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ももとせのちの  作者: 山口 にま
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ワイドショー

 その日のうちに恭平は帰宅を許された。翌日は大学でも事情を聴かれ、当分の間自宅謹慎を言い渡された。

 桜子の事件は連日大きく報道された。女性レポーターはテレビカメラに向かって伝える。

「ここは緑川容疑者が今年三月まで通っていた女子大です」

背景にモザイクがかけられ、場所が特定されない配慮がされていた。

「緑川容疑者はどのような生徒でしたか」

マイクを向けられた女学生が答えた。

「色んな噂がある人で・・・・テロを肯定したり」

他の学生は

「入学早々学生運動の勧誘をしてクラスで浮いていました。友達?いなかったんじゃないですか」

「特定の政治団体と付き合いがあるらしくって・・・・政治活動を理由に大学から退学を勧められたらしいですよ」

女学生たちの口から語られるのは恭平が知らない桜子だった。親しい友達もいずにいつも一人で、噂話の標的にされ続けていた。桜子はこんなに淋しい学生生活を送っていたのかと恭平は愕然とする。桜子が女子大から退学を求められたのは真実ではない。桜子自身が他大への編入を望んでいた。


 桜子は玲二の部屋で恭平を責めた。

「あなたは私の表面しか見ていない。私が私であることを許さない」

自分は桜子を理解しようとしていただろうか。もっと桜子に寄り添っていれば彼女が犯罪者にならずに済んだのではないか。恭平は悔やんだが、全ては遅かった。二階堂教授は最早日常生活が送れないほどの重傷を負い、桜子は二十代の日々を塀の中で過ごすことになる。

 

 ワイドショーがコマーシャルになったので、恭平はチャンネルを変えた。他局も桜子の事件を追っている。そこで報じられた内容を観て、恭平は思わずソファーから立ち上がった。

「テロリストの陰にカルトあり。緑川桜子(二十一)を操った催眠洗脳!」

画面に扇動的なテロップが現れ、次いで深刻な顔をした中年男性のレポーターが都電を背景に、事件を報じた。

「叡知大学理工学部教授、二階堂毅氏が襲撃された事件で、容疑者緑川桜子が通っていた催眠療法の診療室に捜査が入りました。警察はカウンセラーH氏のパソコン、携帯電話、タブレットなどを押収。事件との関与を調べています」


 画面が切り替わり、画面に玲二と思われる青年の後ろ姿が映った。昨夜の映像であろうか、レポーターがシャッターが下りた商店街の中で玲二を追う。

「緑川容疑者はいつからこちらでカウンセリングを受けていたのですか」

玲二は何も答えない。

「彼女は催眠術を受けて、あなたを精神的指導者だと仰いでいたようですが、彼女が二階堂教授を攻撃することは知っていたんですか?」

玲二は自分のマンションに逃げるように駆け込んだ。複数のメディアがマンション前に集結していた。レポーターは玲二のマンションを背景にカメラの前に立つ。マンション名にはモザイクが掛かっていた。

「H氏の催眠術は前世療法と呼ばれ、生まれ変わる前の記憶を見せることが出来ると評判でした。緑川容疑者も、催眠術でいわゆる前世を見せられ、H氏を信奉していたようです」

玲二のサイトも放映された。玲二の顔写真には目線が入れられている。


 玲二は桜子と手を切るようにと恭平に忠告していた。

 「桜子は極左の活動家に取り込まれている」、その活動家とは二階堂教授を抗議していた軍学共同研究会だったのか。恭平は携帯電話を手に取ったが、玲二の番号をタップすることは出来なかった。恭平は警察に尋ねられるまま玲二の名前を教えた。玲二を警察に売ったのは他ならぬ恭平である。しかも今や恭平も玲二も共犯者の疑いがかけられていた。嫌疑者同士で会話をしたら口裏合わせだと思われ、警察の心証が更に悪くなる。恭平は自分を待ち構える未来を思う。そこにあるのは彼を呑み込もうと大きく口を開けた底なしの絶望だけだった。



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