5.村到着 まずは甘味休憩と買い出しから
そろそろ村に着いてほしいと願うものの、おっとりのんびりカミラさんは流石としか言えない。もし良ければ、しばし、お付き合いください。
晴れて気持ちの良い山道を進んでいく一行はちょいちょい出くわす魔物を然程苦労せずにあしらいながら先へ進む。歩く事、小一時間。まだまだ余力を残していたが、カミラが珍しい植物の群生地を偶然発見してしまい、強制休憩となった。
「ハァ〜、こうも晴れてると気持ちいいけど森じゃなくて山だからか、歩きづらいな。」
「斜面が急な所ほど魔物が飛び出してくるのがなー。これから行く村は初めてだけど、ボクらの住んでた村とはだいぶ違うかもしれないね」
キースとヒースは切り株に腰掛けてポーションを飲みつつ話し始める。
「予想以上に魔物がうじゃうじゃしてて、これじゃあ行き来もしにくいし、周りの集落から切り離されるよな。どうやって生活してるんだ?」
「筋肉ムキムキの凄腕行商人が定期的に来るとか?」
「人が住むにしては過酷な環境すぎるんだよな、絶対」
「うーむ。行けばわかるんじゃない?」
「だよな」
迅速に慣れた手つきで植物を採取し、マップに印をつけ始めたカミラを尻目に2人は話していたが、結局答えは行ってみないとわからない、だった。楓はカミラを手伝っている。
「ふー!満足!!!2人ともお待たせ」
「「ハーイ、じゃあ行こう」」
カミラがやっと満足し、また歩く事3時間。やっと山の頂上を超えて下り坂となってきた辺りだが、まだ村は見えない。カミラによれば村は歩いていると急に見えてくるそうなので、その言葉を信じて先に進む。再び歩く事2時間、やっと村が見えてきた。
魔物をそれなりの数倒しながら来た為、素材が沢山ゲットできた。カミラは採取も出来、ほくほく顔である。魔物も険しい道も何のその、むしろ普段よりイキイキしている、まである。キースとヒースと楓も元気ではあるがカミラ程慣れてはいない為、多少疲れていた。そのタイミングでの村到着は大変嬉しかった。丁度3時のおやつの時間である。
「甘いもの食べた〜い」
「確かにどこかで休憩したいな」
「そうねぇ、でも、先に宿かしら?」
「カァァカァァ」
カミラ一行は宿に向かう事にした。3人と1匹で特段目立ってはいないがキースは時折視線を感じた。違和感はあるものの、相棒のヒースは普通だし周りの人混みは特にいつも通りなので、ひとまず様子を見る事にした。
「アラァ、カミラちゃんじゃないか!
今年も来てくれたのかい?待ってたよ」
「あ、リエラさん!お久しぶりです〜!
今日も泊まって行っていいですか?
例年通り4泊5日でお願いします」
「あいよ、承りましたー!
これが鍵ね、じゃあこっちの部屋を使いな」
ジャラリ、とチャームが鎖についた重めの鍵を渡された。どうやらいつもより大きい部屋を貸してくれたようだ。いつも借りる部屋の鍵より大きい鍵を渡され、アメニティが入ったカゴも渡された。
「今回は4人部屋だ。浴室付きだから、カゴの水魔石を使っておくれ。最近物騒だから、夜は必ずしっかり戸締まりするんだよ。ここの宿のドアと壁と鍵は特注だから、安心してね。ただ変な輩が半年前より増えたんだ。女の子だし、注意するに越したことはないよ」
優しい宿の店主に頭が上がらない。
「ご丁寧に、ありがとうございます」
「「数日間、何卒よろしくお願いいたします」」
「カァ!」
全員でお礼を伝えて、上階に上がる。
ひとまず部屋を確認して、軽く休憩して身支度してから街に出かける事となった。部屋は綺麗に清掃されており、広々としている。4人部屋は2段ベットが2つ置かれている部屋だった。下にはソファとテーブルが置かれており、くつろげる。簡易のキッチンと浴室があり、バスタブもあった。中々の充実具合である。
お風呂は夜に入るとして、ひとまず甘味を味わう事にする。各々手早く街歩きスタイルに着替えた。キースとヒースは先ほどの雨除けケープはそのままに、帽子を被り耳を隠した。ケープで尻尾も見えない。
「じゃあ、改めて観光かな?ワーイ」
「そうね、何を食べたいかしら」
「多分、見たところ素朴な村だぞ」
パンケーキを朝食に食べて、お昼は軽く食べたが甘いものは別腹なのである。そんな訳で村の中を歩いて見て回る。すると、素敵な喫茶店を発見。一行は中に入る。
「いらっしゃい〜」
「あ、4人です」
「こちらにどうぞー」
座敷に通され、三色団子を頼んだ。
「素朴な味わいがまたよし。紅茶に合う」
「この三色団子、香りが良いな」
「ハーブかしら?お花も混ぜてるわね」
「カァァァ」
それぞれ団子を口に放り込みつつ、感想を述べる。思いの外美味しかった為、おかわりをしてしまった。
お腹がいっぱいになった一行は、なんやかんやあり村の中央広場で青空市をする事になった。なんでも毎年、カミラがここに物資を運び、またここの特産品を自分の里に運んでいるとかで、村に来るとまず翌日に青空市を開く。
(筋肉ムキムキの行商人、カミラじゃない?)
