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ももとせのちの  作者: 山口 にま
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兵藤玲二カウンセリングルーム

 桜子は何度もスマートフォンを覗き込む。見ているのは「兵藤玲二カウンセリングルーム」のサイトだ。

 料金 カウンセリング 三十分 五千円  前世療法 二時間 二万円 ※秘密厳守


 前世の記憶が少しずつ戻ってきているが、そのすべては断片的なものだ。「何かあったら連絡して」そう言って玲二は彼女に名刺を渡した。必要ならばまた連絡してもいいと彼は言ったのだと桜子は自分を鼓舞して、緊張しながらメールを打った。

 「兵藤玲二様 先日前世療法で大変お世話になった緑川桜子です。その節はありがとうございました。色々思い出した事がありますが、それぞれの記憶をどう繋げればいいのか分からなくなりました。もしお時間があればカウンセリングをして頂けないでしょうか」

 返事はすぐに来た。

「桜子ちゃん、こんにちは。玲二です。ご連絡ありがとう。一度前世療法を受けると、後から記憶が蘇ってくることが多々あるんだ。ただあふれ出て来る記憶(前世の記憶かな?)とどう折り合いをつけて良いのか分からないだろうね。一度カウンセリングに来る?都合の良い日時を教えてくれたらスケジュールを調整します。 兵藤玲二」


 翌週の放課後、桜子は制服のまま玲二のカウンセリングルームを訪ねた。白いブラウスに紺色のひざ丈スカート、髪の毛は黒いゴムで束ねられている。品の良い女子学生そのものだ。カウンセリングとはいえ、男性の家に上がり込むなど良くなかったと桜子は落ち着かない。玲二は前回と同じように襟の付いたシャツと黒いスラックスで桜子を出迎えた。テーブルにアイスティーを出し、

「何か思い出した?」

と水を向けた。桜子は頬を赤く染めて、

「私、新聞記者だったような気がするんです。それも毎日新聞の」

と言い、照れ隠しに笑った。しかし玲二は笑わず、

「正式な社名は覚えている?」

「いえ、毎日と言う名前がついていたような気がするんですけれど。変な話ですよね、明治の男尊女卑の激しい時代に女の人が新聞記者になんてなれるはずないのに」

「能力のある女性ならば仕事があっただろうさ。催眠中に爆発物の実験を気にしていたけれど、実際にそういう物を持っていたの」

「はい仲間が隠し持っていました。私も一度見ました。空のブリキ缶で爆弾を投げつける練習もしたんですよ」

と桜子は笑う。

「誰を殺そうとしたの」

「天皇、とか」

「何でそんなことを思いついたんだろう」

「追い詰められていて。関わっていた雑誌が発禁処分を受けて、その処分を無視してまた発行したら監獄に入れられて、高額の罰金も科せられました。そんな時、信州にいる仲間が爆弾を作って天皇の馬車に投げつける計画を立てたので、飛びついたんです」

「『先生』も?」

玲二は桜子が前世療法中盛んに気にしていた『先生』について尋ねた。

「天皇暗殺計画が出た時は先生も乗り気でした。それでも、気が変わっちゃって。空き缶で攻撃の練習をしている時も、先生は上の空でした。しまいには先生は私にも計画から抜けるように説得してきました」

「それで君は?」

「辞めませんよ、私は」

そんなくだらない質問はするなと言わんばかりの返答だ。


 桜子は自らの首に触れて尋ねた。

「私、死刑になりましたよね?」

「さあ、僕に聞かれても。自覚はあるの?」

「あります。でも実際に天皇暗殺はしなかったんじゃないのかしら。それなのにどうして死刑になるのかしら」

そこが桜子が納得していないところだ。


カウンセリング終了時、玲二は料金表通り五千円を受け取った。

「今回はお金を頂くけれど、メールや電話でのカウンセリングは無料だよ。思い出した事があったら教えて欲しい。それが一番僕には嬉しい」

「ありがとうございます。あの、サイトには秘密厳守だと書いてありましたが・・・・」

「僕に口からは誰にも言わないよ。恭平にも」

玲二の言葉に桜子はほっとする。彼女は深々と頭を下げて、玲二の元を辞した。玲二は空いたグラスを片付けるとすぐさまパソコンを開いて桜子のカウンセリング内容を入力した。


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