第二話〜嵐と雷〜
「お、おい……行くって、まさか……アレに?」
ヘイルはまるで信じられないモノを見るかのように身震いをし始める。
「当然だ。この旅の目的の一つ、俺は強くならなければならない。災害魔竜程度も倒さないようでは目的は果たせない」
「いや、でもーー」
「それにお前は知っているはずだ。俺の強さを」
その言葉にヘイルは黙る。ゴクリと息を呑むと、わかったと言ってラインの懐へと入り込む。
「さあて、始めるか」
ドライレム領南部ハーバー平原
整備が進んでいない砂利道を武装した男女が歩くのが見える。
二人とも20ほどの見た目で男は横を刈り上げ、背は高く、体はがっしりとしていて、女は髪を後ろで一つにまとめ上げ、体は細身でありながらもしっかりとした体幹を持っているようだった。
「しっかしいい運動になったわねーー!ゴブリンとコバルトの群れを村から遠ざけるだけとはいえ、報酬も良かったし!」
「ああ、そうだな。それに群れと言ってもそこまで大きいものでもなかったしな」
「まぁそうね。唯一強かったといえばホブゴブリンくらいかしら。 でも、アランのギフトのお陰でそこまで感じなかったけどね」
「うん。俺のギフトは俺が仲間に認定したモノの力を増幅させるものだからな、ホブゴブリン一体程度では遅れはとらん」
「ふふ、かっこいいこと言っちゃって〜。でもほんと助かったわ、ありがとう」
「いや、こちらこそ。それと誘っておいてなんだが、今日は本当に良かったのか?お前、一応貴族だろう?」
「いいのよ、公務やら何やらはお姉様とお兄様がなんとかしてくれるわ」
そして女は歩くのをやめると太陽が明るく照らす綺麗な青空を見上げる。
(それに私にはやるべきことがあるもの………ルーカス……)
「キャァァアルルゥゥ!!」
「中々手強いな」
一方で嵐竜とラインの戦いは強い雨風が打ちつける中、接戦を繰り広げていた。
「相手は風に水まで使える。こっちの分は悪いだろう」
この世界には魔素という特殊な元素が存在する。どのように特殊かと言われると、他の元素が物質を構成する実体を持つものだとすると、魔素はその真逆で実体を持たない元素なのだ。
そしてこの元素には火、水、風、土の4つの属性がそれぞれ存在する。殆どの人間、魔獣はこれらのうちの一つを必ず持っており、魔法などはこの属性魔素を介して使用される。
しかし、どんなことにも特異的なものは存在するようでこのラインという男もそのうちの一人であった。彼の持つ属性魔素は特異中の特異と呼ばれる雷の属性だった。水、風の魔素をある一定の比率で合成すると雷の属性ができると言われていて、嵐竜がその証拠なのだが、彼の場合はそもそもの魔素が雷という特異属性を持つ完全なイレギュラーであった。
しかし、属性魔素というものは必ず優劣が存在する。例えば火は風に強いが水には弱いという事が既に研究されている。そして彼の持つ雷属性にも他の属性に対して優劣が存在した。それは雷は風に弱く、水に強いだ。まさにこの嵐竜の持つ属性そのものであった。
「しかし、厄介な相手だ。風と水の合成で雷になるとは知っていたが、ここまで上手くやられるとキツイな」
ラインはすでにかなりの魔力を消耗していた。対して嵐竜はかなりの余裕を見せていた。
「加えて空を飛んでるのが厄介だな。ヘイル、お前飛べないのか?」
ラインは冗談混じりに懐に潜む鶏に聞く。
「ったく、空飛ぶ鶏なんて聞いたことあるか?」
「うーん、そもそも喋る鶏すら聞いた事ないけどな」
「俺は特殊なの!それよりどうすんだ?」
「まぁ、手段がないことはないんだが……」
ライン自分の黒い包帯を巻いた左腕に視線を送る。しかし、思い付いた考えを振り切るようにして嵐竜へと視線を戻す。
「ヘイル、しっかり掴まってろよ。少し本気を出す」
ヘイルは頷くとまた懐へ入る。
ヘイルが隠れたのを確認すると、ラインの足元から直径1メートルほどの魔法陣が浮かび上がった。
「これで決着にしてやるよ」
すると、青白い光がラインを包み込むと同時に白い稲妻がラインの周辺に現れる。
ラインは剣を握り直すとバチバチという音の直後に姿を消す。消した瞬間その姿は嵐竜の頭上にあった。
「『雷神の舞:一閃』」
嵐竜が真上のラインに気づくとその刹那、ラインの剣は嵐竜へと振り抜かれる。
その剣先が嵐竜に当たると同時に白い光に周囲は包まれていく。
「負けたな」
倒れこむラインの顔を覗き込む鶏は彼にとって中々辛い現実を突きつける。
「あのタイミングで魔法使えるのかよ」
そう、ラインが嵐竜に切り込む直前に嵐竜は風障壁を張ってきたのだ。嵐竜による高魔力の風魔法、いや、嵐竜の場合は魔法陣を介さないから魔法とも呼ばないだろう。ともかくそれと同等の雷属性の魔法であれば当然ライン達の方が分は悪いわけで、、
「まぁ相手は言っても災害魔竜。それだけ戦えれば十分だと思うけどな」
「そんなこと言ってたらいつまで経っても強くなんねぇんだよ。やるべき事があるからな」
「霊竜か……」
ヘイルはラインの言葉を聞くと彼の左腕に目を移す。
「ああ、500年も前に倒された筈の霊竜、それと俺の関係についてな」
(それと、俺がなぜ転生したのか……それもな)
「ま、今は考えたってしょうがない。強くなることがゴールに近づく一つの要素なら俺はどこまでも強くなってやるさ」
ラインは下半身を上に上げると、手と首を使って勢いよく起き上がる。
「次は必ず勝ってみせる!」
そして嵐竜が過ぎ去っていった方向へと拳を伸ばした。
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次話は遂にモネーロ湖にたどり着きます!お楽しみに!