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気弱少女と機械仕掛けの戦士【ファンアート、レビュー多数!】  作者: 円宮 模人
短編集:開拓星ウラシェの比較的平和な日常1
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職人と副業とマニアなお客 前編

・世界観補完を目的とした技術解説と、人物掘り下げのサイドストーリーが主になります

・ストーリー上は読み飛ばしても問題有りません

〇フソウ ドーム都市内工業区画 ファブリケーション・ラボラトリー


 半透明のドーム天井から、曇天越しの柔らかな光が差し込んでいた。優しい光の波紋は、高くそびえ立つビル群を優しく包む。


 ここは、フソウアルコロジー内の高度工業区画。


 陽光はビル群の間を乱反射して、色彩豊かな紋様を成す。一見すると無機質な美を放つビル群であるが、人工樹林の向こうには人々の生活が確かにあった。


 立ち並ぶ窓の一つから、多数の工作機械が並んだ大部屋が透けて見える。


 室内の天井は抜けるように高く、床は光沢がきらめく。所々にソファなどの休憩スペースや、討論用のテーブルとディスプレイも並んでいた。


 そこは、あらゆる三次元加工機器が設置されているファブリケーション・ラボラトリーと呼ばれる共同工作室だ。


 金属粉や樹脂を三次元形成するレーザー発振器や、成形した部品の表面仕上げを行う多関節ロボットアーム、高精度三次元塗装や切削を行う数値制御装置など個人では買えないような高級加工装置がひしめき合っている。


