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快適な異世界生活  作者: 釣り師
3/3

トイレ


 勇者


 俺の知っている勇者とは”勇気ある者”の事だ。


 有名なゲームソフトや、数々の創作物に登場する架空の人物である。


 俺の好きな異世界物でも、チート能力や元の世界の知識を使い、作品の中で勇者として活躍する主人公達を見て来た。


 俺にも異世界転移なんかしている時点でフラグはあったかもしれない。


 「俺が、勇者?」


 ノエルは、本に書かれている分や、挿絵などを指差し勇者について説明してくれた。


 残念ながら、何と言っているかは全く分からないが。


 何ページか説明を受けている内に、ページごとに描かれている勇者に、それぞれ違いがあることに気づく。


 勇者が使う魔法がページごとに炎だったり水だったり、纏っている鎧も異なるものだ。


 それと、気になるのは絵の左上に書かれている数字だ。


 俺は、数字や勇者の絵を指しながら、これらには何の意味があるのか、伝わるように手振り身振りで必死に伝えた。


 ノエルも、手振り身振りで説明してくれる。


 描かれている勇者と同じポーズまでしてくれた。


 多分、左上に書かれているのは年代で、その時召喚された勇者がどんな魔法を使っていたが書かれているのだ。


 つまり、この世界は以前から勇者召喚を行っていたという事だ。


 本の中には、勇敢に戦う女勇者の姿もあった。


 ちなみに、ノエルも魔法が使えるか、本とノエルを指さして聞いていたが、どうやら魔法が使えるのは召喚された勇者だけらしい。


 こんなに魔法使いっぽい服着ているのに。


 なので、ノエル曰く勇者として召喚された俺は魔法が使えるらしい。


 試しに手のひらを窓から外に向け、メラ!ヒャド!メドローア!っと唱えてみたが何も起きなかった。


 MPが足りてないのだろうか?MPなんて設定があればの話だが。


 その後、一通りの説明を終えたノエルは、メイドさんに「また来るよ」的な雰囲気な事を言い残し、部屋を出ていってしまった。


 しかし、俺が勇者とは。


 この世界の勇者は何と戦うのだろうか。


 魔王とか存在するのか?


 ノエルが置いていった本に描かれている勇者達は、皆人間の兵士相手に戦っているように見える。


 それに、勇者の条件とも言える魔法だ。


 魔法が使えるイコール、勇者と言った図式が出来上がっている様だ。


 もし、俺が魔法を使えないとしたら?


 それは、ただの失敗物でしか無いのではないか?


 しかし、召喚された事実から見れば、俺は本当に魔法が使える勇者である可能性もまだある。


 う〜ん、魔法の使い方か。


 わかるか!そんなもん!


 正直使える気がこれっぽっちもしない!


 体の内側から感じるこの力は!?みたいに、分かりやすくしといてくれよ。


 テーブルにうなだれながら、あれこれと考えていると、所在なさげに壁際に立っているメイドさんと目が合ってしまった。


 あぁ、本当にかわいいな。


 今考えても分からないものは分からない!


 それよりまず、この世界の事を知るべきだ。


 もしかしたら、今までの勇者も科学の発達した世界から召喚され、科学力を魔法だと言った可能性だってある。


 まずは、異世界について知ることから始めよう。


 取り急ぎ、まずはトイレの場所から!


