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竜巻の種明かしです。

トレーネ嬢とフラウ夫人が帰途に着いた後、私達は「話がある」と言うお父様に執務室へ集められた。

そこで話されたのは先程の竜巻の件に関する一部始終についてだ。

それだけならすぐ済むかと思い、エルクは疲れただろうからと先に部屋に戻らせた。

けれど、事はそう単純ではなかったらしく、少々長くなってしまったのでもう寝てしまっているかもしれない。

…それはともかく、お父様からの話の内容を簡単にまとめてみた。

曰く—————


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


・三日前、屋敷の敷地内に不審な侵入痕跡を発見した。

・その痕跡は明らかに動物のそれではなく、魔法を使った残滓もあったため、危険と判断された。

・もしも敵であれば警備の配置や時間などが漏れれば大変なことになるので、漏れた可能性のあるそれらを変更。

・けれどトレーネ嬢とフラウ夫人との面会日が迫っていることもあり一抹の不安が残るため、屋敷に(トラップ)を仕掛けることにした。

・仕掛ける時期が早すぎると侵入者に察知される可能性が高まるため、面会の直前に仕掛けようとしていた。

・その算段をしているところへ、折良くセイル兄様が現れ、今後の私の安全確保のために面会日へ向けて何か仕込んでおきたいと提案してきた。

・セイル兄様は私の安全を確保する為には私が魔法を使う所を見せるのが一番良いと考えた。

・お父様も私の能力を隠すより公にした方が敵対勢力(あちら)への抑止力になると考え、(トラップ)と兼ねて何か仕掛けることにした。

・その結果があの竜巻である。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「…いやいや、ちょっと待ってください。セイル兄様、何してるんですか!?」


思わぬところでセイル兄様の名前が出てきて驚いてしまった。

ていうか、え?

いつそんなの仕込んだの!?

私たちとセイル兄様はこの三日間ほぼずっと一緒にいたのに。

…あ、セイル兄様が面会の直前に部屋を出て行った時か!

私の安全を確保するためとはいえ、どうしてそんなことを…?


「何って、聞いた通りだよ?リュートは跡取りだし、命を狙われる可能性が一番高いからね。安全を少しでも確保しておきたかったんだ。今後は敵が内側に堂々と入ってくることになるし、危険だろう?でも、リュートが魔法を使うところを一度でも見れば、生半可な襲撃には意味がないと嫌でも理解できる。そうすれば無駄に煩わされなくて済む」


…うーん、確かに。

普通魔法の扱いがある程度出来る人であれば他の人の魔法に干渉して結果を変える事が可能なのだ。

まあ干渉される側も抵抗するし結果がどうなるかは相手の技量次第なんだけど。

けれど、ハイルの能力なのかリュート様の能力なのかそれとも両方か、私の魔法は他の人とは比べ物にならないほど強力かつ堅固なのだ。

並の術者では結果を変えるどころか不安定にすることすら出来ないだろうと魔法の先生に言われている。

少し魔法に明るい者なら見ただけでそれが理解できるだろう。

私やセイル兄様の魔法を破ることができ、尚且つレーツェル家の優秀な騎士団を突破できる者などそうそう用意できるものではない。

仮に用意できたとしても、そんな貴重な人材は消耗品のように扱う事などせず、絶好の機会を待ってピンポイントで狙ってくるはずだ。

それはそれで脅威ではあれど、襲撃の度に今回は凄腕が来るかもしれないと警戒するのは骨が折れるし、襲撃回数が減るのは助かる。


「襲われた時の対策よりも襲われないための対策の方が大事だから。その為には向こうに襲うデメリットが大きいと思わせるのがいいんだよ。本当は大元を断つのが一番なんだけど、それは難しそうだしね」


「…いや、それはそれとして、どうして竜巻だったんですか?僕はあの樹に結界を張りましたけど、僕の力を見せたいのなら僕がその(トラップ)を仕掛けたってよかったでしょう?」


私がそう尋ねると、セイル兄様は一瞬不思議そうな顔をした。

けれどすぐに「あ、そっか」とでも言いたげにポンと手を叩き、悪戯っぽい視線をこちらに向けてきた。


「リュート、あの竜巻は誰が創ったと思う?」


「…?お父様ですよね?」


「その通り。そして父上は、剣技と魔法共に一流であることが近隣の国々に対外的に知れ渡るほどの腕前だよね」


…なるほど。

だんだんセイル兄様の言いたいことが分かってきたぞ。


「…つまりそんなお父様の魔法を、その威力に影響を出さず正確に樹の周りだけに干渉するというのはかなり難しいことであると」


「そう。父上の魔法と絡めて見せることでリュート単体で見せるよりも強い印象を与えることができるってわけ」


そう言って誇らしげに胸を張るセイル兄様。

…なんか私とお父様を自慢してるみたいで可愛い。

お父様も同じことを思ったのか、表情こそいつもの無表情だけれど、セイル兄様をじーっと見つめていた。

それに気づいた兄様は気恥ずかしそうに「う…」と小さく呻き、視線を彷徨わせる。


「セイル兄様、顔赤いですよ」


私がそう言うと、セイル兄様はちらっとお父様を見ながら「もう、リュート…!」と可愛らしく抗議してきた。

やばい、セイル兄様が何してても可愛くしか見えなくなってるどうしよう。

…いや、実際可愛いんだから別に良いか。

とりあえず頭を撫でておいた。

何故かセイル兄様が赤いまま情けない顔になっていたけど、可愛いんだから仕方ないよね。


「…ほ、本当は怪我を治すところも見せておきたかったんだ。リュートの真骨頂はやっぱり治癒魔法だから。…でも、そのためだけに誰かを怪我させるなんてことしたくないし、リュートも嫌だろう?どうしても他に手段がないならそれも仕方ないのかもしれないけどね」


「そうですね…って、あ!そういえば、トレーネ嬢が倒れてしまった時に魔法で癒してあげれば良かったですね…。そうすればその目的も果たせましたし。うっかりしてました…」


私はただ単に思い出したからその話をしただけだったのだけれど、トレーネ嬢の名前が出た瞬間セイル兄様の雰囲気が変わった。

でも、私は反省に夢中になってそのことに気づかず、話を逸らさなかったことを後悔することになる。


「…そうだ。そのトレーネ嬢のこともあったね…」


隣のセイル兄様から普段聞かないような暗ーい声が聞こえてきた。

私は何故だかその声に危機感を感じ、ギギギ、と音がなりそうな動きでセイル兄様の方を見る。

すると、セイル兄様はさっきのお父様そっくりのキラキラ笑顔でこちらを見ていた。

…あ、これやばい。


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