 装置はすべて時間貸しだ。そうすることで中小企業や個人でも思い通りの部品や製品を作れるようになっている、一種の市民共有スペースだった。


 申請すれば、ある程度の信用スコアを持った者ならば使える。それゆえ、エンジニアが休日に趣味などで何かを作る事も多かった。


 工作機器が並ぶ小綺麗な空間を突っ切って、極太一本おさげを揺らしながら歩く一人の少女がいた。


 つるりとした額とクリっとした目が特徴的で、やたらと上機嫌だ。空色のつなぎ、黒のノースリーブ、頭にゴーグルという姿から一目で職業がエンジニアと分かる。


 少女は見る者が振り返るほどの大音量で歌う。常識人に分類される人種ではない。


「ふんふんふー、今日もー、マシャシャーってー!」


 それは、サクラダ警備エンジニアのリコだった。


 リコは極太一本おさげをブンブンと振り回しながら、うきうきとした様子で歩いている。大股で元気よく歩くたびに調子があがっていく。


「改造ー、部品をー、シュバーンでー、いえい!」


 最後には謎のジャンプを決めた。


 リコが着地して得意げに顔上げると、何かに気づいた様に前方を凝視する。


「んんんー!?」


 リコの視線の先には、白に染まりきった頭髪にやや曲がった腰の男性がいた。その特徴を認めると、嬉しそうに大声を上げる。


「お! カジっさんじゃぁないっスか!?」


 リコの視線の先には、サクラダ警備の老エンジニアであるカジが居た。


「カッジさぁぁぁぁん!」


 その大声に、ファブリケーション・ラボラトリー中の人間が振り返り、ついでにカジも振り返る。リコを認めたカジは、あきれ顔で額を押さえた。


 リコが駆け寄ってくると、カジが腕を組む。


「相変わらず素っ頓狂なヤツだなぁ」

「どこがっスか!? 切れ味キャーンな感じっスよ!?」


 むやみに張った声に、周りの人間たちが何事かと視線を注ぐ。不必要な注目にうんざりしたカジが、ため息をついた。


「おめえは何しにきたんでい」

「ソウさんが色々やりたそうだから、ここで改造部品を作るっス!」

「休日だってのに物好きだなぁ。ほどほどにしとけよ」


 カジが自分の作業に戻ってしばらくすると、怪訝けげんな顔をしてリコを見る。リコはうきうきと情報端末を操り、謎の部品の設計を進めていく。


 初めは自分の作業に没頭していたカジだったが、リコが生き生きと作業をするときほど、ろくな事を考えていないことを思い出す。


 不安に眉を歪めながら、カジがリコに声を掛けた。


「……おめえ、ちゃんと本人に改造許可はとったのか?」


 無許可なんてバカな事はしないだろう。カジはそう信じたかった。リコが満面の笑みで応える。


「サプライズっス!」

「バカ野郎ぃ! 勝手に機体をいじってどうすんだ!?」

「でも、シュギューンな感じに仕上がるっスよ!?」


 リコの顔に微塵みじんの罪悪感も見られない。カジが口から唾を飛ばすほどに説教の勢いを上げた。


「このすっとこどっこいが! 使い勝手がいきなり変わったら、困るに決まってんだろう!? とにかく無しだ!」

「ええー。シュギュンなのにー」


 怒鳴られても、リコは悪びれる様子すらない。その代わりに、リコの視線がカジの背後にある作業台の上に向けられる。


「それ何スか? 随分とススンなフォルムっスけど」


 そこには戦闘ヘリの模型が多数並んでいた。大浸食前に活躍していた戦闘ヘリで、洗練された機能美を醸し出していた。


 リコの視線につられて、後ろを振り返るカジ。


「これはな、大浸食前に有った戦闘ヘリコプターってやつよ」

「どうやってそんなの作ったんスか?」

「知り合いが映像記録をサルベージしてな。それを見ながら三次元モデルを作った」

「なんかプロペラ一本にしたドローンみたいっスね」

「逆だ、逆。ヘリコプターが出来てからドローンが出来たんだ」

「へえー。じゃあずっと昔からあった兵器なんスね」


 リコが顎に手を当てて、視線を上に向ける。そして、んー、と首をかしげた後に、


「そう言えば資源採取戦とかの戦闘記録で見た事ないっスけど、どうして今は無いんスか?」

「少しは自分で考えてみろってんだ。ヒントは人戦機の再生装甲だ」

「んんー」


 リコが腕を組んで考える。徐々に唸り声が大きくなり、体をねじらせアイデアをひねり出そうとする。


 しかし、答えが浮かばなかったのか、申し訳なさそうな顔で頬を掻いた。


「分かんないっス」

「おめえ、相変わらず機械いじり以外はダメだな」

「面目ないっス」


 リコが、ぺこりと頭を下げる。


「おめえは素っ頓狂だがよう、そういう素直な所は大したもんだな」


 リコの素直さと技術の吸収力はカジも認めている。


 カジが仕方ないとボヤきながら頭をガリガリと掻き、作業台近くの椅子へ座った。そして、リコに向かって手招きをする。


「リコ。おめえもそこ座れ」

「了解っス。……と」

「じゃあ、まずは再生装甲について俺に説明してみな」

「カジさん、もう自分以上に知ってるじゃないっスか」

「人に教えるのは、また違う。そこから色々考えてみろってんだ。素っ頓狂なのは無しだ」


 だが、リコは乗り気ではない様子だ。口を尖らせて、あからさまにやる気がない。


「ええー。ギャラリーがいないと燃えないっス」

「仕方ねえなぁ……。お、ちょうどいいのが」


 カジが周りを見渡すと、赤眼鏡とポニーテール姿の女性がいた。


 ショートパンツにジャケットという活動的な格好をしており、服装のイメージどおりに快活そうな表情でキビキビと歩いている。


