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第九話 アーク・マディス

 草原の中にマディアラス文明の遺跡がある。マディアラス文明とは千年前に栄えた古代文明だった。


 マディアラス文明は高度な魔道技術で栄えた。だが、千年前に突如、地上から消えた。消えた原因は神の怒りに触れたためとも、魔道兵器の暴走のためとも伝えられている。

 

 だが、原因は謎に包まれていた。

 遺跡は地下五層からなっている。地下五層には悪の大魔導士ヘルフリートが住んでいた。


 武神とフィビリオは地下五層の応接室にいた。

 ヘルフリートが来る間に、武神が簡単に説明する。


「次の代行は悪の大魔導士ヘルフリートの代わりに遺跡を守る仕事よ」

「この遺跡ってマディアラス文明のものだろう? しかも、この遺跡はまだ生きているな」


 武神はいたって平然とした顔で、重要事項を告げる。

「ヘルフリートは古代魔道兵器であるアーク・マディスを使って、近くのヒラスカの街を焼き払おうとしているのよ」


 悪だとわかっても問題なかった。アーク・マディスの正体は天空に浮かぶ熱エネルギー照射装置を兼ねそなえた浮遊大陸である。


 フィビリオはレベリングのために、上空二万mに浮かぶアーク・マディスに籠もってレベル上げをした。レベル上げの仕上げの段階で熱エネルギー照射装置と戦闘して、破壊していた。


 アーク・マディスは現在、故障中である。つまり、遺跡に制御コンソールがあっても、意味がない。


(そうそう、アーク・マディスでレベル七十まで上げたんだっけ。照射装置は復活するから、何度も倒して復活させてを繰り返して、経験値を稼いだな。最後は七十に上がった記念に、完全に破壊したけどな)


 気になったので尋ねる。

「ヒラスカの街って、人口はどれくらいなんだ?」


 武神はあっけらかんとした調子で簡単に語る。

「昔より減ったけど、今でも五千人くらいは住んでいるわよ」


(アーク・マディスは壊れているからいい。だが、街一つを焼き払うって、五千人を皆殺しにする気なのか? 今度は根っからの悪人だな)


「五千人を殺すのか。ヘルフリートは街の人間に何かされたのか、(ひど)い恨みようだな」

「さあね、いちいち、人の心の中を読んだりはしないわ。ただ、ヘルフリートはかなりやる気になっている心境は確かね」


 ヘルフリートのやらんとしている悪事は失敗する展開が目に見えていた。いくら、制御装置を動かせても、肝心の本体が故障しているので不発に終わる。


 浮遊大陸に乗り込んで装置を修理すれば使えるようにはなる。だが。アーク・マディスに出現する敵のレベルは六十~七十。常人が乗り込んでいける場所ではない。


 応接の室の扉が開く。髭を生やした、禿げ頭の六十歳くらいの老人が入ってきた。

 老人は旅支度をしており、茶の外套を着ていた。


(こいつがヘルフリートか。悪の大魔導士というより、村の学習塾の先生が似合いそうだよ)

 ヘルフリートが感じのよい顔で頼む。


「待たせてすまんね。冒険者は来ないと思うけど、あと、よろしく頼むよ」

 武神が自信に満ちた顔で太鼓判を押す。


「お任せください。施設は何としても死守いたします」

 フィビリオは心の中でそっと愚痴る。


(あんたは言うだけだから、いいよ。やるのは、俺なんだけどな)

 ヘルフリートはにこにこ顔で告げる。


「キッチンとリビングは好きに使ってくれていいから、寝室は客間を使って。何かあれば召使ゴーレムに命じれば、すぐに解決するから。他に何か聞きたい内容はある?」


 重要事項なので確認する。

「万一ですが、冒険者が来たらどうしますか、殺しますか?」


 ヘルフリートはあっさりとした態度で指示する。

「侵入者の対応は任せるよ。ただ、制御室には絶対に立ち入らない、立ち入らせない、を徹底してくれ。下手に(いじ)られると計画が狂うから。じゃ、孫娘の結婚式に行ってくるけど、いい?」


(悪人だが。きちんと孫とかいるんだな。案外、孫の前では人のいいお祖父さんなのかもしれない。ヘルフリートの意外な一面を見たな)


「わかりました。行ってらっしゃい」

 ヘルフリートは転移魔法で出かけて行った。


 武神がにこやかな顔で背伸びする。

「私もこれで帰るから。あと、よろしく。間違っても慈悲の心も持って麓のヒラスカの街を助けようとは思わないようにね」


 アーク・マディスが壊れているのかを武神が知っているのかが気になった。

 だが、下手に故障を告げて、ヘルフリートと一緒に修理に行かれては困る。


 武神の強さなら、浮遊大陸の敵では相手にならない。

 余計な内容は教えない。教えずしてヒラスカの人間が助かるのなら、それもまた、運だ。


「わかっている。街の人間を助けようとは思わない。俺に必要な物はスタンプだ」

 武神は機嫌の良い態度で付け加える。


「わかればよろしい。あと、義侠心に駆られて計画より先に街を滅ぼそうとしないでよね」

(ん? 正義の心があると街を許せなくなるのか? 何だ、街の存在はヘルフリート以上に悪なのか?)


「ちょっと待て。俺が街を滅ぼすって、どういう意味だ?」

 武神の顔に『やべ、余計な内容を教えた』の文字が浮かぶ。


 武神が取り繕う。

「とにかく、街に行かなきゃいいのよ。それで全てをヘルフリートに任せればいいのよ。これは神々の決定なのよ」


 神々の決定と教えられても納得がいかない。

 さらに、武神の義侠心に駆られての発言が気になる。


「神様の決定ねえ。正しければいいんだが。大丈夫なのか?」

 武神はむっとした顔で釘を刺した。


「いい? 街に行っては駄目よ。はい、復唱」

 不承不承の態度で形だけの復唱をする。


「街に行っては駄目、と」

(神話や昔話で神様に絶対ダメと釘を刺された人間は、必ずやるんだよな)


 武神は満足気に発言する。

「よろしい、では私は別の仕事があるのでここを離れるわ。後は頼んだわよ」

 武神は転移魔法で消えた。

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