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前編

 シルドは非常に裕福な生まれだった。


 途中までは順調で良い教育を受けて、大きな商会で働いて前途は有望に見えた。


 そして、結婚して子供も作り、父親が病気になって仕事を辞めてから状況が変わった。


 シルドは父親が苦しんでいるのを知って、心配になり商会を辞めて故郷に戻ることにした。


 だが、それは失敗だった。


 ワの国はウの国と百年前に戦争して負けた。


 だが、負けることで、ウの国は福祉を色濃くした政策を行って、皆が平等に福祉を得て大半が中層階級と言う奇跡のような社会体制を作った。


 だが、ここ近年は、どこの商会も工場も経営者と労働者の差が開き始めて、中層階級がいなくなり、結果として極わずかな金持ちの資本家と大多数の貧乏な労働者だけに変わっていった。


 さらに、資本家は福祉を濃くした社会を嫌い、抜け穴を見つけ法で保障されにくい労働者を作り、それだけでなく、より安い労働力を求めて海外に工場などを移した。


 その上に外国人労働者を安くワの国に入れる事でさらに安く労働者を扱うようになった。


 結果として、若い労働者を働かせ、年を取った労働者は首にして雇うことはしなかった。


 その結果、シルドは故郷で仕事を探したが、低賃金の仕事しかなく父親の病気の看病の為に、家族の為に戻ってきたのに彼の家庭は破綻した。


 妻は子供を連れて実家に去り、シルドは安い賃金の日雇い仕事で父親の面倒を見ながら働いた。


 そして、その父は亡くなった。


 彼には何も残らなかった。


 父親の治療にはお金がかかり、元妻に別れる時に財産を渡した事もあり、住んでいる家すら失った。


 そこで転機が起こった。


 世の中の財産の偏重は深刻で世界で問題になっていた。


 それはワの国を破ったウの国はさらに如実で極わずかな人間が遥かにお金を持ち実質的にウの国の大半の財を持っていた。


 そして、ワの国よりウの国は福祉が貧弱なため、貧民は窃盗をしたりしてるだけでなく未来の無い自分を見て、憂さを晴らすために麻薬に溺れるようになった。


 麻薬に逃げるくらいだから、死ぬことができない彼らは、ある日考えて銃器や剣を持ち出して死ぬために警察官に突撃した。


 麻薬で痛覚もない身体は何度撃たれても斬られても止まらず。


 彼らは警察官に自分を撃たせるために、安い密造銃を手に警察官に突撃を繰り返した。


 そう、死ぬために彼らは突撃をしていたのだ。


 それがある人物のせいで大きく変わった。


 ジョレスと言う人物は、彼らに無駄に死ぬべきでないと諭した。


 彼は皆に言うのだ。


「どうせ死ぬのなら、皆の為に死ね」


「よく考えろ。この国の金持ちは全部で数百人しかいない。勿論、身内を入れれば数千人になる。だが、この国の法律は親族全員が亡くなれば、その金は国庫が接収する。我々はその金を貧民に配れと叫べばいいのだ」


「我々が金持ちを一人一殺で殺していこう」


「特に、わが国のトリドール財閥は金持ちであるが親族は少ない。彼らの財を貧しい人々に使うために、諸君らは命を使え。この命を懸けた抗議の突撃は国にも恐怖を与え、我々貧民の為にその金を使うだろう」


