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ももとせのちの  作者: 山口 にま
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秘密が守れる男

 恭平は大学の帰り道、玲二の家に立ち寄った。二人の関係は高校時代、どちらか家で寝転がり、オカルト雑誌を回し読みしていた頃と変わらない。今日の玲二はTシャツとスウェットのハーフパンツと言う極めてカジュアルないでたちだ。とはいえ全てイタリアのブランドで、彼のこだわりと金回りの良さを象徴する。対して恭平は大学生が好むファストファッションだ。


「あの後、桜子ちゃんは何か言っていたか?」

「いや、何も。と言うかこっちからは聞けないよ。その話はしないようにしている」

「まあそうだろうな」

二人は催眠時の桜子の錯乱した状態を思い出す。

「あいつ、変な事言っていたな、大杉栄とか、ソフィア何とかとか」

「ソフィア・ペロフスカヤだ。まあ調べてみろ」

恭平は自分のスマートフォンでソフィア・ペロフスカヤを検索した。

「ナロードニキ運動家。皇帝が神懸ったものではなく殺害できる存在であることを示すためにテロリズムを実行。武器は発明されたばかりのダイナマイト。一八八一年ロシア皇帝アレクサンドル二世暗殺に成功、絞首刑になった。」

読み上げながら恭平の声が暗くなっていく。


 「桜子はテロリスト呼ばわりされて喜んでいたというわけか」

「正確には桜子ちゃんの前世の人格が喜んでいた」

玲二は訂正する。

「しかも大杉栄が面会に来たって言っていたな。あの人も政治的に偏っていたよな」

「ああアナーキストだ」

「アナーキストって、無政府主義か?」

「そうだ。政府は不要だなんて言うから政府に睨まれて、刑務所と娑婆を行ったり来たりだ。最後は甘粕大尉に虐殺されて古井戸に投げ込まれた」


 恭平は言葉を選びながら、自分の疑念を伝えた。

「玲二の催眠術がインチキだって言うんじゃないぜ。ただ、何て言うか、ここまで有名人の名前が出ると、桜子の思い込みというか、妄想というか」

「それはあり得るな」

玲二はあっさり認めた。

「桜子ちゃんが見たものが妄想なのか、それとも本当の前世なのか、それを証明するのが催眠療法士としての腕の見せ所さ」

「どうやって証明するんだ?」

「桜子ちゃんが語る前世の記憶につじつまが合うかどうか検証する。更に前世の本人しか知りえない情報を桜子ちゃんが知っていたら万々歳だけどな」

「本人しか知りえない情報なんて俺たちも知りえない」

「のちの調査で事実が出てきたりするさ。まだまだ研究が進んでいない女性みたいだし」

「研究?有名人なのか?」

「まあそうだな」

「誰なんだ、それは」

「言わないよ。俺の口から言う事じゃない。桜子ちゃん自身が気づかないと」

「桜子が気づくかね」

「無理して気づく必要もない。重要なのは桜子ちゃんが過去や前世を振り返って、現世でよりよく生きることだ。前世療法は占いじゃない。あくまで治療だ。エスカレーター式に行けると言っても、桜子ちゃんは一応受験生だろう?そりゃ悩みもあるさ。しかも家庭内でも肩身の狭い思いをしてきたんじゃないのか。せいぜいお前が支えてやるんだな」


 玲二は秘密が守れる男だ。桜子が一人でカウンセリングを受けに来た事実を恭平に告げなかった。



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