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世界を救えば別だよね?  作者: 白沼俊
三. 新たなる道筋の章
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エピローグ.奇跡が咲く

「ようやく見つけたぞ。サーネル」


 大きな体でぼくを見下ろし、マイスはいった。


 幻でも見ているのだろうか。何度か瞬きを繰り返す。逃げないと。そう思っても突然の窮地に体が動かない。


「どうして、ここが――」


 口を突いて出たのは疑問の言葉だった。


「自分で情報をばらまいていたのを忘れたか。マリターニュにまで乗り込んでおきながら、見つかる気がなかったとでも言うつもりか?」


「それは」


「それにその鳥は目立つ。その上私も同じものを連れている。確実な情報を得やすかった。加えて地上に落ちていた大量の腕だ。あれはお前のものだろう。よほど激しい戦いがあったようだが、痕跡は消しておくべきだったな」


 言い返せない。何もかも彼の言う通りだ。マイスが傷を癒してマリターニュに戻ればぼくたちの話を聞かないはずはないし、魔王の敵対者として名が広まったぼくは、ちょっとでも目撃されれば魔族とばれるようになっていた。


 問題は傷の回復が早すぎることと普通の人は奈落の底まで調べに来ないということだけど、マイス相手にそれを言っても仕方がない。


「話をさえぎってすまぬが、お主は何者だ?」


 町長がいった。


 マイスは礼儀正しく胸に手を当て頭を下げる。


「騎士マイス・ラムプルージュ。魔王を討つべく旅をしている者です」


「ほう、魔王をな。それがこやつに何の……」


 町長が言い終えるより先に、プリーナが両手を広げて前に出る。ぼくを庇うようにマイスの前に立った。


「サーネルに手出しはさせません。たとえお父様のめいであってもよ」


 マイスは黒い瞳でプリーナを見下ろす。表情のない顔からは何を考えているのか全く読み取れず、それが場の緊張感を一気に引き上げる。


「本当だって! こっちに何か飛んだんだ」


「ラージュー! 今そっちに何か……」


 無言の睨み合いの最中さなか、町や孤児院の方から人々が集まりだす。人々はぼくたちの姿を目にとめるとあからさまに不穏な様子に立ち止まった。


「その人、だれ?」


 マイスの奥から現れたヘレナが問う。答える代わりにプリーナは言い放った。


「またサーネルの命を狙いに来たのでしょう! マイス! けれどあなたは考え直すべきだわ。サーネルはあなたたちが思っているような、人間の敵などではありません!」


「…………」


 マイスは何も言い返さない。そこで生じた間が、人々の理解を促す時間を与えた。


「そ……そうです。ラージュはすごく優しいんです! 町やあたしを助けてくれました!」


「その通りだ! そいつがいなかったら町は昨日で終わってた!」


「他の魔族とは違うんだよ! 町の皆が保証できる!」


 ぼくを庇う声が飛び交う。ずっとマイスから目を離せないでいたのに、気づくとぼくは彼らのほうを向いていた。


 ヘレナや子どもたち、商人、詩人、大工……町で目にしたことのあるたくさんの人々が訴えてくれている。ぼくを守ろうと叫んでくれている。マリターニュで追われた時とは真逆のことが起きていた。


「これで分かったでしょう。サーネルはあなたが斬るべき悪じゃないわ。それともこの町の人たちを全て、魔族にくみする罪人と断じますか!」


 プリーナが重ねた問いにもマイスは表情を変えない。ひたすらに無言で彼女を見下ろし、微動だにしなかった。


 その時。プリーナの問いに、別の声が答えた。


「あなた方のお気持ちは十分に伝わりました」


 若い少年のような声だった。ぼくは周囲を見渡してから、はっと背後へ振り返る。


 町の方から歩いてくる二つの人影に、ぼくは目をこれでもかというほど大きく見開いた。


 彼は口元に微笑を浮かべると、芝居がかった調子で礼をした。


「お久しぶりです。サーネルさん、プリーナさん」


「あなたは――ツワードさん」


 それに一緒にいるのはノエリスだ。以前ぼくを罠にかけ氷漬けにした黒いローブの集団のうちの二人だった。


 まさか彼らまで追ってきていたなんて。しかもマイスといっしょに。


 警戒の色をあらわにすると、ツワードは笑みを崩さぬまま両手をあげた。


「誤解なさらないでください。こちらに敵意はありません。マイスさんも含めてです」


「どういうことかしら。どうしてあなたたちがマイスと?」


「些細な偶然ですよ。私もマイスさんもあなた方を探していた。そこで偶然行動を共にするようになったというだけのことです。サーネルさん、あなたに命を拾われた身としてね」


