オカルトが結ぶ縁
恭平と玲二は人には言えない趣味があった。
それはオカルト好きだ。高校入学早々、恭平が駅ビルにある書店でいつも買っているオカルト雑誌に手を伸ばすと、あろうことか同じ制服を着た玲二までも同じ雑誌を手に取ろうとしているではないか。二人は反射的に手を引っ込め、「あ、どうぞお先に」「君からどうぞ」と不器用に譲り合った。玲二がいつまでたっても雑誌を手に取らないので、気まずさに耐えきれなくなった恭平が先に雑誌を手に取り、レジに向かった。
翌日、恭平から玲二に話しかけた。
「君もあの雑誌の読書なの?」
玲二は顔を赤くして、「ああいうのは子どものころから好きで」と言い訳がましく言った。それが二人が友誼を結ぶきっかけとなった。
ある時互いの進路について話が及んだ。
「大学は心理学部に行きたい。そしてフロイドやユングみたいにオカルト研究したい」
それが玲二の志望だ
「神秘としか説明出来ないことが世界にはごまんとあるよな。例えばここに霊験あらたかだと言われる護符があるとする。願いが叶うのは、単に暗示にかかって願いが叶ったように思い込んでいるのか、本当に神のご加護なのか、それとも人間の心の中に目に見えぬ力があるのか、それを確かめたい。だからオカルトと同時進行で心理学を極めたいんだ」
何事にも冷淡な玲二であったが、ことオカルトに関しては言葉に熱を帯びる。
「俺は福来友吉先生の後継者として、この世に神秘現象が起きていることを科学でも非科学でも証明して見せる」
福来友吉、オカルト好きならばその名を知らぬ者はいない。催眠術が大流行していた明治期に、母校の東京帝国大で催眠心理学の研究をした学者だ。千里眼能力者の御船千鶴子や高橋貞子への透視実験で有名である。後にそれらの実験成果を出版したことが原因で彼は大学を追放されることとなった。
玲二は急に学業に精を出し、成績は常にトップを独走だ。玲二曰く
「自分で記憶術と集中法を編み出したんだ」
それらの実践なのか、玲二は休み時間を静かに座禅をして過ごした。クラスメイト達は気味悪げに玲二を見たが、玲二は意に介さず親しい友人は恭平しか作らなかった。恭平もこんな優秀で見識の深い男から自分だけが友人に選ばれたことを誇りに感じ、彼ならばフロイトもユングも福来友吉も越えられるだろうと思った。
玲二は都内の有名国立大学に、恭平は都内私立大学の理工学部にそれぞれ進学した。玲二は親戚が所有する文京区大塚のマンションで一人暮らしを始めた。
大学一年の夏休み、恭平はアルバイト先で桜子と知り合った。恭平は、髪を長く伸ばし、落ち着いた話し方をする桜子を見て自分と同じ大学生だと思っていたが、まだ高校生だと知り驚く。しかし男性を前に恥ずかし気に頬を染める桜子を目にすると、やはりまだ高校生だと納得するのだった。
二人が恋人同士になるのに時間はかからなかった。デートで立ち寄ったカフェで恭平は玲二の話をする。
「俺の親友が催眠治療のカウンセリングルームを始めてさ」
「カウンセリングルーム?その人何歳なの?」
「俺と同い年。二十歳」
「大学生が経営ねぇ。うまく行くのかしら。しかも扱っているのが催眠術」
しっかり者の桜子は学生の起業に懐疑的だ。
「普通の催眠術じゃなくって、前世療法なんだ。前世を見せられるんだって。それが当たって、あいつ今じゃ一端のカリスマ催眠療法士よ」
桜子は興味を持ったのか、急に身を乗り出した。
「私もその療法を受けたい。自分の前世を知りたいの」
桜子はオカルトや神秘世界に興味はないはずだった。しかし恋人が望むのならば願いを叶えてやりたい。そんな気持ちで恭平は桜子を玲二に引き合わせたのだった。