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なろう作者に優しいギャル

作者: 相浦アキラ

「三原! 今日から隣の席だね! よろしく!」


「……よろしく、大友さん」


「なんか元気ないねー? そんなんじゃ女子にモテないぞ?」


「興味ない」


「またまた強がっちゃってー!」


「強がってない」


「別にいいけど。てか三原って暇な時なにやってんの?」


「……小説書いたりとか」


「へー! マジで!? すごいじゃん!」


「別に」


「いや全然すごいよー! どうやって話とか考えてるの?」


「普通に、テーマとか考えたら頭に思い浮かぶっていうか」


「へー! すごいなー! 私とか絶対無理だしー!」


「そんなに難しくないよ。大友さんも書いてみたら?」


「そうなのー? じゃあ今度書いてみようかな! それで、三原はどんな小説書いてるの? 実はウチこう見えて結構小説読むんだよー! 『小説家になろう』って所なんだけど……」


「僕もそこに投稿してる」


「マジでー!? すごいすごい! 読ませて読ませて!」


「うん。いいよ」


「ペンネームは?」


「矛盾の永劫回帰」


「へぇ……すごい名前だね」


「ありがとう」


「じゃあ、ちょっと読んでみるから」


「うん」


 ◇


 地獄という事象が存在するなら、正にこの光景そのものであろう。

 稲葉順平は想った。


 白き事象の地平面へと、Thanatosの黒き閃光が奔る。

 刹那の拡散。

 それは永久回帰を想起させる……否、永劫回帰そのものを象った、蠱惑的なまでの死の輝きであった。


 降り注ぐ妖艶なる美に、稲葉順平は想い知る。

 ――矢張り、生命という名の輪郭なぞ砂上の楼閣に過ぎないのだ。


 土の焼け焦げる匂い。

 そして――開闢の光。

 最後に自嘲を浮かべる前に、彼の命は儚くも崩れ去っていた。



 ――――。



 永劫螺旋禁書庫へと通じる石扉が、重音と共に開いていく。


「――定まったか」


 那由他の瞳を湛えた『魔』が水底に唸った。

 『魔』は那由他の瞳の内、最も紅い瞳を閉ざし、稲葉順平の顛末を幻視する。

 彼の死を想起顕在し、白々しい哀悼すら捧げる。


 そう……『魔』は既に観測を終えていた。

 つまり死のイデアが異端螺旋痕者イレギュレイターを平常化する運命は、多元宇宙の法則ですらあったのだ。

 黙示録はここで終わり、そして始まる。


 ◇


「……なにこれ?」


異端螺旋痕者イレギュレイターの永劫黙示録。構想に1年掛けたSF大作だよ。結構自信あったけど、あんまりポイント付かなかったな」


「……そうなんだ」


「何がいけなかったんだろう?」


「うーん。ちょっと暗すぎかなー」


「大友さんは明るいのが好きなの?」


「まあ、明るい方が好きかな」


「じゃあ今度は明るいの書いてみる」


「うん。頑張ってねー」


「また読んでくれる?」


「……いいよ。じゃあウチそろそろ帰るから。じゃーね!」


「あっ……さよなら!」


 ◇


「大友さん」


「なーに三原っち?」


「明るいの書いてみたんだけど……」


「えー! 見たい見たい! 見せて見せてー!」


「うん」


 ◇


 八郎君は今日もとっても元気!

 でも通学途中、大変なことが起きました!

 猫がダンプカーに引かれそうになっています!

 

「あぶなーい!」


 ――砕けた骨が、肉を切り裂いていく。

 痕に残ったのは、アスファルトに滲み広がって行く赤と鉄の匂い。


 やがて八郎君の肉体は魂の無き抜け殻と化しました。

 そんな凄惨な死の写像を黒猫だけが見つめています。


 ――すぐに魂の界面乖離が始まります。

 そして八郎君の魂が生命根源へと回帰せんとするその時……!


 一筋の光明が彼の魂を包み込みました!


