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衝撃の事実です。

お屋敷に戻ってきました。

さっき、セイル兄様が『お風呂に入りたい』と言った後、一応エルクに『別々で入らない?』とさりげなーく遠回しに言ってみたけど、残念ながら答えはノーでした。

酷い扱いを受けてたエルクを強く拒絶なんて出来るわけないし…。

がっくりしながらも態度には出さず、セイル兄様とはお部屋に戻る途中で別れ、現在エルクと一緒に私の部屋へお風呂へ入るために向かっております。


(…どうしよう…)


ここのお風呂は自分で入るのではなく、自分付きの使用人にお任せスタイル。

クラハや他の事情を知ってる人なら良かったんだけど、あいにく今エルクについてる侍女は新人。

この家の使用人はみんな厳しい面接試験の末に採用不採用が決められているため、スパイ的な人物が入り込むことはかなり難しいと聞いたけれど、そういうことが全くないわけではない。

新人なんて一番警戒しなければならないのだ。

かといって、突然強硬にエルクの同席を拒んだりしたら不審に思われてしまう。

まあ普通ならそれくらいどうってことないんだけど、私の場合は後ろが暗いどころか真っ暗だし、疑われるようなことは極力避けなければならない。

でも、そのまま入ったら当然バレてしまうし…。


(…ゆ、湯帷子(ゆかたびら)的なの着て入るとか…?)


…いや、ここにはそんな文化はないし、それこそ不審に思われるだろう。

そもそもそんなの持ってないし。

そうなると、多少変に思われてもやっぱり別々を申し出るのが良いのかな…。

なんて考えていたら、いつのまにか部屋に到着してしまった。


「お疲れ様です、リュート様。湯浴みの準備は整っておりま…」


クラハが言葉の途中で笑顔のまま固まる。

エルクを見て、ギギッと音が鳴りそうな動きで私を見た。

クラハの視線が『どういうことですか?!』と言っているのを見て、私は困った顔をするしかない。

私の顔を見て、ある程度状況を悟ったらしく、頭が痛そうに手を額にやるクラハ。

その後、さっきと同じようにクラハがしゃがみ込んだ。

この姿勢は、クラハが幼子に何かを言い聞かせる時に使う姿勢だ。

クラハの乳母パワーでエルクに上手く言い聞かせられたらいいなあ…。


「エルクント様、リュート様の前に湯浴みを致しましょう。こちらの浴室はとても広く綺麗で、湯浴みがより気持ちよく感じられますよ」


さすがクラハ。

エルクが関心を持ったらしく、少しソワソワし始めた。

これなら、いけるかも?


「…入る」


おお!

クラハすごい!

…と思ったけれど、やっぱりそんなに甘くはなかった。

歩き出したエルクはしっかり私の手を握ったまま離そうとしない。

どうやら興味を持ったのも入ると言ったのも、私が一緒であること前提の話だったらしい。


(あ〜もう、断ることはできないし、どうすればいいの…)


『…ティカ、さっきから何をそんなに悩んでるの?』


私が脳内で苦悩しているのを不思議に思ったらしく、ハイルが私の肩に乗った状態で現れた。

私はハイルと一緒なら何か妙案が浮かぶかもしれないと思い、急いで状況を説明する。

すると、ハイルは事も無げにこう言った。


『じゃあ男になればいいのに』


……え、ドユコト?

ハイルは『何でそんなことで悩んでるの?』とでも言いたそうな顔でこちらを見ている。

私も私で意味が分からなくて、しばしエルクに引っ張られているのも忘れてハイルと見つめ合う。


『…?ティカは男になるのは嫌なの?』


『…い、嫌っていうか、そんなの出来るわけ…』


『出来るよ?まあ結構魔力を消費するから、短時間しか無理だけどね。それが嫌なら、映像を体に固定して男に見せてもいいけど。そっちの方が魔力消費は少ないからね』


いやいやいやいや、そんな馬鹿な。

短時間でも性別を変えるなんてこと、ありえないでしょ!

何でそんな常識みたいに言ってるの?!

私がおかしいの?!


『…あ、映像固定の方は実体はないよ』


……………。

そんなの今はどうでもいいよ!

いや、良くはないけど!

…まあ、ハイルが規格外なのは今に始まったことじゃないし、あんまり人と関わってこなかったみたいだから人の常識が分からないんだろうし、仕方ないか…。

よく考えれば、光の精霊…というかハイルは身体の欠損も当たり前のように治せるんだし、出来てもおかしくはない…のかなあ。

あーもう、さっきまで悩んでたのは一体何だったんだろう。


『はあ…』


『ティカ?』


ため息をつくと、ハイルが心配そうに私の顔を覗き込んできた。

…折角ハイルが教えてくれたのに、こんな態度じゃ失礼だね。

ハイルのお陰で解決できるんだから、素直に喜ばないと。


『ううん、何でもない。お陰で解決したよ、ありがとうハイル!』


『そう?どういたしまして、ティカ』


本当はぎゅーっとしてあげたかったけど、いきなりハイルが大きくなって実体化したらエルクたちを驚かせてしまうので後にする。

それにしても、問題が解決したのはいいとして昨日の今日でまた魔力を大量に使うことになっちゃうよね。

…大丈夫かな?

男性化の方はハイルも短時間しかもたないって言ってたし、入浴の途中で魔法が切れちゃったら最悪だよね。

切れるだけならまだしも、もれなく倒れちゃうだろうし。

そうなったら、再びあのセイル兄様のマジギレ姿を見ることに…。

うっ、トラウマが…!

だ、男性化はやめとこう、うん!


『じゃあ、映像固定の方にする。魔力は送るから、脱ぎ始めたら魔法をお願いね!』


『うん』


まあ衝撃の事実も飛び出したけど、解決できて良かった。

そう思いながら脱衣所に入る。

ハイルとの話に夢中になっていたせいで何も話せなかったので、クラハの顔がかなり険しい。

私はさりげなくクラハの袖を引き、声を潜めて『大丈夫』と言った。

それを聞いたクラハは驚いていたけど、すぐに気を取り直して頷いてくれた。


「エルクント様、少し離れていてくださいね」


そう言って、エルクが離れたのを確認したクラハは私の稽古着をシュルシュルと脱がせていく。

それと同時に私がハイルに魔力を送ると、服の内側で身体が一瞬薄く光った。

そうだ、ハイルが魔法使う時って基本発光するんだった。

服がまだ身体を覆ってる段階じゃなかったら危なかったね。

侍女がこっち見てなくて良かった…。

そんなことを思いながらも大人しく脱がされていく。

全て脱ぎ終わった私の身体は、傍から見れば完璧に男だ。


(…おお…すごい)


でも、感覚はそのままだし何か変な感じ。

ともあれ、規格外なハイルのお陰で私は窮地を脱することが出来たのだった。


〜クラハの心境〜


「リュート様はどうなさるおつもりで…発光?…リュ、リュート様のお身体に一体何が?!」


窮地を脱したこと自体は喜ばしくて安堵できることなのに、リュート…というよりハイルがやらかしたせいで、優しい笑顔のまま内心暴風雨なクラハなのでした。

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