「カミちゃんよぉ! こっちだぜ!」


 女性は、ヒノミヤとミズシロの部下であるカミヤマだった。


 カミヤマはファブリケーション・ラボラトリーを見回していたが、カジを見つけるや否や、駆け足で寄ってくる。その顔は随分と嬉しそうだった。


「カジさん! すみません! 直での受け取りにしてもらって! もう待ちきれなかったんです!」


 カジは古い知り合いに向ける親し気な笑みを浮かべて手を挙げた。


「かまいやしねえよ。ところで、カミちゃんよ。相談があるんだが」

「なんですか?」

「こいつの話相手になっちゃくれねえか。そしたら、これ、五割引きでいいぜ?」


 カジは節くれだった指を作業台の戦闘ヘリへ向けた。


「え!? いいんですか!? 久々の作品なんですよ!?」

「構いやしねえ。どうせ空いた時間で作ってるもんだ」


 そのやり取りを見て、リコが意外そうにカジへ尋ねた。


「カジっさんてこういうの売ってたんスね。おカネ足りてないんスか?」

「趣味だ趣味。どうせデータを作った後はそんな手間が変わんねえからな。それよりもリコ。カミちゃんが椅子持ってきたら、始めな」


 カミヤマがポニーテールを揺らしながら、近くにあった椅子を寄せてくる。それを見計らって、リコがクリっとした丸目を開いた。


「じゃあ、再生装甲について話すっス」

「そもそも再生装甲ってなに? なんか名前はカッコいいけど!」

「再生装甲は、人戦機に使われている装甲で名前のとおり再生する装甲っス」


 その説明を聞いて、カミヤマが眼鏡を直しながら腰を浮かした。


「再生って、その装甲は生きてるの!?」

「違うっス」

「なんだ。じゃあどうやって再生するの?」

「再生装甲は、硬いけど砕けやすい層としなやかな層を重ねて作っているっス。衝撃を受けると硬い層が砕けるっス」

「砕けちゃったらダメじゃない?」

「いや、砕けた層に接合誘発剤と刺激を与えると元通りになるッス」

「あー、だから、再生装甲なんだ」

「その通りッス」


 その回答にやや冷静さを取り戻したカミヤマは、首をかしげる。


「あれ? なんで全部しなやかな層で作らないの?」

「しなやかな層だけだと、グニュニュ――」


 カジの目がギラリと光る。


「――じゃなかった、変形して内部まで押しつぶしてしまうからっス。そうすると内部の機械まで損傷してまうっス」


 リコがチラリとカジの方を向くと、小さくため息をついていた。冷や汗を流すリコを見ながら、カミヤマが不思議そうに口を開いた。


「じゃあ逆に、なんでわざわざ砕ける層にするの? もっと硬くて丈夫な素材ってトレージオンで作れないっけ?」

「確かに、都市を支えている超構造材とかもあるっス。でもそういう素材を使う衝撃を上手く吸収してくれないっス。受けた衝撃がスコーンって――」


 まずい。そう思ってリコがカジの方を見る。


 だが、カジは反応しなかった。安堵の息を吐きながら、リコが説明を続ける。


「裏側まで行ってしまうっス。どこかで吸収してくれる層がないと、操縦士さんを含めて中がズタズタになるっス」

「ふーん! 色々考えてるんだね!」


 そんな二人の後ろから、随分と間延びした男の声が聞こえた。


「なんでぇ。その装甲を戦闘ヘリに付けないんですかぁ」


 リコとカミヤマが振り返ると、そこには穏やかそうな顔のよく整った髪型の青年が立っていた。おとなしい青色のシャツを着た、中背中肉の青年だ。


「あ、ナカっち。どうしてここに?」


 カミヤマがメガネを直しながら口を開いた。青年は、ヒノミヤとミズシロの部下、つまりカミヤマの同僚であるナカムラだった。


 おっとりとした外見そのままの、おっとりとした口調でナカムラが応えた。


「カミヤマさんこそぉ、どうして?」

「私はカジさんの新作を引き取りに来たところだよ!」

「俺もなんですよぉ」


 ナカムラを見てカジが手を挙げた。


「おう! ナカちゃんもちょうどいい時に。さっきもカミちゃんに話してたんだがよう、うちの若えもんの話に付き合ってくれたらよう、五割引きでいいぜ」

「おお~。それはすごいですねぇ。ツイてますねぇ」

「じゃあ、話は決まりだ。そこ座んな」


 ナカムラが近くの椅子を引っ張ってきて、輪に加わる。


「よし。リコ。さっきナカちゃんが良い質問したから、考えてみな」

「えーと確か……」

「なんで戦闘ヘリに再生装甲を付けないのかって話だ」

「了解っス」


 リコが再び腕組みをしながら、頭をひねる。右へ左へ頭を振って、なんなら体ごと左右に振り始めた。だが、一向に口は開かない。


 しばらくして、とうとうリコが降参した。


「ダメっス。もうちょっとヒントが欲しいっス」

「しゃあねえなぁ。ヒントは重さだ」


 カジのヒントに皆の注目が集まった。ミリタリーに少々過剰な興味を持つ者たちの休日は、まだまだ続く。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇


キャラ紹介:リコ


奇怪で愉快なメカニック


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 再生装甲がとっても興味深いです!再生の仕組みとか、説明も分かりやすい!! 前のエピソードでソウくんが怪しいセールスマンにすごい武器を買わされた時にも、機体と武器の相性などすごく面白く分かり…
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