お兄様は元気になりました。
小鳥のさえずる爽やかな朝です。
……まあ疲れてたし熱も出てたけどね?
さすがに寝過ぎでしょ私!!
途中で一回だけ目が覚めてクラハが用意してくれたぬるいレモン水を飲んだけど、それ以外はずっと寝てた。
その甲斐あってか今日は全快です!
もう動きたくて仕方がありません。体動かしたい!
ベッドから起き上がって伸びをし、肩に乗ったハイルと共に既に部屋に待機をしていたクラハにベッドから下ろしてもらう。
「おはようクラハ、ハイル」
『おはよう、ティカ!』
「おはようございます、リュート様」
「クラハ、今日はお兄さまに会える?」
「はい。そうおっしゃるだろうと思って、昨日のうちに手配いたしましたよ。朝食の後で参りましょう」
おお、さすがクラハだね。
何も言ってないのに察して準備してくれてるなんて優秀すぎる。
それにしても、朝食の後かあ。思ってたより時間早いね。
お兄様に負担かけてもいけないし、少しゆっくり行こうかな。
あ、でもお兄様が待ってたら悪いし……。
……うん、やっぱり早く行こう!
「それなら早く朝食を食べに行こう!」
まあお兄様のためを考えたのは事実でも、半分以上はお兄様に早く会いたいという自分の願望だけどね!
「ふふ、はい。了解いたしました。早く食堂へ行きましょう。けれどその前にお召し替えをして、お髪を整えましょうね」
あ、寝間着のままだった。
というか、そもそも寝間着を着ている事に今気づいた。
倒れた後にクラハが着替えさせてくれたのかな?
クラハが持ってきた服に着替え、髪をくしで梳いてもらって準備万端である。
部屋を出て食堂へ歩いていく私の足取りは、朝食を終えたらお兄様に会えるということで非常に軽い。
『ティカ、ご機嫌だね。セイラートに会えるのがそんなに嬉しいの?』
「うん!早く会ってお兄さまの元気な姿が見たいんだ」
……あ、ハイルにティカじゃなくてリュートって呼んでほしいって言った方が良いかな?
まあ、愛称なんだから好きに呼んでもらえばいいか。
お母様たちが人前でティカからリュートに呼び方を変えてたのは、男の子につける愛称としてはリュートの方が自然だからってことだろうし。
「ごちそうさま」
いつもゆっくりと食べる朝食をかつてないほどの早さで食べ終え(それでも10分くらいはかかった)、クラハに連れられてお兄様のお部屋へ向かう。
お兄様の部屋への道のりは一度目で大体覚えていたけど、もっとしっかり覚えたいので周りを見ながら進んでいった。
お兄様の部屋の前に着き、ちょっと深呼吸。
さっきまで散々お兄様に会えると浮かれていたのに、急に緊張しだした私を見て、クラハが笑った。
だってなんか……ねえ?
元気になったって人づてで聞いてもあんまり実感できないし、昨日はダウンしてたからね。
お兄様が回復してから会うのはこれが初めてなんだもん。
ちょっと緊張する……。
ふう、と一息ついてからドアを開く。
そこには二日前と変わらない光景が広がっていた。
……ただひとつ、お兄様が椅子のそばに立っていることを除いては。
私はドアを開いたまましばし固まってしまった。
「あ、リュート……」
「……お、お兄さま?!座ってください、無理しないで!」
いくら呪いが解けたといっても、ずーっと呪いのせいで体が弱かったお兄様が一日や二日で回復しきれるはずがない。
そう思ってすぐそばのふかふかの椅子に座らせようとしてお兄様の方に駆け寄ると、お兄様にぎゅー、と捕獲されてしまった。
そしてお兄様は私から少し体を離し、またも驚いて固まっている私を見てくすくすと笑う。
わ、笑ってる場合じゃないでしょ、お兄様!
早く座ってもらわないと……。
「リュート、大丈夫だよ。無理はしてない」
「ほ、本当に……?」
「本当。リュートが僕を助けてくれたんだろう?光に包まれた時、それまでずっと重かった体がすっと軽くなったんだよ。次の日起きたら、信じられないくらい元気になっていたんだ。今ならきっと剣だって振れるよ」
「本当に……?」
「本当だってば。全部リュートのお陰だよ。ありがとう」
そう言ってにっこりと笑うお兄様の笑顔はとても明るい。
前のお兄様の笑顔も儚げで天使のようだったけど、今の笑顔の方がより可愛らしく、天使そのものだと思う。
その笑顔を見て、私はやっとお兄様が元気になったのだと、お兄様を助けられたのだと実感できたのだった。
「お兄さま……良かった……!」
私は嬉しくてちょっと涙ぐみながら満面の笑みを浮かべ、お兄様に再度抱きついた。
お兄様もしっかりと抱きしめ返してくれて、幸せに浸っていると、疑問が湧いてきた。
「でも、どうしていきなり元気になったのかな?」
私が望んでたのは確か『お兄様を助ける力を』だったはず。
もしかしてハイルが自分で判断してやってくれたのかな?
『僕がやったんだよ。呪いを解くだけだと体力が削られ過ぎてて危なかったから、体力を回復させようと思って。それで、どうせやるなら運動ができるくらいまで体ごと……体力も筋力も全部回復させたらティカが喜ぶかな、って……』
やっぱりハイルだった。
私を喜ばせるためにここまでやってくれたらしく、正直、前世を含めて今までもらった中で一番嬉しい贈り物だ。
最後の方、少し照れて声が小さくなっていったハイルの非常に愛らしい姿を見ながら、私はハイルに最大限の喜びと感謝を込めて満面の笑顔でお礼を言う。
「ありがとう、ハイル!僕のためにそんな嬉しいことしてくれるなんて……。僕はハイルが大好きだ!」
『僕もティカが大好きだよ!』
お兄様から離れて今度はハイルを迎えようと腕を広げる。
私の言葉に顔を輝かせたハイルは私の肩から降り、すぐに私の胸に飛び込んでくるかと思ったのだが、私の方を向いて止まった。
どうしたのかと不思議に思っていると、突然ハイルの体が発光し、私と同じくらいの大きさになって光が収まった。
そしてその姿で私の胸へ飛び込んでこようとするのを、私は慌てて止めた。
「ちょ、ちょっと待って、ハイル」
『……どうして?』
どうしてもこうしてもあるか。
ただびっくりして混乱してるんだよ。
ハイル……君、大きさ自在だったんだね?
今の姿は私と同じくらいの男の子……まあつまり二歳児だね。
幼子の姿のハイルが泣きそうに顔を歪めているので罪悪感はあるが、もう少し待ってほしい。
……て、あれ?
お兄様もクラハも、何でそんなに固まっていらっしゃるのでしょうか。
……私は今何かやらかした?
はっ、まさか私に純粋な好意を向けてくれているハイルに対してなんて非情なことを!みたいな感じ?!
……んー、でも、二人が凝視してるのって私じゃなくてハイルの方みたいだね?
……何で?