 ジョレスはさらにこう言った。


「彼ら金持ちが死に絶えれば、その金は国家に入る。政治家が貧民に対しての配分をしないなら、彼らも死に絶えらせればいい」


 この言葉は貧民達の死にたがり達を刺激した。


 ジョレスは彼らの死に、貧民達の為に死ぬ英雄としての価値を与えたのだ。


 ジョレスは彼らを指揮して、突撃を繰り返した。


 これは全ての草莽も皆動いた。


 仲間ではない人も動き出した。


 同じ死ぬなら、価値のある死を。


 家族の飢えを止めたい。


 結果としてトリドール家は死に絶えた。


 そして、法律の通りその財産は国家に接収された。


 それを国民に配らないと言う選択肢はウの国家には無くなってしまった。


 実にたった一か月の間に数千人も突撃を繰り返したのだ。


 しかも、当時のバイエル警察長官は最悪のしくじりをした。


 ジョレスを殺そうとして罠にかけたは良いが、ジョレス達が爆弾を使ったせいで彼の生死は不明になった。


 間違いなく死んだはずなのだが、彼は生きていると言う声が囁かれて、いつしか彼は貧民の神になった。


 これは世界最強の国家であったウの国の治安を崩壊させた。


 これを見たワの国は慌てた。


 皆が子供を作らなくなり、急速な高齢化が始まっていたワの国はそれでも元気な安い労働力を欲して老人達は働かせず、外国人の労働者を雇い続けていた。


 だからこそ、ワの国でも起こりうると。


 最初はワの国にある警察官や役人達をその対策で使おうとした。


 だが、彼らはどちらかと言うと国の上位に当たる存在だったために、死ぬのはごめんだと拒否するものが増えた。


 一人一人ならばそれをワの国の政治として止めれただろうが、彼ら警察官や役人達は団結して抵抗した。


 結果として、死んでもいい人間が集められて新しく最前線で戦うべく組織化された。


 「死人(しびと)」とあだ名された死ぬのすら仕事になっている二級警察官だ。


 彼らは突撃してきた人間に対して、一緒に死ぬつもりで戦うのを義務付けられた。


 それに応募する人間は借金を重ねてきた人間だったり、シルドのように別れた元妻や子供達に少しでもお金を送ってやりたいとする、いつ死んでも良い人間だけだった。


 シルドの元には数年前に来た元妻からの困窮してる為の無心の手紙があった。


 だが、シルドには家も無くなり、友人宅を転々としたりして送るお金もなかった。


 だから、この仕事に応募した。


 シルドが死ねば、元妻にお金が贈られるようにして二級警察官になった。


 死ぬための仕事にシルドは就いたのだ。


 