(他にもいるとは思うが、カミラもその1人だな)
カミラは100年に一度ではあるが、村長から許可は取っており、何なら末永くよろしくと言われていた。そんなこんなで、今回も村長の家に立ち寄り村人へ青空市をする旨の周知をお願いしておく。そして翌日に備えて、カミラは手持ちのアイテム整理に勤しもうとした。青空市に必要なのは商品を並べる用の敷物なのだが、カミラは毎回ここの村で買っており、新調するのを楽しみにしていた。
さて、敷物屋に移動した一行は、店内に所狭しと置かれた色鮮やかな絨毯の山に驚く。数が多い為、乱雑に置かれているように見えるがどれも上物だ。
「何これ、スゴイ!!!綺麗ー!」
「目に痛いくらいだ」
「カァァァー!」
「今日はお気に入りの物を1つプレゼントしちゃうわよ〜。さぁ、選んで。30分後に入口前集合ね」
ワーイ、と喜ぶ一同は早速御目当ての物を探すべく四方へ散らばった。カミラは前回空色のカーペットを買ったので、今回はそれ以外にしようと考えている。昨日のツリーハウスのラグは実家の特産品であるが、春夏に使えるような明るいカラーの物も良いかもしれない。リビングに敷ける大判の物も捨てがたい。カミラは色々考えてしまう。すると、白髪混じりの初老の男性に声をかけられた。
「カミラ様でしょうか。前店主から伝え聞いております。また来てくださったのですね。私、現店主のバビノアです。奥の間にどうぞ」
「まぁ!ご丁寧にありがとうございます。バビルノ様には素敵な一枚を頂いたの。バビノア様、今日はありがとうございます。では、お言葉に甘えようかしら」
店の奥の方、客間の一室に案内される。テラコッタの床に贅沢な敷物が敷かれ、真ん中に座卓が置かれており、クッションが周辺に置かれていた。天蓋付きでリゾートテイストである。お洒落なティーセットでもてなされた。
「カミラ様、此度も村にお越しいただき、ありがとうございます。実はお伝えしたい事があります。」
「こちらこそ、いつもありがとう。あらまぁ、何でしょうか。」
「今この村は、夜な夜な人を喰らう人狼が出るのです。魔女様も、例外ではありません」
「え?少し待ってちょうだい、そういう事なら従者たちを呼んでくるわ。」
「あぁ、こちらで。」
店主が手を2回打つと、近くに控えていた秘書が部屋を出ていく。
「ちなみにそれはいつ頃から?
前に来た時は普通に平和だったと思うのだけれど」
「100年前はまだ。ちょうど3年前の話です。1人が変死で見つかり、1年後にまた変死する者が3人でました。今年に入ってからはすでに5人です。まだ増える見込みで、その手口から満月の夜に変身する人狼か、闇の眷属の吸血鬼の仕業じゃ無いか、と村人は怯えております。」
「まぁまぁ!何て事なの!!」
「バビノア様、お連れ様をお呼びしました」
店主とカミラが話し込んでいると、いくつか絨毯を握りしめたキースとヒース、少し変わったハンカチをいくつか入れたカゴを握りしめる楓が来た。楓は来店の時点で店専用の靴下を履いており、補助の従業員がハンカチを入れてくれるスタイルだったようだ。
「話をする前にお買い物を済ませちゃいましょう!」
奥の間がとても広い為、店主の勧めでそこに大判の敷き布を広げて、各々が握りしめている選びきれていない商品を並べる。カミラは店主と話している間に偶然目に入った天蓋の布色を気に入った為、同色で例年購入しているサイズのものを買い求めた。もはや来慣れており即決である。
キースとヒースはそれぞれ3つまで絞ったが、真剣に3つの中から1つを選ぼうとしており、楓はサラリと肌触りの良い大判のハンカチーフにするか、それとも肉厚のフワフワふかふかなタオルハンカチにするかで迷っているようだ。楓についてはもはや2つ共買ってもいいような気がする。
キースは吟味の末、ブルーグラデーションに銀糸のアクセントが入った絨毯を選んだ。ヒースはグリーングラデーションに金糸のアクセントが入ったものを選んでいた。どちらも細かい唐草紋様入りの凝ったデザインで結果的には色違いのお揃いを選んでいた。2人ともほのかに光沢感があり、分厚くて丈夫な絨毯を店主に確認して勧められたのがそれだったのだ。これはカミラからのプレゼントという事で、他に追加で小物を各々買い込んだ。
「沢山のお買い上げ、誠にありがとうございます」
店主は現金な事にほくほく顔だった。
やっと本題!と思いましたが、その前に当初の目的をちゃっかり果たす面々。可愛い絨毯は見るだけでも楽しいです。