 ツワードはぼくへ視線を向けた。そこに以前見せた憎しみの色はない。ぼくはわけもわからないままに本能的な警戒心が薄らいでいくのを感じた。


 ツワードは碧い目を伏せ、つづける。


「私たちはあなたを殺そうとしました。尋常ならざる苦しみを与えた上で、この世に生を受けたことをすら後悔させようとしたのです。奪われた家族や友人の仇を討つために。結果あなたは罠を跳ねのけ、私たちは破れた。


 ですが何故でしょう。私たちは見逃されました。あの場から逃げるには命を奪った方が確実だったはずです。なのにあなたはそうしなかった」


 そこまで言われ、ようやく話が見えてくる。確かにぼくは彼らを殺さなかった。いくら命を狙われたからってそう簡単に人を殺す気になれるはずがない。人殺しを避けることに特別な意識なんてなかったけど、考えてみればあれは、魔族としては明らかに不自然な行動だ。


 ツワードとノエリスはマイスのそばに並ぶ。沈黙を守り始めていたマイスがぼくへ視線を移し、後を引き継いだ。


「サーネル。お前は魔王に敗れた私を逃がしたな。微かだが覚えている。お前が私を抱え、あの森を離れる姿を」


 マイスがぼくに近づく。すでに両腕を下げていたプリーナは押されたように後退した。


「お前に何があった。あまりに違い過ぎる、何もかもが食い違っている。今のお前は、私やノエリスの知るサーネルとはまるで別人だ。いや、あるいは本当に――」


 手を伸ばせば届く距離で、マイスの黒い目がぼくを見据える。その眼の光が明らかに増しているのに気づいて、ぼくはごくりと唾を飲んだ。


 そしてマイスは、ぼくに問う。


「お前は何だ。魔王の息子か。それとも」


「ぼくは……」


 ぼくは言いかけ、口を閉じた。


 期待してしまう。これまで散々酷い目に遭ってきたのに。


 もしかしたら、マイスたちはぼくを――。


 手に汗がにじむ。こぶしを握り締め、目を見開くようにマイスを見上げる。




「ぼくは、人間だ!」




 強く叫んだ。自分自身を、そしてマイスたちへの気持ちを伝えるにはこの言葉が一番だと思った。


「そうか」


 マイスは呟く。驚きもしなければ笑うようなこともしなかった。ただ当たり前みたいに淡々と頷き、表情一つ変えることはない。


 だけど確かにぼくの気持ちは届いたらしい。


 何故ならマイスはこちらへ手を差し出し、言ったのだ。


「ならば、問おう。私と共に魔王を倒してくれないか」


 大きな手だった。さすがは勇者と言うべき、世界の命運を預けるにふさわしい頼もしさだ。その手が今ぼくに共闘を望んでいる。こんな光栄なことが他にあるだろうか。


「――喜んで」


 手を伸ばす。長い回り道をて、ついにぼくたちは仲間になった。


「みんな! みんなー! 花が! あの花が咲いたよー!」


 孤児院の方から男の子が駆けてくる。ふしぎな形の木を育て続けていた銀髪の子だ。あの子が言いにきたなら間違いない。咲いた花というのは、あの。


「まあ、まあ! 本当に? 見に行きましょう、サーネル!」


 プリーナに手を引かれる。花と聞いた彼女はもう、たった今までの緊張を忘れてしまったようだ。


「ああ、なんてこと! もう絶対に見られないと思ってたのに! ねえサーネル、これって奇跡よ。きっと神様がこの日を祝福してくれたんだわ!」


 丘の上を走りながらプリーナがいう。確かにその通りかもしれないとぼくも思った。


 どんな花が咲いたんだろう。ロマンチックなことは言えないけど、期待に胸がふくらむ。


 たくさんの仲間を得て、無事にプリーナと旅に出られて――その上諦めていた花も見られるなんて、ぼくにはもったいないほどの幸運だった。


 花のことはよくわからない。あんなふしぎな形のものなら尚更なおさらだ。でも。


 目の前で元気に揺れる髪を見て、思う。


 今日この日見る花は、きっと、奇跡みたいにきれいだ。




          *




「ぐぇ?」


「ぐえ、ぐえええ!」


「ぐえっ? ぐえええええ!」


「ぐえぐえぐええ!」


 鳥が増えた。


「悲しいくらい何言ってるか分からないね」


「だけど嬉しそうだわ。この子たち仲が良かったから」


 ぼく、プリーナ、マイス、ツワード、ノエリスの計五人は、ティティたちと共に地上を移動していた。つい先ほど谷を上がり出発したばかりだ。


