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ももとせのちの  作者: 山口 にま
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カリスマ催眠療法士の私生活

土曜日は昼から恭平とデートだ。桜子は昼食のオムライスを食べながら聞いた。

「そういえば恭平君は何の研究をしているんだっけ」

「いろんな機械を軽量化する研究」

「例えば?」

「時計とか」

恭平は極めて大まかに言った。彼の研究室が特許を出願することもある。だから研究内容を口外したくないのだ、それが恋人であっても。

「桜子の大学は?実習は始まった?」

「ううん、まだ。一般教養ばっかり」

「あーあ早く桜子の手料理が食べたいな」

生活科はお料理教室でも花嫁学校でもない。実習は栄養学の実験の場だ。結婚したら当然のように手の込んだ料理を要求されそうで桜子は嫌な気持ちになる。

「居酒屋で働いているから料理の腕が上がったんじゃないの?」

「全然。厨房は店長が仕切っていて、私は客席担当だもん」

自分が源治郎の味を再現できるとは思えない。やはり湊の厨房は源治郎の物だ。


 「恭平君はそろそろ就職活動を始めるの?早い人だと三年から動くって聞いたけれど」

「大学院に行こうと思っている」

「大学院?親御さんは何て言っているの?」

「親が院に行けって言ってくれた。理系だと院卒の方が就職に有利なんだ」

優しい親なんだね、桜子はそう言おうとしたが、嫌味に受け取れられそうなので言葉を呑み込んだ。その代わり、

「普通の親は子供の将来を一番に考えるよね」

と言った。うちの親は私の事は二の次三の次だがと思いながら。桜子は親に何度も頭を下げて編入試験の為の予備校費を立て替えて貰った。湊でバイトしながら少しずつ返していくつもりだ。仮にどこかの大学に編入できたとしたら、また頭を下げて入学金を払ってもらわねばならない。

「玲二も院に行くって。なんでも臨床心理士っていう院卒じゃないと取れない資格が取りたいらしい」

「そうだってね」

桜子は口を滑らす。

「何で桜子が知っているの?」

恭平は驚きを露わにする。玲二の院進学は一緒に東京監獄に行った時に聞いたのだ。勿論恭平には秘密である。

「だ、だって心理職に就きたいのならば院に進むのが普通だって何かの本で読んだから。それに国立大学ならば大学院の授業料も安いのかなって思って」

桜子は取り繕った。

「そうだな。あいつはあの通りカリスマ催眠療法士として稼いでいるから自分の学費ぐらい自分で出せるだろう」

「すごいね。玲二さんって付き合っている人はいるのかしら」

「知らん。そもそもあいつは女性と長続きしない。俺にすべてを捨てさせる女性はこの世にいるのだろうか、なんてうそぶいていやがる」

恭平は苦笑交じりに言う。いつか玲二さんにすべてを捨てさせる女はきっと現れる。その時玲二さんは本当に遠い存在になっているだろう、桜子はそんなことを考えた。

「気になるの?」

「ううん、前世療法が出来るような人はどんな人と付き合うのかなって思っただけ。そろそろ映画が始まるわ」

桜子は手首を裏返して時計を見る。こんな風に二人の週末のデートは慌ただしい。



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