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ももとせのちの  作者: 山口 にま
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それぞれの離婚家庭

 台風接近中の週末。金曜日は湊でバイトだ。台風で湊が休業になることもあり得たが、桜子は源治郎と佐々木に合格を報告したかった。特に源治郎から夜間部なるものの存在を教えて貰い、外部受験を思い至った経緯がある。桜子は大雨の中湊に向かった。


 源治郎はいつものように厨房で仕込み中だ。

「この雨の中よく来たな。拭けよ。」

源治郎は桜子にタオルを渡す。彼女のバッグもサンダル履きの素足もびしょぬれだ。

「佐々木君は電車が不通で今日は来ないって。この雨でお客さん来るかなぁ」

源治郎は案じながらも時間通りに暖簾を出した。しかし源治郎の懸念通り、客足はぱったりだ。

「今日は早めに店を閉めるか。もう上げっていいけれど、今が一番雨脚が激しい時かもな」

源治郎はテレビの台風情報を見ながら言う。

「しばらく店にいます」

と桜子。客もいないし源治郎は暇そうだ。桜子はタイミングを見計らって報告する。

「来年から別の大学に行くことになりました」

厨房を片付けていた源治郎の手が止まる。

「他大の編入試験を受けたら合格したんです。元々編入先が本命でした」

「そうだったのか。やったな!」

源治郎は両手を顔の前に差し出した。桜子はすかさず駆け寄りハイタッチだ。


 「よし、合格祝いをするぞ。暖簾を入れろ」

源治郎は調理に取り掛かる。閉店した湊で二人きりの合格祝いだ。座敷のテーブルに刺身や白子の煮つけ、卵焼き、焼き鳥を並べる。桜子はエプロンを外して座敷に座った。

「すこし飲むか?」

ビールも出してくれた。

「親御さんも喜んだだろう?」

源治郎は聞いた。

「・・・合格を伝えたら眉間に皺を寄せられました。入学金が余計にかかるんで」

源治郎は一度目を見開いたが、「まあ色んな家庭があるかなら」と言って桜子のグラスにビールを注いだ。桜子は酔った勢いもあり、自分が連れ子であることを打ち明けた。

「父親と血がつながっていないんです。異父兄弟の弟がいます」

「そうか」

「両親が離婚しちゃって」

「うちと同じだな」

源治郎は苦笑する。

「本当の父親は音信不通です」

「じゃあ養育費は」

「一度も貰っていないです」

「おい、そりゃねぇだろう」

源治郎は怒った顔をする。

「お嬢さんがいるって言っていましたよね?養育費は・・・・」

「払っている。親の義務だ」

その後言いにくそうに、

「・・・・前の奥さんと離婚した原因は、彼女の浪費癖なんだ。彼女にお金を渡すとパチンコに使っちゃうから、子どもに関する金は直接俺が振り込んでいる」

「どれぐらいの頻度で面会しているんですか?」

「多い時は毎日。塾に送ってやったり、夕飯を食わせたり。最近は減ったけどな」

「源治郎さんが親権者になればよかったのに」

「俺は夜の仕事をしているから子どもが寂しい思いをするだろ?線路の向こうに娘が住んでいるから歩いても行き来できる。夫婦は書類一枚で別れられるけれど、親子はそうはいかねぇ。死ぬまで親子だ。法律上もそうなっている」


 死ぬまで親子。じゃあ私を置いて出て行った実父は今でも親なのか。私が継父に頭を下げて入学金を懇願しなければならなかった事を実父は考えたことがあるのか。桜子は俯いてテーブルの下で爪をいじりながら、

「うちじゃ誰も私の合格におめでとうなんて言いませんでしたよ」

源治郎はテーブル越しに桜子を見、

「こんなかわいい子に窮屈な思いをさせて」

桜子はまともに源治郎から見つめられて頬が熱くなる。照れ隠しにグラスのビールを飲み干した。源治郎も手酌でビールを注ぐ。


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