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ももとせのちの  作者: 山口 にま
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汚い研究

 「軍学共同断固反対!」

「学者は戦争に協力するな!」

「二階堂研究室は補助金受給を辞退せよ!」

「学生に汚い研究をさせるな!」

「私たちは軍学共同研究会です。叡知大学理工学部、二階堂研究室は従前より人工衛星の研究開発に取り組んできましたが、来年度より防衛省の補助金を受給することが決定しました。この研究は一般の人工衛星ではなく、軍事用人工衛星の研究であったことの証拠です。

 軍事衛星の用途とは何でしょう?軍事通信の中継、ミサイルの探知、そして空爆前の敵地偵察です。いかに効率よく殺戮できるか用意周到に準備した上で攻撃できるのです。そのような研究に未来ある若者を従事させて良いのでしょうか?

私たちは二階堂研究室が防衛省からの補助金を辞退し、汚い研究からきっぱりと手を引くことをここに強く要求します」

 

 叡智大学が防衛省へ補助金申請を出していた頃から抗議活動はあったが、実際に申請が通るとその抗議は激しさを増す一方だ。恭平は抗議団の前で顔を伏せて通り過ぎた。名指しで抗議を受けている二階堂教授の研究室に所属しているのは外ならぬ恭平である。

「あなたのしていることは殺し合いへの一里塚ですよ」

桜子?恭平は思わず振り向いた。しかしそこにいるのは桜子とは似ても似つかぬ還暦過ぎの女性だった。恭平が興味を示したと勘違いしたのか活動家たちはビラを渡そうと彼に近づいた。恭平は背中を丸めて校門に駆け込んだ。


 別れを告げられて五か月もたつのに、何を見ても桜子を思い出してしまう。挙句の果てにはあんな活動家にまで彼女の面影を求めるのか。重症だなと恭平は自嘲する。

 別れるにしても桜子と会って話がしたい、そう願う恭平に玲二は強固に反対し続けた。それは玲二と桜子の関係を隠したかったからだ。恭平は恋人も親友も一度に失ったのだ。

 

 恭平は毎日のように二階堂教授の研究室に顔を出し、研究を続けている。

 二階堂教授は五十代後半の、頭髪に白いものが混じる中年男だ。研究が出来て、その技術が軍事にも民間にも生かせたら一挙両得じゃないか、その程度の考えで二階堂は防衛省から補助金を受けた。

 今日も校門前で活動家が「二階堂が、二階堂が」と連呼している。しかし敷地内の一番奥にある理工学部研究棟には彼らの声は届かない。今は年度末に近い二月だ。年度が明けたら別の大学が防衛省に補助金の申請を出し、「軍学共同研究会」の抗議の対象も変わる、それが分かっているから二階堂も彼の学生たちも反論しなかった。

「世界一軽量で、電池が長持ちする人工衛星を作って特許を取る」

それが二階堂の夢だった。

 

 恭平が午後八時近くまで研究室に残りパソコンで実験データの集積をしていると、一本のメールが届いた。送り主を見て彼の心臓は裏返りそうになる。スマートフォンのディスプレイの表示は桜子だ。

「電話をしても良いでしょうか?」

宛先を間違っているのではないだろうか、恭平はまずそれを思った。とりあえず「今出先です。十時過ぎならば話せます」と返信した。


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