 シルドはある程度の武術の素養があった。


 元妻や子供にお金が行くのも了承されて、すぐに現場で戦うようになった。


 最初は妻子がいるものも雇ったが、やはり死と言う事に怖気づくものが多かった。


 守るべきがいるからだ。


 だから、シルドのように死ぬために来た二級警察官は重宝された。


 ロッカールームで死人の目をしたものが並ぶ。


 彼らは皆、二級警察官だ。


「また、生き延びてしまったな」


「ああ」


 シルドの隣のボブソンがそう囁いたのでシルドが頷いた。


 ボブソンは同期だった。


 同期と言っても初老の彼らにとっては嬉しいものではなく。


 互いに死にに来ているのはお互い目でわかる。


「今日の奴、爆弾を持ってたら、一緒に行けたのにな」


 そうボブソンが苦笑した。


 彼の右手は不自由だった。


 事故で怪我したとたんに、最初こそ会社は雇ってくれてたものの、結局、思うように仕事が出来ずに彼は辞めた。


 ひょっとすると辞めざるを得ないようにされたのかもしれないとシルドは思う。


 彼の表情がそう語っていた。


 何もかも信じれないが、彼の口癖だった。


 恐らく、家族にも捨てられたのかもしれない。


 それはある意味シルドも同じだった。


 シルドもまた捨てられたようなものだったから。


 だが、その捨てられた家族を養うために、こんな馬鹿なとこにいる。


 総じて、ここの「死人(しびと)」はそんな奴ばかりではないかと思う。


 でないと国の為に死ぬ意味がない。


 死ぬ事で得る金は誰かの為のものなんだろう。


 誰もが速いか遅いかを覚悟している。 


 だから、皆の目は死んでいる。


 それに対して、突撃してくる人間は目に光がある。


 それを羨ましいと思うときもある。


 シルドの人生は無意味な人生だった。


 だが、これで死んでお金を家族に残せたらそれは意味のあるものになると思っていた。


 ここにいる「死人(しびと)」達は誰もが口にしないがそう思っていた。


 彼らの宿舎は隣だが、どの部屋も家具もほとんど無い。


 生を楽しむ人間はここに来ない。


 酒を飲みに行く奴もいない。


 少しでも金を貯めて送りたい場所があるからだ。


 泥のようになってシルドはベットに転がり込んだ。


 「死人(しびと)」と呼ばれる二級警察官が出来て、最初の方で入ったはずなのにシルドの個室はすでに前に三人の先輩が居たらしい。


 横になって寝ると壁に殴り書きで死にたいと書いてある。


 そして、その下に幸せになって欲しいと血を吐く様な殴り書きがある。


「彼は死んで満足できたのだろうか」


 ふとベットでシルドは呟く。


 それは死ぬ事で大切な人を助けたいと思う愚かな愚かな人間の業のような仕事だ。


 テレビも見ない。


 テレビで綺麗事を言う彼らは、この世界の責任を取らない。


 いつの間にか、自分の任期だけは問題なく暮らして先送りして、それでほっとする連中だけがこの国の行政を支配していた。


 金持ちは自分の懐に入ってくる金だけを喜んで、貧民がどうなろうと気にしない。


 子供がごっそり減っても、老人たちが取り残されても気にしない。


 彼らにはそんな不安が無いからだろう。


「早く死にたいな」


 シルドはいつも寝る前に呟く言葉を呟いて寝た。




 次の日の朝にまた、いつものサイレンが鳴る。


 「死人(しびと)」と呼ばれる二級警察官の仕事が入った合図だ。


「相棒。今回は政治家が狙われて突撃されてるらしいぞ。結構な数の突撃者らしいぞ」


 ボブソンがそう皺のある顔で囁いてきた。


「そうか、相棒。今日こそ死ねると良いな」


 シルドがそう無表情でボブソンに答えた。


 これがシルド達の「死人(しびと)」のいつもの会話だった。


 死ぬ為に生きているのだから、死は目的でしかない。


 シルドが現場に着くと、いつものようにボブソンも使える方の左手で銃を持った。


 シルドは剣を持った。


 突撃者は遮蔽物もない場所で突撃してくるのではなく、どうしても人がいないといけない場所とかを利用して、人や建物を遮蔽物として向かってくる。


 一般人は極力巻き込まないように彼らは動くのだ。


 だから、すでに希望を失ってしまった国民は彼らが自分を害さないのを知っているので、別に逃げもしなかった。


 突撃者は自分の命を捨てる事に誇りを持っていたからだ。


 さらに貧富の差は増えて、一般の人でも食料の配給を受けに来るものも多い。


 すでに一般の人間にとっては配給にありつく事が大切で、自分の命すら軽いものになっていた。


 配給も有限なのだ。


 早く並ばなければ食べれない。


 さらにえげつない事に最近の政治家は自分の顔を売るために、さも私が発案しましたよと言う感じで現場でボランティアのように配給を手伝うようになった。


 配給を渡しているボランティアをやっている政治家の当選率が高いと言うデータが出たからだそうだ。


 そして、それがまた狙われたらしい。


 馬鹿馬鹿しい話だ。


 死にたいものと死にたいものだけが死ぬ戦場だ。


 ボブソンの銃も一般人に当たってはいけないので、二つの針が発射されて電撃を相手に与えて倒すものだ。


 麻薬を使っている人間も電撃には弱い。


 そう考えられているとはいえ向こうは密造銃の実銃だから、馬鹿な話だ。


 少し前なら警備されていないお金持ちも狙われていたが、お金持ちは深く安全な場所に引き籠って出てこなくなった。

 

