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気弱少女と機械仕掛けの戦士【ファンアート、レビュー多数!】  作者: 円宮 模人
エピソード2 廃棄都市 資源採取戦編
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第九話 少女と落とし穴と潜む罠

〇資源採取戦 廃棄都市 水没区画


 水面を穿(うが)つ黒の穴。その周りを渦が巻いていた。


「穴!? なんで!?」


 大渦の周りで、シノブ機とソウ機がよろめいている。勢いは、人戦機の足元をすくうほどだ。直後、ヘッドホンにソウの声。


「どこかが崩壊したか!?」

「ソウ! 絶対に落ちるな!」


 投擲によって、穴を塞いでいた建物が壊れたと判断した。


(しまった! ボクが遅かったから!? 急がないと!)


 二機がよろめく周りを三つの白波が回っていた。直後、白波の一つがソウ機へ飛び掛かる。


「ソウ!」


 だが、ソウのシドウ一式は攻性獣を受け止めた。そして、水しぶきに隠されていた姿が(あらわ)になる。


「何あれ!? 水蛇!? 海竜!?」


 一見すると、攻性獣は白磁の輝きを持つ水龍のようだった。しかし、目を凝らせばその異様さに息を呑む。


 細長い胴体は水蛇、海竜のような平たいヒレは三対六本、無数の牙が並ぶ顎はサメ。水中も水上も行動可能な形態だが、調和のなさが気持ち悪い。加えて、甲殻と魚鱗が混ざり合う表皮が、より一層のグロテスクさを醸し出していた。


 白磁の龍などという幻想的な印象はあっという間に吹き飛ぶ。


 大海蛇(シーサーペント)型攻性獣が赤い瞳を輝かせ、ソウ機へ嚙みつこうしている。焦りに戸惑う時、シノブの叫びが耳を打つ。


「アタシの事、忘れてんぜ!」


 大海蛇(シーサーペント)型攻性獣の横っ腹に、サーバル(ナイン)の跳び蹴りが突き刺さる。


 吹っ飛んだ大海蛇(シーサーペント)型攻性獣は、群れへ戻る。だが、攻性獣(こうせいじゅう)は諦めない。獲物を狙う肉食獣の如く、ソウ機とシノブ機の周りを、再び旋回している。


 援護に入ろうと弾道予測線を向ける。だが、人戦機と重なる度に明滅する射撃不可の表示。


「ダメだ! セーフティがかかる!」


 大海蛇(シーサーペント)型攻性獣と二機の位置は激しく入れ替わっており、どうやっても誤射になる。撃ちあぐねている間に、攻性獣は代わる代わる飛び掛かっていた。


「ソウ! 避けろ!」

「了解」


 二機は余裕をもって回避している。しかし、反撃に出ようとしても、水しぶきのせいか、銃撃は当たらない。らちが明かないと判断したシノブは、腰を落とす。


「ソウ! アタシが受け止める! 撃て!」


 大海蛇(シーサーペント)型攻性獣が、動きを止めたサーバル(ナイン)に飛びかかる。だが、準備万端のサーバル(ナイン)がそれを受け止めた。ソウ機が素早く銃口を向ける。


「了解」


 銃声と甲殻を打つ音と共に、大海蛇(シーサーペント)型攻性獣が身をよじらせた。受け止める手が空いた隙に、サーバル(ナイン)が攻性獣の懐へ入る。


「邪魔なんだよ!」


 シノブの叫びと共に、タックルが決まる。大海蛇(シーサーペント)型攻性獣が、大穴近くに吹っ飛んだ。


 大海蛇(シーサーペント)型攻性獣は着水とともに水流に呑まれ、長い巨躯がずるずると大穴へ引き込まれる。その姿が完全に落ちるのに、数秒もかからなかった。


 その間に、何とかソウ機とシノブ機の近くまで駆け寄る。


「シノブさん! 遅れてすみません!」

「後で訓練な! それより、まだいる! 油断するな!」


 残り二体が、周囲を回る。


 うちの一体が間髪入れずにソウ機へ飛びかかった。再び露になった異形。大口に生えそろう無数の牙に息を呑む。


 しかし、ソウは平静な呟きを一つしただけ。


「単調だな」


 直後、ソウ機の鮮やかな後ろ回し蹴りが頭部に炸裂した。轟音と共に大海蛇(シーサーペント)型攻性獣が水面を転げる。


「そのまま落ちろ」


 蹴りの回転が残ったまま振り向いて銃撃。僅かな照準時間にも関わらず、弾丸は転げる大海蛇(シーサーペント)型攻性獣に当たった。


 着弾でその勢いが増す。そして、二体目の大海蛇(シーサーペント)型攻性獣も大穴へ落ちて行った。


「想定どおりか」


 ソウの平静な声。しかし、ソウ機の背後に更なる影が襲いかかる。


「ソウ!」

「なん――」


 最後の一体がしぶきを上げて飛びかかる。大海蛇(シーサーペント)型攻性獣に似ているが、そのサイズは今までの二倍はある。


 大海龍(レヴィアタン)とも思える威容だった。重厚な甲殻に似合わず身をくねらせ、赤い三つ目を爛々とさせる。他の攻性獣では見たことのない大きな牙と顎が、大海龍(レヴィアタン)型攻性獣の危険度を伝えてくる。


