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世界を救えば別だよね?  作者: 白沼俊
一. 消えぬ幻の章
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4. メニィの心

2019/01/19 改稿しました

 天井のランプに火を灯す。サーネルの個室は特別に広いわけではなく、非常にシンプルな正方形をしていた。正確にはぐにゃぐにゃになっているので、元々正方形だったのだろうなという感じ。壁には剣や斧など様々な武器がかけられ、ランプの光を妖しく反射する。後は造りのしっかりした木のテーブルと就寝用の『皮』があるのみ。


 そう、皮。皮だ。ぶよぶよとした謎の皮がベッドとして配置されている。血管の通った気持ちの悪い見た目に最初は大いに戸惑ったけど、手を当ててみると案外柔らかくて心地がいい。一体何の皮なのかは聞かないでおいた。


 ただし、扉の傍にある簡素なクローゼットには豪奢な服が並べられている。数が少ないのにどれも真新しいのが不思議だけど、日々新たに織り続けられているのだろうか。人間の王族から奪っているとか、そんなろくでもない理由のほうがしっくりくるけど。


 ぼくは休む前にボロボロになった服を着替えた。シャツの上から豪奢に飾られた袖無を羽織る、さっきまでと同じスタイルだ。


「……して、何故そこで寝ておる」


 ぼくはじろりと皮のほうを睨む。


 メニィが寝ころんでいた。汚れたドレスを脱ぎ去り、白い肌着のみを身にまとっている。ランプの暖かな光に照らされる姿は、何というか直視しづらい。女性だし。二人きりだし。魔族とか関係なく意識しちゃうのは許してほしい。


 メニィの豊満な体よりわずか手前に横目を利かしつつ、ぼくは赤い顔をなるべく見せないようにした。


 子どもがいないと分かったララとリリが不満そうに帰って行った後、ぼくが部屋で休むというと、彼女はそのまま一緒に入ってきたのだった。そこまではよかったけど、ベッドを奪われることになるとは。


「ダメですかあ?」


「我が寝れぬであろう」


 まさか一緒に寝るわけにもいくまい。


「一緒に寝るんですよう?」


 いやいやいやいや!


「だ、ダメ! ダメだよ! 絶対ダメ!」


「なんでですう?」


「だ、だだだって、ぼくは男だし、その」


「いつものことじゃないですかあ」


「へっ?」


 う、うそ? まさかそんな破廉恥な。いやでも二人は魔族だし、別に特別なことじゃないのかな。いやいやでもだからってぼくが寝るわけには。


「そういうわけですからぁ、さあさあ、どうぞぉ」


 目を白黒させているぼくをにやにやと誘惑する。その笑みの中に企みを見た。


「……嘘?」


「あらぁ、ばれましたあ?」


 図られた!


 ぐぬぬぬ、とぼくは顔を熱くしてそっぽを向いた。


 背後でメニィが観念して起き上がる。騙されたのは悔しいけど、とりあえずこれで難は逃れただろう。


 と油断したら、後ろから腕を回された。


「えっ……えっ、えっ? なっ、何をっ?」


 大きな胸が背中に当たる。柔らかい塊が押し付けられ、艶めかしく潰れるのが分かった。


「ワタクシだって心配だったんですよお? 少しくらい、わがままを言わせてくれたっていいじゃありませんかあ」


 メニィの声は、わずかに震えていた。


 真っ赤になって失神寸前のぼくだったけど、それで理性を取り戻す。


「……メニィ?」


「変なうわさが流れていたんです。魔王様が、お坊ちゃまを殺められようとしている、と。そんな時にお坊ちゃまったら、ふらりとどこかへ行ってしまうんですから。これで心配するなというほうが無理な話ですぅ」


 魔王がサーネルを……? どうしてそんな。


 驚いて言葉を返せないぼくに、メニィは苦笑する。


「うわさ自体に根拠はないんですよぉ? 最近魔王様がお坊ちゃまに対して厳しく当たられるから、尾ひれがついて広まっただけの話なんです。先ほどの魔王様のお言葉からしますと、お坊ちゃまに何かしらの試練が与えられたのは間違いないみたいですけどねえ。お坊ちゃまはそれを乗り越え、代わりに記憶を失ってしまった。そういうことなんだと思いますう」


 ――違う。サーネルは記憶を失ったわけじゃない。ぼくの意識が入ってしまっただけだ。だけどメニィの推測はおおよそ当たっているのかもしれなかった。というか、「力を示した」なんて言葉は「試練を乗り越えた」という意味以外には捉えられない。


 となると、あれはサーネルに向けた言葉で間違いなかったということになる。これは光明だ。この城にいていいと許しも出ているのだから、ひとまず襲われる心配はないはず。


 でも、サーネルが嫌われているってことは、暗殺の機会も見つけにくくなるっていうことなんだよね……。


「さてぇ。そういうことですのでぇ……」


 耳元でささやかれ、はっとする。そういえば抱きつかれたままだ。


 甘くて暖かな吐息がかかり、耳と背筋がぞくぞくと震えた。


「一緒に、寝てもいいですよね?」


「や、やっぱりそれはダメ!」


 ぼくは再び真っ赤になって叫ぶ。


 情けなく取り乱しながら、けれど頭の片隅で、ぼくは冷静に考えていた。


 メニィは魔族だ。人殺しを何とも思わず、苦しむ様をにたにたと楽しむ人間の敵だ。分かり合えるはずはないし、気を許すなんてあってはいけない。


 だけど、悪魔のように残酷な彼女だけれど。


 サーネルを想う時の彼女は、ただの優しいお姉さんみたいだ。



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