表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気弱少女と機械仕掛けの戦士【ファンアート、レビュー多数!】  作者: 円宮 模人
エピソード2 廃棄都市 激闘編
75/137

第二十六話:少女と立坑と執念の追跡者

〇廃棄都市 使途不明の地下トンネル 立坑


 暗闇の中での無重力。


 ふわりと頼りない感覚が、突き刺すような恐怖を産む。


 アオイの眼前のゴーグルモニターに映るのは仄暗い縦穴。見上げると、入り口は見る間に小さくなる。


「落ちる! 落ちるよ! ソウ!」

「アオイ! 掴め!」


 見ればソウ機が手を伸ばしてきた。


「分かった!」


 ソウ機の手を取った。だが、迫りくる底を見て我に返る。


「いや!? 掴んでもどうしようもないよ!?」

「いいから離すな!」


 そして、ソウはくるりと機体を回す。直後、ソウ機背面の偏向推進翼(アサルトウィング)が輝いた。


「うわ!?」


 そして、アオイとソウの機体が側壁へぶつかる。


「うぅ!?」


 視界を火花が覆った。身体に重力が戻る。


 ギャリギャリと壁をこする不快な音で、ソウが摩擦ブレーキをかけている事を理解した。


「すごい! すごいよ、ソウ!」

「感想よりも偏向推進翼(アサルトウィング)を! 減速が不十分だ!」

「わ、分かった!」


 急いで手元の仮想スイッチを押す。モニターに偏向推進翼(アサルトウィング)の出力上昇が示されると、背中から突き飛ばされるような勢いが生まれた。それに応じて、壁面と腕部から舞い散る火花が倍増する。倍化した重力が体を襲う。


(ぐぅぅぅ!)


 だが、それでも速度を殺しきれず、立坑の底が迫りくる。


「床が! ぶつかるよ!?」

「投げるぞ!」

「え!?」


 ぐいっと引っ張られる感覚のあと、視界が回転した。本当に投げられたと理解したのは一瞬後だった。


「ちょ!? ちょちょ!?」


 チラリとコンテナが見えた。あ、と思う間もなく、蹴り飛ばされたような衝撃が、背中から突き抜ける。


「かふっ!?」


 肺から息が抜けるようだった。すぐ横にソウ機が降り立った。全身の痛みが、死んではいない事を知らせている。


「ゲホ。助かった……?」


 クラクラする頭を押さえて体を起こす。シノブのサーバル(ナイン)そばに降下してくる。ソウと同じようにアサルトウィングでブレーキをかけたようだった。


「ソウ、アオイ! 大丈夫か!?」

「支障はありません」

「無事ですけど、体中が痛い……」


 視界一杯の粉塵が晴れてきて見えたのは、三百六十度を囲む壁と随分と高い曇天だった。


「本当にあそこから落ちて、助かったんだ……」


 今更になって現実を理解する。だが、何のための穴なのか。それは見当もつかなかった。


「ここは……?」

「分かんねえ……」

「でも、とりあえずみんな無事でよかった……」


 無事だった事に安堵の息をつく。直後に、上から不快な摩擦音。


「何の音?」


 見上げる先に、小さな火花が輝いている。凝視するにしたがって拡大される映像。そこにはタケチのシドウ八式が火花を散らしながら降下していた。


「あれは!?」

「追って来やがった!?」


 タケチのシドウ八式は、片手を離し、サブマシンガンを取り出した。慌ててコンテナの影へ機体を押し込める。


 ヘッドホン越しに聞こえるシノブの声は、いやに冷静だった。


「追ってきた? アタシたちを撃破しに? なぜ?」


 シノブの呟きを聞いて不自然さに気づく。強盗目的ならば追ってくる必要はない。シノブが独り言を続ける。


「……何を企んでいる? くそ。とにかく撃退しねえと。お前たち、打って出るぞ」


 相手はソウと互角に渡り合える相手だった。迫る脅威の大きさを思い出し、手に力が籠る。


「着地を狙う。耳でタイミングを計る。合図と一緒に飛び出ろ」


 邪魔はいけないと無言で頷く。


「五、四、三、二、一、今!」


 サーバル(ナイン)の後を追い、飛び出した。火花を追いかけて、青い弾道予測線を合わせる。直後、タケチのシドウ八式が着地する。


「てぇ!」


 トリガーを絞る。だが、弾道予測線の先にいたシドウ八式の影が消えた。


「速い!」


 着地の衝撃を感じさせない、軽やかな横跳びだった。シドウ八式は跳んだ勢いのまま駆け、近くにあったコンテナに隠れた。シノブが舌打ちをしたが、すぐに次の一手を指示する。


