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第一話 レベルが上限に達した

 荘厳な光る甲冑を着て、大剣を振るう身長二mの女神がいる。女神は武神と呼ばれ、このアルダノートの世界で創造神を抜かせば最も強い存在である。


 そんな武神を相手に戦いを挑む一人の男がいた。男は三十代後半。真黒な鎧に身を包み黒い剣を振るっている。


 男の髪は黒く、顔は四角い。意志の強い眉に、無精髭を生やしている。男の名はフィビリオ、今まさに武神に並ばんとする魔法剣士である。


 武神の振り下ろす剣をフィビリオは盾で受け止める。

 海を割るほどの威力のある攻撃をフィビリオはしっかりと防ぎ切った。


 だが、武神の一撃は重く、骨が軋む。ブーツが闘技場の床を割った。

(一撃がやたらと重い。だが、まだ、武神は手を抜いている。ならば、今のうちに相手の呼吸を読むまで)


 一対一で戦う極意とは、相手を理解する技だとフィビリオは思っていた。状況を把握して、自分を自覚して、相手の呼吸を読む。フィビリオはこれを、天を知り、自分を悟り、相手を知る、と呼んでいた。三つの中で一番重要な極意は相手を知ること。難敵であれば、あるほど、相手を知ることが大事だった。


「歩法・雷鳴閃」フィビリオは仕掛ける。

(人間の域では反応できない、最速の速度では、どうだ? 武神は着いてこられるか?)


 フィビリオの体が光る。相手の懐入れるかどうか試した。

 稲妻が駆け抜けるような速度で前に出る。武神の懐に入り攻撃が届く位置に移動した。


(おかしい。簡単に懐に入れた。誘っているのか? でも、関係ない。ここから一撃で斬り伏せられはしない。なら、この攻撃は武神の呼吸を読むには必要な手順だ)


 穏やかな水面のように心を静かに構える。だが、剣技は火のように激しく放つ。

「剣技・烈火地裂斬」フィビリオの大地をも割る斬撃が、武神の正中線に目掛けて下から上へと延びる。


 ギン、と金属と金属がぶつかる大きな音がする。武神がいつのまにか距離を取って、大剣を振り下ろしていた。


 結果、地裂斬は上に伸びず剣を剣で押さえつけられる形になっていた。

(動いた。無駄のない綺麗な戦いのお手本のような動きだ)


 武神の動きは速くはなかった。だが、最小の動作で、最適な位置取りをするので実際より速く感じられた。

(おそらく、まだ武神は最速ではない。あと、二割は速く動く)


 フィビリオとて速度に自信はある。だが、相手が神であれば、人類最速でも鈍間な亀なのかもしれない。武神の実力の底は見えない。


(相手を過大に評価する必要はない。だが、過小評価は死を招く)

 武神の白い石膏のような顔が笑って訊く。


「会心の技を防がれて不思議かしら? 私は武神よ。私に通じる技はないわ」

 武神の言葉に偽りはないとフィビリオは思った。だが、試さない内に決めつける行為は愚かに感じた。相手はまだ本気でないからこそ、冒険もできる。


(どのみち、本気を引き出せないようでは俺の負けだな。精一杯戦ってなら負けていいなんていえるほど、俺はできた人間じゃない)


 武神がフィビリオの体勢を崩そうと蹴りを出す。大木を蹴倒すほどの威力の蹴り。

 盾で蹴りを受ける。


(蹴りでこの威力か、巨人にハンマーで殴られた時より、ずっとずっしりと響く)

 まだ、試したい技があるのでいったん、距離を空ける。


「歩法・流水」蹴りの威力を利用してフィビリオは流れるように後ろに退く。

 武神が馬鹿にする。


「自分より遙かに強大な力を持つ者との戦いには慣れているようね。それで、距離をとって、どうするの? 間合いが広ければ私の剣のほうが有利よ」


 武神の言葉は挑発めいているが、もっともだと思った。だが、相手が余裕のあるうちに呼吸が読めるようになっておかないと、実力を出された時に困る。


 フィビリオは冷静だった。

(まだ、データが足りない。呼吸が読めないと負ける。だが、呼吸を読めれば勝てない相手でもない。ベストを尽くせば戦える)


「魔術・ファイヤー・ストーム」

 フィビリオは剣を振る。


 半径十m、高さ二十五mにもなる炎の竜巻を呼び出した。

 武神は表情を緩ませる。


「詠唱なしでこれほどの炎の竜巻が出せるとは大したものよ。だが、それが通用するのはレベル二十くらいの低レベルな戦いね」


 レベル二十以上になる人間は冒険者において八%と言われている。

 しかし、武神のレベルは百。レベル百の武神にレベル二十で行われる戦術が通じるとは、フィビリオも思っていない。


 武神が剣を軽く振ると、竜巻は掻き消された。だが、フィビリオの狙いは別にあった。

 高温の熱で歪んだ空気に特殊な移動法を合わせて分身を作る。


「歩法・陽炎」

 掻き消された炎の後ろから分身とフィビリオが躍りかかる。分身が斬られれば、隙ができる。できた隙に一撃が入れられるか知りたかった。また、さきほど同じく運よく懐に入れれば、一撃を入れるつもりだった。


