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霹靂の魔法使い  作者: ピポット
第1章〜湖上の幽霊〜
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第三話〜恵の水〜

「くっ!暑い!」


「はぁ、あの嵐、もっかい通ってくれんかなぁ?」


 嵐竜との一戦後、彼らは再びモネーロ湖向けて歩いていた。


(おっと口が滑ったな)


 ヘイルは自分が言ったことによってラインが闘志を燃やし出したことに反省する。

 それからしばらく歩くとまっさらだった荒野にも緑が目立ち始めてきて、心なしか暑さも和らいでいくようだった。


「おい!見えたぞ」


 朦朧と歩くラインの頭に乗るヘイルは微かに見えた大きな水たまりに声を上げる。


「あぁ、漸くこの終わりなき荒野に終止符を!」


 そんなヘイルを無視しつつ、ラインは黙々と歩き続ける。数分後にはラインにも湖が認識できたようでその喜びからか再び軽やかな足取りとなる。




 バシャ、バシャ、バシャン!!


「ふぅ〜〜!!」


 水の浅くなっている所で水浴びをすることができたラインとヘイル。3日ぶり程の水浴びに生き返るようであった。


「いや〜、さっぱりした〜〜」


「嵐の時は緊張で気持ちよくともなんともなかったからな。最高だぜ!」


 それから二人は湖から上がると服を着て、辺りを見回した。


「しかし、人気(ひとけ)もそうだが動物の気配すらも感じないな。前の宿では自然豊かで生き物達も仲良く暮らしているって言ってたのにな」


「ああ、とりあえず町の方に向かってみるか?」


「うん。その方がいいだろ。今は情報収集の方が重要だ」


 その言葉通り、彼らは湖から徒歩数分のところにあるモネロという町に向かった。

 モネロはモネーロ湖の側ということもあり漁業が盛んで市場を中心に賑やかな町と言われていた。


「おい、なんだこりゃ?」


「これはひどいな」


 彼らが見たものはまるでその逆、町は静かで市場には商品も無ければ人もいない、荒廃した様子であった。


「ここもダメそうだな。次行くか」


 ラインがそう言いながら一通り見回った町を去ろうとすると、何かこちらに飛んでくるものがあった。


「ふぎゃっ!!」


 ただの小石ではあったが、物の見事にヘイルの顔面に直撃だった。


「いっーー」


「ーーお前もこの町をバカにしに来たのか!!!」


「っ!!?」


 ヘイルの怒りの叫びに被せてきたのはボロボロの布切れを纏った少年だった。年は9つ程だろうか、小さい体から出た大声にラインも目を見開いていた。


「何のことだ?それは今この町の状況と関係しているのか?」


「しらばっくれるな!今お前!ここもダメって言ってたじゃねぇか!」


(なるほど、ただの勘違いか)


 少年は涙を滲ませながらさらに訴える。


「お前みたいな奴らがいるから、湖の幽霊が俺たちを……」


 そう言いながら跪き、濡らした地面を何度も叩きながら「くそっ!くそっ!」と嗚咽を漏らしていた。


【幽霊がどうとか言ってたぞ。これは話を聞いてみる価値があるんじゃないか?】


 ラインは耳打ちでヘイルに聞いてみる。


「あぁん?知るかよ!っていうかまず謝れ!俺の顔面に石をぶつけたかについて謝れ!」


 どうやらヘイルは未だにご立腹であった。


「……ニワトリが……喋った?」


 残念ながらどうやら少年はヘイル自身の存在によって聞く耳を持たないらしい。


「イーヤ!」


「姉ちゃん!?」


 横から声がする方に目を向けるとまた粗末な服を身に纏った女性がいた。


(姉……)


「何してんのよ!?」


 イーヤと呼ばれた少年を心配するような、怒れるようなその感情が入り混じった様子で駆け寄った。

 今の構図を第三者から見ればライン達は明らかに悪役だろう。そしてそれに追い打ちかけるようにヘイルは嘴を動かす。


「おい、あんたがこの坊やの保護者かい?人の顔面に石投げておいて謝りもしないってのがそちらさんの教育かい?」


(すごいメンチ切ってんな。っていうかお前人でもないだろ)


「………ニワトリが……喋った……」


 姉の方もイーヤと同じようにヘイルが言った内容よりもヘイルの存在に注目してしまっているようだ。


(はぁ、このままじゃ全然話が進まないな)


 先程までラインの肩に乗っていたヘイルも今は姉弟の前に仁王立ちしている。お互いにすれ違ったにらみ合いであった。


(それにしてもこの子達、やけに細いな)


 そう、姉弟の体は異様に細く、骨がよくわかるほどだった。それに姉の方は顔色も悪く、目の下にも隈があった。

 そしてラインはヘイルの首を鷲掴んで持ち上げる。


「悪いな連れが煩くて」


「い、いえ。あっ、すみません。弟が迷惑をかけて」


 姉が謝るとイーヤがすぐに「こんな奴らに姉ちゃんが頭下げる必要なんてーー」と最後まで言う前に、「うるさい!!」と頭を叩かれていた。これにはイーヤも効いたようで頭を抑えては何も言わなくなった。


「さて、これは何かの縁だ。湖の幽霊について、聞かせてくれないか?」




 ドライレム領西部要塞都市アーク


 練兵場で兵士達が訓練を受けている中、その様子をじっと見ているのはドライレム領次期領主のジルクス・ドライレムであった。そしてその隣で後ろに手を組んで立っているのはジルクスの側近でソートであった。


「ジルクス様、訓練にも介入なさるおつもりですか?」


 ソートは冷めた声でジルクスに尋ねる。


「ああ、この城は俺の管轄だ。俺の手で育ててやらねば手駒にならん。それに父上の時代はすぐに終わる、これからは俺が革命を起こさねばならない」


 ジルクスはニヤつきながら楽しそうに語る。


「革命……ですか?」


「そう革命だ。過去の父上は素晴らしかった。全てがカリスマ的で圧倒的、弱きを救い、強きを誇る。そんな父上に私は憧れていた。しかし、あの事件、あの時全てが狂った」


「あの事件……」


「そうだ!10年前のあの事件だ!」


 ジルクスの怒りとも取れるその口調にソートは少し恐怖を感じた。

 ジルクスの言う10年前のあの事件とは、旧都市アークになんの前触れもなく現れたドラゴンゾンビのことである。ドラゴンゾンビによる被害は尋常ではなくその反省もあって、要塞都市が作られたのであった。


「被害の尋常さもさる事ながら父上にとっての一番の損害は我が弟、ルーカスだった。弟の死が父上にとっての負荷になり、それ以降父上の内政、外交、軍事、全てにおいて衰退していった。だからこその革命だよ。私は父上のようには失敗しない」


 その決意は本物であったとこの時のソートは感じていた。この方ならついて行きたいとそう感じるほどに。


「しかしだ。私はこれまでずっと疑問に思ってきたことがある」


「それは?」


「我が弟の死についてだよ」


「死、ですか?」


「ああそうだ。誰も見たことがないんだよ。彼の死の瞬間を」


 ソートの方に振り向き言ったその顔からは悪魔が見えた。

読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク、又はポイント評価をいただけると嬉しいです。

次回は湖の都の謎に迫ります!お楽しみに!

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