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ももとせのちの  作者: 山口 にま
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三人の女闘士

 桜子、夏央、歌子、三人の女闘士はチェーン店の居酒屋に入った。歌子は焼き鳥盛り合わせを取ってくれた。湊の焼き鳥の方がずっとおいしい。桜子は何だか泣きたくなる。

「上の人が夏央ちゃんを褒めていたわよ、あの子の演説は素晴らしいって」

夏央は、そんなまだまだですよと恥ずかし気だ。軍学共同研究会学生部は学生が主体的に立ち上げた団体だと言われているが、既存の政治団体の「上の人」が学生をひっぱっているんだろうなと桜子はおぼろに思う。


 歌子は桜子に聞いた。

「この若さで大逆事件に興味があるなんて珍しいわね。あなたは彼らがやろうとした事についてはどう思っているの?」

「天皇暗殺についてですか?管野スガたちの企ては未遂に終わってしまいましたが、一定の成果はあったと思いますよ」

スガの転生者たる桜子は実力行使派だ。

「成果?」

「明治期は工場では十五時間労働が当たり前で休みが月に二回。子どもや女性労働者への保護なんて全くなかったではないですか。それなのにスガたちが処刑されたその年に工場法が制定されたんです。財界が強固に工場法に反対していたのに。大逆事件と無関係とは思えませんね。天皇も赤い血を流す、それを証明しようとした人々がいると言う事実が明治政府や資本家を譲歩させたんじゃないでしょうか」

おや、と言う目で歌子は桜子を見た。

「ずいぶん勉強しているわね」

そんなことありませんよ、と桜子は謙遜する。歌子は桜子を凝視し、

「管野スガもあなたみたいな人だったんじゃないの。まっすぐで」

管野スガだと言われたのはこれで三人目だ。桜子は酔っているのも手伝い、

「源治郎さんからも言われました」

と打ち明ける。

「何かきっかけがあったのかしら?」

「右翼の愛国デモに対して抗議したら」

「あなた、見かけによらず熱い物を持っているわ」

と歌子。

「どこの右翼をやっつけてやったの?」

夏央は共闘せんばかりだ。

 

 桜子は、これは笑い話ですからと前置きをして、

「カウンセラーと言うか催眠術師みたいな人からも言われました。前世が管野スガだと」

「催眠術?何それ」

歌子は笑いだす。しかし夏央は真顔で、

「それって前世療法のこと?」

「そう。進路に迷っている時に受けたんだ」

「私も受けたいな」

夏央の口調はあながち社交辞令とは思えなかった。

「前世は結構リアルに見えるから覚悟してね」

桜子は警告する。

「何が見えた?」

「死刑にされる自分とか」

「いやっ!」

夏央は反射的に声を上げた。

「でも受けて良かったと思っている。国家に対して見方が変わった。死刑にされた自分を知って、国家が国民に牙を剥くことが分かったから。私を前世の世界に導いてくれた人が、私の背中を押してくれているの。精神的な指導者みたいに」

桜子は玲二を思い浮かべながら言う。

「ふうん、スガにとっての幸徳秋水ね」

歌子は言う。桜子自身も玲二の前世は秋水ではないかと思い始めていた。

「この人です。国立大学の大学院にいるんですよ」

桜子はスマートフォンで「兵藤カウンセリングルーム」を検索し、サイトを二人に見せた。玲二は吊り上がり気味の目で閲覧者に微笑みかけている。歌子は画面をスクロールした。

「前世療法、一回二万円、いろんな商売があるのねぇ」

「動画も見ていいですよ。この人、声がすごくいいんです」

桜子の勧めで、歌子は動画を再生した。横から夏央ものぞき込む。


「あなたの悩みの原因が生まれる前にあるとしたら?私,兵藤玲二と一緒に生まれる前のあなたに会いに行きませんか?大丈夫、あなたならば過去のご自分ときっと会えますよ」


 歌子は動画の途中で桜子にスマートフォンを返した。

「な、なんだかこの人怖いわ。頭が良すぎというか」

「私もそう思いました。こっちがコントロールされそう」

それきり歌子と夏央は前世療法について聞かなくなった。



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