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翌朝(昼?)です。

「ん…」


なんか眩しい…。

もー、人がせっかく気持ちよく寝てるのに。

昨日は夜遅くまで頑張ったんだからもうちょっとくらい寝かせて…。


「…あっ、また寝た!やっと起きたと思ったのに…」


セイル兄様の声…?

何でセイル兄様が私の部屋に?

…まあ、眠いし何でもいいか。

けど、なんかセイル兄様がちょっと寂しそうな声出してる気がする…。

それはちょっと放って置けないなあ…。

あーそうだ、セイル兄様も一緒に寝ればいいんだ。


「えっ、ちょっ…リュート!」


「んー…一緒に寝れば万事解決ぅ〜…」


「何の話?!」


なかなか起きてこない私を起こしに来たクラハが、この状況を発見するのは約1時間後。

ちなみに、クラハを呼ぶためのベルは最初からベッドからでも手が届く位置にありました。

それを知ってたはずなのに使わなかったセイル兄様…。

ともあれ、発見したクラハに微笑ましげに見られながら、1時間後にようやくセイル兄様は私から解放されたのであった。



———————————————



「…いや〜、セイル兄様は抱き心地最高でしたね」


「もう、僕は抱き枕じゃないんだよ?」


セイル兄様は文句を言ってるけど、いや本当最高だったんだよ。

意識が覚醒しかけてたところから1時間も寝ちゃったのは確実にそのせいだと思う。

…と、冗談はさておき(あながち冗談でもないけど)セイル兄様がここに来た目的をそろそろ聞いておこうか。


「それで、セイル兄様は何故ここに?」


「ああ、そうだった!リュートが倒れたって聞いて、心配だったから朝一番に様子を見に来たんだ」


「そうだったんですか、朝一番に…。…え、朝一番?」


朝一番って、今お昼前なんですけど…。

だって、最初に意識が浮上しかけた時にはもう日差しを眩しく感じるくらい日が高くなってたんだよ?

セイル兄様、どれだけあそこに座ったままいたのさ。

え、まさかその間ずっと私の寝顔を眺めてたとか…?


「そうだよ?リュートの寝顔を眺めてたら待つのも全然苦じゃなかったんだ。まあその後抱き枕にされるとは思ってなかったけどね」


「そ、ソウデスカ…」


あはは、と爽やかに笑うセイル兄様がどんどん取り返しのつかないブラコンになっていってるような気がするのは私だけだろうか…。

これ以上のブラコンになったら兄様のお嫁さんになる人に申し訳ない。

だけど止め方もよく分からない。

え、嫌われるのが一番手っ取り早いって?

何寝ぼけたこと言ってるの、セイル兄様に嫌われるくらいなら死んだ方がマシだよ!!


「あ、そういえば、リュートが治療してあげた子も目が覚めたって。支度が済んだら一緒に様子を見に行こうか」


「そうなんですか?良かった…。はい、一緒に行きましょう!」


確かに、エルクントのその後は気になる。

目が覚めたなら対話もしておきたいし、多分大丈夫だとは思うけどまた治療が必要ならしないとだし。

そのためにもさっさと支度を済ませてしまおう。

…と、思ったんだけど。


「…あの、セイラート様」


「うん?」


「ちょっと部屋から出ていてもらえませんか?リュート様のお召し替えを致しますので…」


椅子に座ったまま動かないセイル兄様に、クラハが困った顔をしている。

まだ子供だから着替えを見られたところで女だとバレる心配はないし、寧ろセイル兄様ならバレても大丈夫だとは思うんだけどね。

それでも、クラハは私の着替えをセイル兄様に見せることは許容出来ないらしい。

うん、剣術の稽古の時にクラハがいないのをいいことにたまにだけどセイル兄様の目の前で着替えてることは黙っておこう。

…だって、剣術の稽古すると汗で服が濡れてベトベトするし気持ち悪いんだもん!