「取り囲むぞ! 展開!」

「了解!」


 銃口を下げて近づこうとした時、影がコンテナを飛び越えてきた。シドウ一式では到底無理な跳躍力だ。


「なんて性能!?」

「アタシが出る!」


 気迫十分なシノブの声とは対照的に、サーバル(ナイン)の動きはぎこちない。だらりと垂れた右腕に、機体全部が引っ張られているようだった。


「腕が!? くそ!」


 ソウのシドウ一式が、サーバル(ナイン)を追い越した。


「オレが!」

「戻れ!」


 シノブの裂帛(れっぱく)にも、ソウは耳を貸さない。ソウは着地のスキを狙って蹴りを繰り出すが、シドウ八式は上体を半身にねじって回避した。


 追おうとするサーバル(ナイン)の肩部を掴む。


「シノブさん! ソウに任せましょう!」

「できるか! お前たちを危険には――」

「そのサーバルじゃ無理です! それに、近距離戦闘ならソウが――」

「お前! あいつを危険に――」


 装甲と装甲がぶつかる激音。問答を(さえぎ)ったのは、ソウとタケチの格闘だった。


 八式が一足飛びに間合いを詰めて、正拳を繰り出す。ソウ機は逃げる訳でもなく、腰を落とした。


「ならば」


 二機の影が交差した瞬間に、シドウ八式が派手に転げ、勢いのまま壁に激突した。


「アオイ!」

「分かった!」


 何をと言わずとも銃撃を加える。驚きが口の中で転げた。


(出足を払った! しかも勢いを殺さずに!)


 さり気なく、それでいて曲芸じみた技だった。弾道予測線(ブルーライン)の先で、シドウ八式が素早く立ち上がる。直後に飛び退いて、コンテナに身を隠した。


 スピーカー越しのタケチの声が、立坑に低く響いた。


「お前……。何者だ?」


 問われたソウがサーバル(ナイン)を見る。通信はできないため、サーバル(ナイン)が片腕で承諾のハンドシグナルを返した。


 ソウの声がタケチの問いに応じる。


「何者とは?」

「その動き。ソフトウェアではない。もっと自由だ」


 問答の間にサーバル(ナイン)がぎこちなく銃を構えた。今のうちに準備を整える気だと悟り、自分もやるべき事を振り返る。


 途中、ソウ機がこちらを向いた。非効率な問答を嫌うソウの性格を察して、機体でジェスチャーを送る。


(時間を稼いで!)


 ソウ機が静かにうなずく。


 その間に、軽機関銃に箱型弾倉を突っ込む。サーバル(ナイン)も不自由な片腕に時折ふら付きながら、脇に挟むようにアサルトライフルを構えた。


 じりじりとタケチを取り囲むよう移動する間も、ソウは会話を続ける。


「だとすれば?」

「素晴らしい」

「何? 発言の意図が不明」

「どれほど積み上げたのか。その鉄のような魂は、大志に捧げられるべきだ」

「繰り返す。発言の意図が不明」

「我々と共に在れば、フソウを素晴らしい国に出来るぞ。ただの武装警備員で良いのか? そういう問いだ」

「要約すれば、勧誘ということか?」

「そうだ」

「拒否する。トモエさんへの恩義もあるし、相棒もいる」

「残念だ……。仕方あるまい。やるしかないか」

「いくらでも対処するが?」

「あれが本気と思われては困る」


 タケチの言葉を聞き、緊張を高める。シノブの合図を伺おうとサーバル(ナイン)を向く。


 だが、当のサーバル(ナイン)はあらぬ方向を向いていた。


 同じ方向を向けば、闇をたたえた横穴が見える。


「シノブさんは何を?」


 直後、闇の奥に無数の赤い光点が見えた。


攻性獣(こうせいじゅう)!?」


 慌てて他の横穴も見る。そこにも赤い光点があった。


「そっちからも!?」


 横穴から這い出てきたのは軽甲蟻の大群だった。盾のような頭部に赤い三つ目をともしながら、凶悪な太さの六脚で坑道を踏み揺らす。


 シノブの舌打ちが聞こえた。


「ち! 応戦するぞ!」


 タケチにも注意を払うが、そちらはそちらで攻性獣と交戦していた。何に注意を払うべきかと迷っている所に、シノブの声が響いた。


「固まれ! 背を合わせろ!」


 慌てて、サーバル(ナイン)の元へ向かう。


 背中を合わせるように振り返ると、無数の敵性存在表示(レッドマーカー)が目に飛び込んでくる。


「こんなに!?」


 必死で銃火を浴びせ続ける。みるみる減っていく弾薬に神経が削られるが、潰されないためには必要と言い聞かせる。


「なんとか――」


 そう言い掛けた矢先だった。ビキリ、と嫌な音。


「な、なんの音!?」


 悪寒を感じて見上げる。


「あれは……!?」


 縦穴の壁にヒビが見えた。


 今も黒いジグザグが染み込むように壁へ広がっていく。骨材と壁が呻くような鈍い音を立て、傾き始めた。


「ま、まずい!」


 とうとう限界を越え、大きな塊が落ちてきた。


「潰されたら!?」


 頭上に落ちる壁材を辛うじて避ける。


「アオイ、ソウ! 横穴へ逃げるぞ!」


 轟音とともに積もった粉塵が掻き分けながら、声のする方へ機体を駆けさせる。すぐ後ろに岩塊が落ちるのを感じながら、横道へ飛び込む。


 アオイたちが逃げた後も縦穴の崩壊は連鎖し、完全に埋まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
シノブさんはソウくん達に危険なめにあわせたくないあまり、自分が危険を冒そうとしてしまうという問題に自覚はあるようなのに、どうしても上手く割り切れないんですね(;´・ω・) これの解決には、シノブさんに…
[良い点] いつもながら、息を吐かせないテンポ。 時間が許せば、一気に拝読したい……。 アオイとソウの息が、以前よりも合っているように思いました。 アオイが成長しているのかな? [気になる点] くの字…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