 ソウの声に焦りが乗った。


「コイツ!? 受け止め――」


 凶悪かつ巨大な牙のならんだ大口がソウ機に飛びかかる。単機では受け止めきれるか怪しい質量だった。


 ソウ機が咄嗟に飛び退く。


「くっ!?」


 だが、大海龍(レヴィアタン)型攻性獣は空振りの後、すぐに身を翻し再び襲いかかってきた。


「ならば!」


 ソウ機が水面を蹴り上げた。水飛沫と同時に舞ったのは、極太の骨材だった。足元の廃材をすくい上げたのだろうか。そんなことを考えるまもなく、ソウ機は、骨材を素早く掴み構える。


「喰らえ!」


 ソウ機は大口へ骨材をねじ込んだ。それでも勢いは止まらず、大海龍(レヴィアタン)型攻性獣がシドウ一式に激突する。


「ぐぉ!?」


 機械仕掛けの戦士は何とか踏みとどまった。水しぶきが水面へと舞い落ち、巨躯が再び露になる。白磁の巨龍が、攻撃的かつ巨大な顎と牙を食い込ませようとしていた。噛ませた骨材が徐々に曲がっていく。


「ソウ!?」


 巨大な牙と顎は、人戦機(じんせんき)と骨材を余裕でかみ砕けそうだった。骨材に加えて、ソウ機の両腕が押し返そうとしているが、それでもギリギリと音を立てて大顎が閉じていく。