 ぼくとプリーナがティティに乗り、ツワードとノエリスがケイティ――もう一方の怪鳥に乗っている。ちなみにそのケイティはマイスが背負っていた。


「って、なんでそうなったんですかっ?」


「長距離を走るのは私の方が得意だ。ならば私が背負うのが道理だろう」


 仲間になって早々かましてきたなこの人……。


「ちゃんと走らせてあげた方がいいわ。この子たち、毎日運動させないとすぐ病気になってしまうんですって。雨の日もね」


「そうでしたか。ご教授感謝します」


 マイスは素直にケイティを下ろした。共に並んで走り出す。


 それでも自分では乗らないんだ……。


「でも」


 豪速で走るマイスの姿に呆気に取られていると、プリーナが呟いた。


「ミィチにお別れを言えなかったのが残念ね」


「……うん」


 そうなのだ。ミィチはコンズに襲われたきり今も目を覚まさずにいる。コンズに見立てでは三日は起きないだろうということだったし、そこまで待ってあげることはできなかった。


 もう会えないというわけじゃないけど、何も言わずにお別れになるのは、やっぱりちょっと寂しかった。


「ところで、次の目的地はどこに……」


 ツワードが口を開き、途中で言葉を止めた。何かに気づいたように背後を振り返る。


 つられて視線の先を見る。青空と丘陵たちを背景に、小さな人影が飛んできていた。


 ティティたちの足を止める。その姿にひどく見覚えがあったからだ。


「おいお前ら。なに勝手に置いてってんだ」


 背丈の小さな体にマントを羽織り、うさぎ顔の少女は空中を舞う。


 少女はおそらく、ぼくへ向かってまっすぐに飛んでいた。


「ミィチ!」


「言ったはずだぜ。サーネルがヘレナとの約束を果たすまで、オレも戦う」


 マントの少女――ミィチは矢のような速さでこちらに突っ込み、直前でぴたりと止まった。ほとんど音も立てることなく岩の地面に足をつく。


「そういうわけだ。これからもよろしく頼むぜ、ラージュ」


「え? 今」


「なんだよ。悪霊呼びの方がよかったか?」


 ミィチはにやりと笑い、ティティの背中に乗り込む。


「ラージュで! ラージュでいいよ! うん、これからもよろしく!」


「よろしくね、ミィチ!」


 こうしてぼくたちは、ミィチを加えた六人と二羽で旅に出ることとなった。これからその人数はさらに増えていくだろう。


 次の行き先はもう決まっている。この勢いで戦力を新たに加えるなら真っ先に向かうべき場所がある。


 魔族の支配に抗う人々が唯一残るこの大陸。そこにる国々の全てから一手に人々を受け入れようとする町があった。


 魔術で作られた黄色い膜に覆われているというそこは、通称『かごの町』。人々が魔族に打ち勝つ最後の希望と言われる町。


 首都ネアリー。ぼくが目指すべき次の場所は、そこに決まった。





















長かった三章もようやくおしまいです! 更新遅くて長引いてしまってすみません!


二章と三章は元々一つの章にしようと思っていたのですが、かなり長くなりそうだったので分割しました。そのため二章冒頭にヘレナが登場する形になっています。

作者的には本当に長かったですね。頭の中で思い描いていた時にはもっと早く太陽の町にたどり着くはずだったので、思った以上に主人公を苦しめることになりました。

当初の予定だとミィチもコンズに殺されることになっていましたが、ここまで大変な思いをして旅をしてきて、やっと光が見えたところでミィチの死を引きずるのがどうしても嫌になり、頑張って生かしました! 愛着が湧いちゃったのもあります。

何故かぼくの中でコンズが『ミィチ絶対殺すマン』になってたので、「別に気絶で良くない?」って状況を何とか作った感じです。生きていてくれてよかった!



まだ四章の構想がふんわりとしかできていないので、次回の更新まで時間が空いてしまうと思います。

いつも読んでくださる皆さんには申し訳ないですが、しばらくの間お待ちください。


あとがきまでお読みくださった方々、本当にありがとうございます。

今後とも本作をよろしくお願いいたします。



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