「八郎! やるじゃん! 思ったより勇気があるんだね!」


 それは余りにも温かい光でした。


「八郎ってほんとすごいよ! ウチ、感動しちゃった! そんだけ勇気があるなら、絶対勇者になれるって!」


 光の粒子が美しい女神へと収束していきます。

 勝気に吊り上がりながらも、つぶらで人懐っこそうな瞳。

 右肩に流したポニーテールをふわふわとなびかせ柔らかな微笑みを浮かべる、とてつもなく美しい女神でした。

 

「八郎を異世界に転生させてあげる! ウチと一緒に冒険しようねっ!」


「うん!」


 こうして冒険が始まりました!

 まず八郎は最初にギルドに行きました。

 その途中、女神にうざいやつが話しかけてきました。


「お前いい女連れてるなー!」


「いやー! やめてー!」


 うざいやつはよく見たら魔王でした。

 八郎は魔王に言いました。


「僕の女に手を出すつもりなら、多次元宇宙運命デーモンルール改竄により、特殊輪廻への回帰を最終定義させて貰うけど?」


「くっ……こいつ、ことわりの外側から……!?」


「絶対時間六六六秒間の猶予を与えてやろう。壱、弐、参……」


「クソッ! 憶えてろ!」


 逃げていく魔王の背に向かって、八郎は独り言ちます。


「忘れようもないさ。……僕たち『魔』にとってはね」


「キャー! 八郎君! かっこいいー!」


「ふっ、別に興味ないけど?」


 こうして世界は平和になりました!

 あと八郎君と女神は、付き合うことになりました!


 めでたしめでたし!


 ◇


「どうかな? ポイントは全然つかなかったけど、結構自信あるんだ」


「うーん……前より良くなってるけど、ちょっと無理やり書いてる感じするかなあ」


「そっかー」


「てかこの女神の子、ウチに似てない?」


「えっ……!? あっ……!! いやっ! そっ……そんな事ないよ!!」


「別にいいけど」


「そっ、それより! もっと読者受けも考えたいんだけど、どうしたらいいと思う?」


「まずもうちょっと明るくしないとねー。最初は追放とか悪役令嬢とか書いてみるのもいいんじゃない?」


「追放は書いた事あるけど」


「へー! どんなの?」


「いわれのない罪で地獄に堕天させられた天使が、神々に復讐する話」


「おー! いいじゃん! カッコいいし面白さそう!」


「でも地獄で主人公が苦渋を味わう描写に10万文字くらい使ってたら、段々批判が来るようになって……」


「10万文字はちょっとねぇ……もう少し早めにざまぁさせてあげなよー」


「でもエグいシーンだとどうしても筆が乗っちゃって」


「まあ、暗いのでも好きな人はいると思うから! 好きに書けばいいんじゃない?」


「そうだね」


「でも三原の小説読んでたら、なんだかウチも書きたくなって来たなー!」


「ほんと!? 大友さんの小説、読んでみたい!」


「実は悪役令嬢ものの構想は一応あってさー! ウチに書けるかちょっと不安だけど……」


「創作の世界は甘くないからね。最初は失敗するかもしれない。それでも書き続けていれば、きっと見えてくるものがある筈だよ」


「おー! なんかカッコいいじゃん!」


「えっ……!?」


「もー何テレてんのー? 三原っちウケるんですけど!」


「……照れてないし」


「さて、今日は早めに帰って執筆しーよおっと! じゃーね三原!」


「じゃあね。頑張ってね大友さん」


「うんっ。お互い頑張ろうね!」


 ◇


「三原、おはよう!」


「おはよう」


「実は昨日の話だけど、なんとウチの小説が日間総合ランキングに乗っちゃいましたー!」


「そ、そうなんだ……」


「ほらほら、見てよー! これだよ? すごいでしょー?」


「…………」


「あっ……なんか、ごめん」


「いや、僕の方こそごめんね」


 僕は何より、大友さんを素直に祝福できない小さな自分が嫌で仕方なかった。

 机に伏して寝たふりをしながら、涙を堪えて朝礼が始まるのをただ待った。


 家に帰ったら、思う存分泣こう。

 そしてもう一度だけ明るい小説を書いてみよう。


 大友さんを笑顔に出来るような、飛び切りに明るい小説を。


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― 新着の感想 ―
[一言] いや、悲しすぎるんですけど……。
[良い点] 大友さんすこ(すこ)
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