 とうとう骨材にひびが入った。


「いま助け――」

「ソウ! 二秒後に飛び退け!」


 サーバル(ナイン)の方を見れば、アサルトライフルを背面にしまい、手持ちの砲を取り出すところだった。シノブの副武器、単発式グレネードランチャーである。


「いけ!」


 カシュ、と気の抜けた音と共に放たれたグレネード弾が、煙を曳いて攻性獣の腹の下へ潜り込んだ。


「ソウ! 退避!」

「了解!」


 ソウ機が跳び退くと同時に、爆発で水しぶきが舞い散る。腹の甲殻を僅かに砕かれながら、大海龍(レヴィアタン)型攻性獣が吹き飛んだ。


 盛大な水しぶきを上げて、大海龍(レヴィアタン)型攻性獣が渦の近くへ着水する。しかし、巨躯ゆえに落ちる前に動きが止まった。


 シノブの舌打ちが聞こえた。


「くそ! もう少しで落ちそうなのに!」


 それを聞いたソウが、すぐさま機体を立ち上がらせた。


「追撃します」


 数瞬前まで死地に片足を突っ込んでいたとは思えない、平静な声が響く。


「武器変更。手榴弾」


 前腕のコンテナから手榴弾を取り出すソウ機。


「時限信管。二秒後」


 言いながら振りかぶるシドウ一式が、水面を踏み抜いた。腰、肩、肘、手首と勢いを伝える見事なフォームと共に、腕が振り抜く。


「いけ!」


 矢のように飛んだ手榴弾が、大海龍(レヴィアタン)型|攻性獣の甲殻をコツンと叩いた。


「今!」


 衝撃が水面を凹ませ、爆煙が花を咲かせた。


 大海龍(レヴィアタン)型攻性獣が穴へと吹き飛ばされる。見えない底へと誘う水流が、その巨躯の大半を捉えた。


 長い白磁の身体が、大穴へズルリと落ちていく。息を呑みながらその様子を見守っていると、シノブからの連絡が入る。


「とりあえず、片付けたか」


 半透明越しの無愛想な顔が答えた。


「グレネードランチャーでの支援、助かりました」

「分隊長として当然だっつーの」


 サーバル(ナイン)がグレネードランチャーのリロードを済ませる。


「それにしても、通常弾にしておいてよかったぜ」


 アオイがその一言で首を傾げた。


「あれ? 市街地戦では煙幕弾でしたよね?」


 先ほどのダイチとナナミと戦った時、路地に立ち込めた煙はシノブがグレネードランチャーでスモークグレネードを使ったためだった。


「開けた所だと意味がないからな。煙がすぐに流されちまうし」


 サーバル(ナイン)があたりを見やる。つられて視線を向ければ、開けた水面を風が揺らしていた。


「だから変えといたのさ。また市街地に戻ったら煙幕弾に戻すが……。予定をオーバーしているな、先を急ぐぞ」

「了解」


 移動開始前に、各員が機体情報を確認する。アオイの目に映るのは、いまも音を立てて水を吸い込む大穴だった。


「ソウ。あの穴、何なんだろうね?」

「不明だ」


 相変わらずそっけない相棒の返事に苦笑するアオイ。通信を切ってコックピットでぽつりと呟く。


「どこに落ちて行ったのかな」


 それに答える者はいない。つぶやきは流れ落ちる水と共に、仄暗い穴の底へと消えていった。






〇廃棄都市 資源争奪戦指定区域 最前線


 建物が作る陰に紛れて、三機が歩を進める。水はもう無い。


 路地に迷い込んだ風が、積もりに積もった粉塵を巻き上げた。咄嗟(とっさ)に目を(つむ)って顔を覆うが、生身の体はコックピットにある事を思い出す。


 シノブとソウは何の反応も無く歩を進めていた。少しだけ気恥しくなって誤魔化し笑いをした後に、作りかけのビルを見て呟く。


「まるでワタシたちの街みたいですね」

「そりゃそうだ。ここを建設したのはフソウ系の入植者だったからな」

「そうなんですね」


 入植の尖兵、もしくはモルモットとして送り込まれたフソウ系の入植者は、病原体、資源不足、自然災害、そして攻性獣の脅威に耐え忍びながら都市を作り上げていった。この都市が出来上がっていれば、道路を埋め尽くすような活気に満ち溢れていただろう。


 しかし、その光景は幻想となってしまった。


(ここまで建てたのに、取り上げられるなんて……)


 やるせなさを押しこめて、任務に意識を集中させる。前を行くサーバル(ナイン)の背中が止まった。交差点がサーバル(ナイン)の肩越しに見える。


「音はよし……。カメラは……」


 シノブがそう言って、サーバル(ナイン)の腕にオプション装備されたチューブカメラを、交差点から覗かせた。


「カメラにも敵影なし。スリーカウントで出るぞ。三、二、一、今!」


 曲がり角から飛び出し、銃を構え、左右をさっと見回す。動く物は何もない。ホッと一息をつくとソウの声。


「なぜ、音で確認をしているのに?」

「バカ。待機してたら、万一があるんだよ。呼吸音だって抑えられたら分からねえ」

「呼吸と言う名前は不正確では? 再活性可能(リアクタブル)電解燃料液(リンゲルリキッド)との反応用酸素吸入と言った方が――」

「お前、面倒くせえな」


 シノブのため息とともに会話が打ち切られ、サーバル(ナイン)が先に進んだ。アオイも後を追いかける。


 一区画ずつ歩を進める緊張感が肩を重くする頃、シノブの声が聞こえた。通信は回復しておらず、スピーカー経由の音だった。


「そろそろ、通信途絶前に知らされた採取ポイントだ」

「敵が近い……ってことですね」

「ああ。お前たち。ちょっと静かにしていろ」


 そして次の交差点近くに到達すると、先頭を行くシノブが止まれの合図を出した。静寂があたりを包む。しばらくの後、シノブが呟いた。


「いるな。場所は変わってない……か」


 サーバル(ナイン)が集合の合図を出す。三機が固まると、至近距離限定通信が開かれた。


「敵は五区画先の大通りにいる。アタシは向かって左の、アオイとソウは右の路地から出ろ」

「さっきのダイチさんとナナミさんと戦った時の逆ですね」

「そうだ。さっきは大通りに陣取って拠点を守ったが、今度は路地から攻める番だ」


 そう言いながら手元で色々と操作するシノブ。しばらくすると、簡易マップが視界の端に表示された。


「結構手前で分かれるんですね」

「相手から見えない所からじゃないとな。しっかりやれよ。通信ドローンの展開は間に合わないからカウントで合わせる。各機準備」


 慌てて手元を見る。


 ゴーグルモニターに映る背景が消え、戦闘服を着こんだ手のひらと仮想スイッチが浮かび上がった。ボタンを押すたびに戦闘服から擬似感触が伝わる。


 いくつかの操作を経て、視界にカウントが表示された。


「ゼロになったら顔を出して射撃開始。照準を散らせ。行くぞ」


 サーバル(ナイン)が別の道を行く。不安を胸に見送った後に、前を見れば既にソウ機が進んでいた。


「ま、待って!」


 しばらく進むと、傾いた骨材がバツ字を描き路地をふさいでいた。どうしようと思っていると、ソウ機が前に出た。


「邪魔だ。どかすぞ」

「え? いいのかな?」


 何かが引っ掛かる。


「何かあるのか?」

「いや、具体的にこれ……って事は無いけど……」

「指定位置まで早く到着した方がいい」

「まぁ……確かにそうか」


 人戦機ならば軽くどかせる程度の細い建材だった。そのため、払いのけるように反射的に手を伸ばす。


 直後、モニター一面に広がるまばゆい光が、アオイの網膜を焼いた。


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― 新着の感想 ―
えっ!?これって最後爆破された!?もしかして罠!? シノブさんがすごく頼りになりますね、当然といえば当然だけど。 ソウくんは優れた戦闘技術があって、アオイちゃんは敵の分析能力がある。二人はとってもバ…
[一言] 水没都市ってロマンよなぁ でもサーペント君はあっち行って それから謎のホールもロマンあるけど怖い そして忘れぬソウの呼吸は正確ではない面倒くさい発言好き
[良い点] ケンタウロス型もそうですが、水竜型の攻性獣も殺し合ったりせずに自然と協力していく謎の連携が不気味ですね……やつら、どこから生まれているのやら……
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