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第三十三話 人間の向かう先(前編)

 聖王国は大陸最大の国家で聖王教を国教としている。首都はアルザベルで人口は五万人。

 アルザベルには教皇が執務を執り行う教皇庁があった。フィビリオはアルザベルに旅商人として宿を取っていた。


 アルザベルで待機を命じられて七日、未だ武神からの連絡はなかった。

 フィビリオは武神からの連絡がないのを不満に待っていた。


 やる仕事がないので、昼食を食べに酒も出す大衆食堂に行った。

 道では、僧侶による辻説法が行われていた。最初は少し気になったが、中身はいつもと同じ「聖王教こそ唯一正しい教え」だった。


(本当に、坊さんは、毎日毎日、同じ説教を繰り替えてして、飽きないのかね?)

 説法はいつも違う僧侶がやっている。だが、興味のないフィビリオには、街中にそっくりな人間がいて、代わり映えのしない話を、毎日やっているとしか思えなかった。


 食堂で鶏肉の串焼きと赤ワインを頼む。食堂で話す人間の噂話が聞こえてくる。

 年配の男二人が話している。二人の顔は渋い。


「聞いたか? 隣国のプラネス王国じゃ、革新聖王教が支持を伸ばしているって」

「聞いたよ。何が革新だ。聖王教以外に正道なしだってのによ」


 二人の男は熱く話していた。だが、フィビリオはうんざりだった。

(また、宗教の話か。この街の人間にとって、宗教は生活に密接に結び着いている。だから、大きな問題なんだな。俺には関係ないけど)


 革新聖王教が聖王教に対する疑問から派生した宗派だとはフィビリオも知っていた。だが、具体的にどこがどう違うのか、宗教を重視しないフィビリオにはわからなかった。


 食堂から帰って宿屋に戻る。部屋に入った。

 一瞬、暗くなり、明るくなった時には武神が部屋にいた。


「いきなり、ノックもなしに部屋に来てごめんなさい。こっちも色々と面倒事が起きて対応に追われているのよ」


 フィビリオは不満を正直にぶつけた。

「あまり、長くは待たせないで欲しいな。俺はすぐにでも働きたい。何せスタンプを百個も貯めなきゃいけなんだ」


 武神が冴えない顔で訊いてくる。

「フィビリオは聖王教と革新聖王教の争いを知っている?」


「そりゃ、この街にいれば嫌でもわかるさ。何せ大衆食堂の一般人ですら話題にしている内容だからな」

「今日、教皇の名で各国に聖王国の教皇に対する優位性を認める通達が出たわ」


 わからない話ではなかった。

(権力の有様を再定義しての権威付けか。それだけ革新聖王教の広まりが無視できない状況になったのか)


「革新聖王教が支持を伸ばしているから、現存する聖王教徒への引き締めを懸けたわけだ。で、それがどうした? 悪人とは関係ないだろう」


 武神は冴えない顔のまま、教えてくれた。

「通達は教皇の優位性の確認だけじゃないわ。革新聖王教を異端とする通達でもあるのよ」


 嫌な予感がしてきた。

「おい、ちょっと待てよ。次の悪の親玉って、まさか、異端とされた革新聖王教の教皇か? 宗教戦争が絡むのだとしたら、スタンプ一個じゃ割に合わないぞ」


(人間同士の争いに首を突っ込んでもいい。だが、今回ばかりは、規模がでか過ぎる)

 武神は歯切れも悪く頼んできた。


「スタンプの数は考慮するとして、宗教戦争を止める仕事をやってくれる?」

(誰かの代行じゃなくて、戦争を止める、だと? 一個人にできるのか、そんな仕事)


「そりゃあ、どんな難題であろうと、レベル上限解放のためならやるよ。でも、誰かを斬って解決しないなら、俺には荷が重いぞ」


 武神が決意の籠もった顔で同意を求める。

「私も人の血は流したくない。だけど、宗教戦争は放置すると、大陸中に争いが広がって、もっと多くの血が流れるわ。だから、今回は誰かを斬る展開もあるから、理解して」


(戦争を止めるための暗殺か。下手すれば、大勢をぶった斬る展開になりそうだな)

「正義を信奉する善人を斬るには抵抗がある。だが、犠牲を少なくするためなら、やるよ」


「わかったわ。なら、もうしばらく、ここで待機していて。これ、当座の資金よ」

 フィビリオは金貨を受け取る。


(やりたくない仕事だが、誰かがやらねば戦争で多くの血が流れる。なら、俺がやるしかない)

 さらに、一週間が経つ。街では革新聖王教を邪教と呼んでいた。また、伝え聞くところによると、革新聖王教では聖王教こそが邪教と呼んでいた。


(まずいね。寛容さを欠いた者同士の言い争いだ。ここに国や貴族の利権が絡めば、もう引き返せなくなる。武神は何をやっているんだ?)


 次に武神が宿屋にやって来た時には、弱った顔をしていた。

「まずいわ、影響範囲が大きすぎて、どうにもならない状況に進みつつあるわ。色々検討して見たわ。だけど、誰を斬っても解決しないわ。このままだと大陸中に戦渦が広がる」


(神様もお手上げって、まずいだろう)

「何だって? どうにかできないのか? そもそも、聖王教と革新聖王教の大きな違いって、何だよ?」


「一番の違いは主神の扱いの違いね。法の神を主神とするのが聖王教。正義の神を主神とするのが革新聖王教なのよ」


 フィビリオには主神が法の神と正義の神で異なる状況が、なぜ戦争に発展するのか理解できなかった。


「何だよ? どっちも主要な良い神様だろう? 何で法と正義で争いになるんだよ」

 武神も困惑顔で見解を述べる。


「普通はならないわよ。法の神も正義の神も仲が良いからね」

 フィビリオは苛立だった。


「じゃあ、原因は何だ?」

「それが、わからないのよ。法の神も正義の神も、争いを止めろと両方の教皇に神託をくだしているわ。でも、教皇の下からのどこかで、誰かが止めているのよ」


「まさか、悪魔か? 悪魔の仕業か?」

 武神はきっぱりと否定した。


「悪魔の仕業はないわよ。フィビリオが悪魔を斬り過ぎたせいでね。悪魔は今や絶滅危惧種よ。こんな大それた陰謀を仕掛けられないわ」


 フィビリオは名案を思い付いた。

「そうだ、知恵の神だ。知恵の神の力を借りて、このバカ騒ぎを止めるんだ」


 武神は苦い顔で説明する。

「知恵の神には意見をとっくに聞いたわよ。でも、あいつは黙り込んで、解決策を教えくれないのよ」


「黙っているのなら、何か知っているんだろう。もう一度、聞こうぜ」

 武神の態度は後ろ向きだったが、フィビリオの提案に乗った。

「何度、聞いても同じだと思うけど。でも、行くだけ行ってみる」

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