 しかし、目の前の綺麗で可愛い年頃に見える女性に、言葉が通じない状況でどうトイレの場所を聞けばいいのだ。


 ジェスチャーで伝えるならば、わかりやすいのは股間を両手で抑えて、漏れる漏れると足をばたつかせる事だが。


 出来ない。


 この可憐でふつくしいメイドさんに対し、それをするのは正直恥ずかしい。


 セクハラにあたる気もする。


 メイドさんを見つめながら、どうするものかと悩んでいると、困った様子で声をかけられる。


 本当にずっと見ていたくなるほど可愛いのだ。


 そうだ、メイドさんにはまだ、名乗っていなかったな。


 自己紹介はこれからの関係を良好にする為にも大事なことだ。


 決して、メイドさんの名前が知りたいとか、仲良くなりたいとか、下心が無いことも無いが。


 とにかく、自己紹介は人付き合いで大事なのだ。


 俺は、メイドさんに正対すると右手を左胸に当て、右足を少し下げ、少し頭を下げながら名前を名乗った。


 メイドさんは、俺の挨拶を受けて、スカートの裾を軽く持ち上げ、頭を軽く下げながら。


 「セレナと申します。」


 と、応えてくれた。


 メイドさんの名前を間違えない様、発音を確かめながら口にする。


 何度か口にすると、セレナから合格の丸印を貰う。


 セレナも、俺の名前も呼んでくれているが、名字と名前が繋がっているので変な感じだ。


 俺が自分を指さしながら名前だけ言うと、名字も一緒に答えてしまうので、首を横に振り名前だけ繰り返し伝える。


 3回目で名前だけ呼んでくれたので、俺も合格の丸印をセレナに贈った。


 こんな可愛い女性に名前を呼んで貰えれる。


 それだけで転移してよかったと思えてしまう。


 変な感動をしていると、我慢していた尿意に襲われる。


 しかし、セレナにどう聞けばいい。


 せめて相手が男なら例のジェスチャーも使えるんだが。


 そう思いながらなんとなく部屋の入り口を見る。


 そうだ。


 確か扉の前には兵士が立っていたはずだ。


 兵士がまだいるならその人に聞けばいい。


 兵士に聞いてる姿はセレナにも見られてしまうかもしれないが、直接見せるよりはいい。


 我慢も少しづつ限界へと近づいている。


 俺は扉へ急ぐと、祈るように扉を開ける。


 頼む、居てくれ!


 勢いよく扉を開けると、そこには少し驚いた顔でこちらを見る、男の兵士が立っていた。


 良かった、居てくれた。


 兵士は以前同様、部屋に戻れと促してくるが、こちらも緊急事態なのだ。


 兵士の動作が終わる前に、両手を股間に当て、足をばたつかせながら。


 「トイレはどこだ!ト・イ・レ!」


 と、大きめの声で、兵士に尋ねる。


 もちろん日本語なので、兵士には伝わらない。


 部屋の中から、驚いた様子でセレナが見ているがしょうがない。


 兵士も困った顔で見てくるが。


 「ト・イ・レ!ト・イ・レ!!」


 と、両手を股間に当て騒ぐ俺の姿にピンっときたらしい。


 分かったぜ!みたいな顔をして、部屋の中のセレナに何か伝えている。


 左手をサムズアップの形で握っているが、親指は俺を指しているので、多分「こいつトイレ行きたいってよ」みたいな感じだ。


 セレナも「あ〜なるほど」っと納得顔だ。


 部屋の中からセレナが手招きで呼んでいる。


 よし、俺の言いたいことは伝わったみたいだ。


 とりあえずおもらしコースは回避出来たみたいだ。


 さぁ、トイレへ案内しておくれ。


 しかし、俺の期待は裏切られる。


 部屋に戻ると、セレナは何を勘違いしたのか40cmくらいだろうか、大きめの取っ手の付いた花瓶を、両手で持って来た。


 そして、両手で持ちながら俺の前にしゃがみ込むと、花瓶の口を俺に向け少し傾け、恥ずかしそうに、にこっと笑うのだ。


 どういう事だ?やはりこのやり方ではうまく伝わらなかったと言うことか?


 俺には、セレナのしている事が分からず、首をかしげる。


 俺が困っている様子を見て、セレナはそのままの体勢で、恥ずかしそうに俺の股間を丁寧に五指を揃え指した後、花瓶の口の指を動かす。


 そして、顔を真っ赤にしながら俺の顔を見て、優しく微笑むのであった。


 嫌な、予感がする。


 え?これ、もしかして……尿便?ここにするの?取り出して?セレナに向かって?


 俺は、セレナを見ながら自分の股間を指差し、次いで花瓶を指して確認する。


 これにするの?っと。


 セレナは少しうつむいて、こくんと首を立てに動かし肯定した。


 「出来るか!いや、無いだろ流石に!」


 いきなり大声を出してしまったので、セレナが驚いて体をビクッとさせたが、思わず日本語でツッコミを入れざる得なかった。


 これはもう文化と言うか文明の違いだろうよ!


 それとも、この館の主の趣味か何かか?無いわー、マジで無いわー。


 俺は、本当にこれにするのか聞く為に、急いで兵士の所に向かう。


 扉を開けると、おっスッキリしたか?みたいな顔をして俺を見てきやがる。


 セレナは、何か自分が悪いことをしたんじゃないかと、心配顔で俺についてきた。


 俺は兵士に、セレナが持つ花瓶改め尿瓶を指差し、日本語で捲し立てる。


 「お前もこれにするのか?こんな可愛いセレナに向かって出来るのか?!」


 二人は、突然大きな声で、しかも知らない言葉で喚く俺に困惑し動けない。


 男として、いや、漢として問わねばならない。


 貴様はその粗末なコックをセレナに向け汚水を垂れ流せるのかと!