 結果として当選に血眼になっている政治家が狙われるようになった。


 彼らは表に出てくるからだろう。


「子供か? 」


 ボブソンが配給で並んでいる無表情な人の波を書き分けてやってくる相手を見て、異様な言葉を発した。


 俺も剣を構えて気が付いた。


 密造銃を持って向かって来ているのが子供だった。


 足がやや覚束ないのは、最近の貧民窟で流行っている麻薬をやってるからだろう。


 電撃なら麻薬をやっている奴の足を止められる。


 ボブソンが盾を持ち出して、相手に突撃した。


 俺と同い年の老人の「死人(しびと)」が足を引きずりながら、麻薬で足元が覚束ない相手に向かう。


 傍から見たら、単なる冗談に見えるだろう。


 配給に並んでいる人間も無表情だ。


 彼らも感情が麻痺しているのだ。


 ひどい話だ。


 こんな滑稽な話は今まで無かっただろうに。


 麻薬で歩くことがままならない相手を「死人(しびと)」と言われる身体を引きずる老人が抑え込みに行っている。


 それを誰もが無表情に見ていた。


 盾で子供を抑えるようにして、電撃銃をボブソンが撃った。


 子供は痙攣しながら密造銃を落とした。


 これでこの少年は無力化されたはずだ。


 だが、配給で並んでいたはずの帽子を深くかぶった少年がくるりと振り向くとボブソンを密造銃で撃った。


 ボブソンの横腹が何発も撃たれて痙攣した。


 それでもボブソンは盾を使って、その少年を抑え込もうとした。


「相棒。すまないな。お先だ」


 そう言うとボブソンは大量の血を吐いて動かなくなった。


 今まで死んだような目をしていたシルドが突然、それを見て弾かれた様に密造銃を持っている少年に剣を振りかざして向かった。


 同期で一緒にずっといたのだ情が無いわけではない。


「ああああああああああああああ! 」


 何か鬱屈したものが吐き出された様にシルドが叫んで突撃した。


 「死人(しびと)」になって初めてのことだ。


 死は恐ろしくない。


 ただただ、悲しかった。


 それに何かが火をつけた。


 目の前で人が死んだのに、配給の列を乱さない顔が真っ黒に暗い人々。


 シルドもそれ以上に暗い目をしていたのに、ボブソンが死んだことで殺気立った。


 始めての感覚だった。


 その少年はボブソンの盾を反対のままでシルドの剣を受けた。


 シルドは狂ったように剣を振るった。


 なぜだが分からない怒りが生じたのだ。


 盾を体当たりで弾き飛ばすと、袈裟切りに少年を斬った。


 その時、帽子が飛んだ。


「マール……」


 シルドは絶句した。


 それは彼の息子だったからだ。


「く、糞おやじかっ! 」


 血反吐を吐きながら、その少年は叫んだ。


「な、何で……」


「あんたが金を送ってくれないから母さんは死んだよっ! 」


 ふり絞るようにマールが叫んだ。


 目には凄まじい憎悪を溢れさせてだ。


「そ、そんな。これで死んでお前達にお金を送るはずだったのに……」


「この……世界を……滅ぼして……ゴフッ! 」


 シルドが呻くように言葉を続けている間に大きな大きな血の塊を吐き出したマールは動かなくなった。


「こ……こんな……馬鹿な……」


 シルドがその場でマールの死体を抱きしめて跪いた。


 すべてが終わって、本来の一級警察官とも言うべき警官が近づいてきた。


 彼らは絶対に死なない防弾仕様のパトカーで「死人(しびと)」達が突撃者達を倒すのを待っている。


「その少年の死体を渡してくれ」


 その警官はシルドにそう言った。


 だが、シルドはそんなのは気にせずにマールの死体を抱いて震えていた。


「こ、こんなのはおかしい……こんなのは間違っている……」


 シルドは涙を流し続けていた。


 暗い暗い瞳で最後に小さく小さく抱いているマールに呟いた。


「俺が代わりに、この国を滅ぼしてやる」


 それはシルドの小さな小さな決意だった。

 

 そして、それは周りにいた警官には誰にも聞こえなかった。


 ただ、うつろな目でシルドは呟き続けた。


 


 


 


 


 

 時間をおいて後編を投稿します。


 文章があらすじみたいになっちゃった。


 がんばって練習します。


 ギャグしか書けない自分を変えないと。


 悲しい。

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