 武神は振り下ろす刃で分身を斬る。切り上げる刃でフィビリオを斬る。

(上から来たと思ったら、下からすぐに追撃が来るのか。やっかいな技だな)


 冷静に盾を動かす。

 武神の下から来る攻撃を盾で防ぐ。


 強烈な切り上げはフィビリオの体勢を崩した。

 武神が勝負あったとばかりに上がった剣を振り下ろす。


「魔術・フラッシュ・ムーブ」

 魔術を即座に発動させて、後方に瞬間移動する。


(流石は神だ。先を読まんと負けるな)

 身体能力では勝てない状況は明白だった。技術でも差はある。


 だが、武神には慢心があるとフィビリオは悟った。

 武神が馬鹿にしたように笑う。


「移動は得意なようね。でも、攻撃は不得意と見たわ」

 フィビリオは挑発に乗らない。乗れる気分でもなかった。


(武神を倒すには、あとちょっとデータが必要だ。)

 フィビリオは剣を向けて魔術を発動させる。


「魔術・デス・レイ」

 浴びたものを即死させる黒い光線が放たれる。


 武神は死を呼ぶ光線を軽く剣で受け止める。

「デス・レイも使えるのね。魔法剣士にしては、なかなかの腕前、とでも褒めてほしいのかしら? 神に通じる魔術ではないわよ」


 デス・レイは並みの魔術師には使えない上級魔法。だが、神を相手に通用するとはフィリビオは思っていない。

 目的は別にあった。武神の魔術に対する対応と、武神が手にする剣の質を知りたかった。


(目的は達成した。なら、これはどうだ)

「魔術・グラビティ・チェィン」


 デス・レイによる黒い光が灰色の鎖に変化して武神の剣にまとわりつく。

 フィビリオは剣を下に向けると、鎖は地面と武神の剣を繋いだ。


「歩法・雷鳴閃」武神の剣が魔力の鎖により地面と繋がれている間を利用して、一気に距離を詰めようとした。

 武神は剣を何なく、振り上げる魔力の鎖を断ち切った。


(魔術を断つ剣? 違うな。武神の持つ技が魔術を斬った。俺程度の腕では、どんな魔術をもってしても、武神に通用しないか。だが、呼吸はかなり読めた)


 フィビリオは武神の間合いの一歩手前で技を解除して立ち止まる。

 武神がにやにやした顔でおどける。


「残念。あと、雷鳴閃をコンマ数秒解除するのが遅ければ勝負はあったのにね」

 フィビリオは武神の懐に飛び込む機会を幾度となく狙っていた。だが、相手は武神を名乗るだけあって簡単にはいかない。武神の大剣は速く、重く、鋭い。


 フィビリオが持つ盾が職人の神が鍛えた業物でなければ、とうに勝負は着いていた。

(やはり、技や魔法では武神に通用しないか)


 武神が見下して発言する。

「それで、どうするの? 次はメテオ・ストライクでも試してみる? それとも、虚空斬かしら? 断っておくけど、私は隕石も斬れるし、虚空斬も防げるわよ」


 嘘ではないと思った。

「だろうな、隕石なら俺だって斬れる。虚空斬も防げる。今までの攻防は、あんたの動きを見るうえでの小手調べだ」


 フィリビオは正直に語った。だが、武神はフィビリオの言葉を鼻で笑った。

「武神相手に小手調べとは、なかなかユーモアのある男ね」


「あんたの動きの癖と力量は、だいたいわかった。ここからが本番だ」

(勝機はありそうだな。ただ、簡単にはいかない)


 フィビリオは派手な技で一気に決めるのを諦めた。地道に打ち込み、盾でひたすら攻撃を受け流し、武神の隙を狙う。地味な打ち合いだが、互いに互いに精神力と体力を削る打ち合いが始まる。


 千合近く打ち合った時、武神にわずかの隙ができた。

 攻撃を掻い潜り、胸に鋭い突きを打ち込む。


 フィビリオの剣は並の剣ではない。龍王の体から出てきた伝説級の武器。

 武器の威力に魔力で筋力を増し、加速をつけて、渾身の一撃とする。


 ずん、フィビリオの一撃が武神の心臓を貫いた。武神がゆっくりと地面に倒れる。

 疲弊して汗だくだった体を涼しい風が通り抜ける。レベルが上がった時の感触だった。


 フィビリオは片膝を着いて実感する。

「これで俺は、レベル百だ」


 遂に武神と並ぶと称される上限であるレベル百の境地にフィビリオは到達した。

 嬉しかった。最初の三日間くらいは。

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