 俺の魂を乗せた言葉は兵士に届いたらしく、首を横に振り、その禁忌とも言える行為を否定する。


 「では貴様はどこで用を足すのだ!さぁ吐け、吐けぇぇえええ!!」


 俺はさらに兵士に詰め寄る。


 扉の前で始まった俺の叫びは、兵士を壁際にまでジリジリと追い詰めていた。


 魂を込めた言葉は、言語を超え相手に伝わるのだ。


 例えそれが、兵士の首元を締め上げ、脅迫しているように見えたとしても、気持ちは、想いは、相手に届くのだ。


 「あそこだ、あそこでするんだ!」


 そんな雰囲気の事を言い、兵士は廊下の窓から見える小屋を指差す。


 外に建てられているその小屋は、木造作りの田舎の公衆便所の様な、小さな小屋であった。


 俺は小屋を指さしてから、立ちションのポーズをして兵士に確認する。


 あそこでするんだな、と。


兵士も「あぁ、そうだと」首を立てに動かし、肯定の仕草で応える。


 何だ、ちゃんとトイレがあるんじゃないですか、やだなぁもう。


 俺は兵士から手を離すと、すぐさま小屋を目指し歩き出す。


 無論、行き方など分からないが、とにかく小屋を目指す。


 そうですよねー、いちいちメイドの持つ尿便に出すとか普通じゃないですよね。


 道も分からないのにずんずんと歩く俺を、兵士とセレナが慌てて追ってくる。


 横に並ぶと、何か言いながら俺を制止しようとしてくる。


 きっと「待ってくれ、それはまずい」とかそんな感じだ。


 だが、俺も止まるわけには行かない。


 もう、出るんだ。


 首を横に振り小屋へと急ぐ。


 小屋に向かう途中で、何人かのメイドや兵士とすれ違ったが、皆一様に道を譲ってくれる。


 しかし、扉の前に立っていたあの兵士に回り込まれ、行く手を遮られる。


 手のひらを向けられ、制止を促されたが俺はもう止まることが出来ない。


 兵士に向かいしっこのポーズで小屋を指差し、もう出るのだと、悲痛とも言える魂の叫びをぶつけた。


 すると、兵士は諦めたようにため息をつくと、手首をくいくいっと、ジェスチャーでついて来いと先導してくれた。


 兵士の後について外に出ると、小屋はもう目の前だ。


 駆け足に小屋まで行くと、扉を開け中に入る。


 小屋の中は、大人5人くらいならすっぽりと落ちてしまう程の大きな穴が掘ってある。


 それだけである。


 てっきり、大なり小なり便器らしいものがあると思ったが、小屋の中は穴しか無いのだ。


 ここに立ちションでいいのか?


 一度、兵士に聞こうと小屋を出ると、兵士は花瓶を持った見知らぬメイドさんと立ち話をしていた。


 小屋から出た俺に気がつくと、兵士は手でどけろっと合図してきた。


 訳が分からないまま花瓶を持ったメイドさんにドアを開けて進路を譲ると、メイドさんは俺を不思議そうに見ながら小屋に入り、花瓶の中身を穴にぶちまけて出ていってしまった。


 俺は、唐突に理解する。


 俺が花瓶だと思っていたのは本当に尿瓶で。


 先程のメイドが、館の誰かのシッコをそれに受け止め、ここに捨てに来たのだと。


 本来なら、俺も部屋の中でセレナに受け止めて貰うのだと。


 改めて小屋に入り、大きな穴に向かい用を足しながら痛感していく。


 あぁ、ここは本当に、異世界なんだと。


 ちなみに、大きい方もここでするみたいで、お尻を何で拭くか聞いたら、兵士はおもむろに、そこらに生えている大きな葉っぱをもいで渡してきた。


 服を着たままだが、小屋での踏ん張り方から、葉っぱで尻の拭き方を実演してくれて、最後は葉っぱを穴に投げ入れて見せてくれた。


 館の人間は、花瓶より大きな陶器に出して、後始末をメイドさんや、執事達に任せているみたいだ。


 現に、今、目の前でメイドさんが、小屋の近くの水くみ場から大きめの陶器に水を入れ、葉の付いた枝でガシガシと陶器を洗い、枝ごと小屋の穴に捨てて戻っていく。


 水洗便器やら、ウォシュレットが普及していた世界にいた俺にとって、この事はとても大きなショックであった。


 部屋に戻ると、椅子に座り窓からぼーっと、遠くを見ている。


 もう、帰りたい。


 本気でそう思いながら。

更新遅くなりました。


ゆっくりではありますが、最後まで書こうとは思っています。


生暖かく見守っていただけたら幸いです。

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