくやったわ。ありがとう!」
楓はまだ臨戦体制でキースの肩に留まって、2人に翡翠色の眼で睨みを効かせていた。
目の前の急展開を尻目に、当事者のはずなのに蚊帳の外状態となった店主は静かに場が落ち着くまで待っていた。追加のお茶を給仕する秘書を捕まえて呟く。
「えらい事になったかもしれぬ。」
「同感です。ですが、この上なく頼もしい限りではありませんか。渡りに船です」
「確かに」
目でアイコンタクトをしたのち、後ろを向き会話する。
(キースさんとヒースさんはハーフ人狼?!しかも吸血鬼まで増えたぞ。しかし、この空気ではとても突っ込めない!!!)
(今は堪えましょう、そんなのは後です)
小声でそんな会話をこっそりした。
タダラのお友達もキャラが濃くて一筋縄ではいかなかった。なぜこうなったのか。まだ続きます。