セイル兄様はきょとんとした後、納得したような顔で私に悪戯っぽい視線を向けてから頷いた。


「分かった。じゃあ僕は隣の部屋にいるからね、リュート」


「…はい」


微妙に目を逸らしながら言う私に、くすっと笑ってからセイル兄様は部屋を出て行った。

クラハにばらす気はなさそう、良かった〜。

なんて思っている間にクラハが着替えを準備し、素晴らしい手際であっという間に着替えさせられ、髪も整えられた。

これで準備万端だ、と意気揚々と隣に続く扉を開けると同時にセイル兄様に呼びかける。


「セイル兄様、終わりました!行きましょ…って、え?」


「……リュート……」


けれど、そこにはセイル兄様はおらず、何故かお父様がいらっしゃいました。

…何で??

何回も言うけど…もうお昼前だよ?

お父様、仕事はどうしたの?

何の用??

頭の中がはてなでいっぱいでつい返事を忘れてしまったのだが、それをどう受け取ったのかお父様の顔が暗くなった。

え、何でそんな顔するの?!


「…すまぬ。私の顔など見たくもなかろうが、言っておかねばならぬことがあったのだ」


「え…?」


私がお父様の顔を見たくない?何で?

寧ろお父様が部屋に来てくれてすごい嬉しいんだけど。

私お父様に何かされたっけ?

全然身に覚えがないし、さっきから私全然ついていけてないんだけど…。

ていうか、言っておかなきゃならないことって何だろう。


「…リュート、傷つけてしまってすまなかった。許されるとは思っておらぬ。だが…」


「…いや、ちょっと待ってくださいお父様。さっきから一体何の話ですか?どうして僕がお父様の顔を見たくないんです?それに、そもそもお父様に傷つけられた記憶なんて…!」


私が一気にそう言い切ると、お父様は戸惑ったような空気を出した後いつものように目から殺人光線を放ちながら考え込んでしまった。

しばらくそのままフリーズしていたが、ややあって何かに思い当たったらしく、お父様が光線を解除して口を開いた。


「…言葉が足りなかった。…エルクントのことだ。その姿を見て、ショックを受けたのであろう?」


「う…それは…」


それについては、否定のしようのない事実だ。

だけど……。


「…お父様が謝ることではないです。治療をすると決めたのは自分なのですから」


「…いや、謝ることなのだ。お前を傷つけてしまうと分かっていてそう仕向けた」


「どういうことですか?」


私がそう聞くと、お父様が苦い顔で話し始めた。

内容をまとめると、私とハイルの能力を測るためにエルクントを利用したってことらしい。

お父様は私の心を無視した結果私が傷ついたことを悔やんでるみたいだけど…。

私からすれば、お父様はお父様に出来る最大限の配慮をしてくれてるし、より好きになることはあっても嫌いになんてなるわけがない。

それに、セイル兄様だってちょっと私が傷ついたくらいでお父様のことを嫌いになるはずないのに。

…多分。


「事情は分かりました。けれど、僕がお父様を嫌うなんてありえません。こんなにも想われているというのにそんなことをしたら、お母様とクラハに怒られてしまいます」


「…だが、私の決断のせいでリュートが傷ついたのは事実であろう」


「んー…分かりました。それなら、1つだけ僕のお願いを聞いてください。それでこの話は終わりにしましょう」


それを聞いたお父様は戸惑ったような困ったような、複雑な顔をしていた。

多分そんなことで終わりにしていいのかっていう戸惑いと、あまり無茶なお願いだと叶えられないから困るなっていう顔なんだろう。

大丈夫だよお父様、そんな難しいお願いじゃないから。


「…願いとは?」


お、お願いを聞いてから判断することにしたらしい。

うーん、そんな難しいお願いじゃないけど、言ったら反対されるかな?

下手したら危険なことに自ら首を突っ込むことにもなりかねないもんね。

まあでも、とりあえず言ってみるか。


「『影』が欲しいんです。僕専属の。1人でいいので『影』を僕にください!」


そう言うと、お父様は何も言わず私を見つめる。

まるで真意を問うかのようなその視線を、私はまっすぐ見返した。

何故か分からないけど、ここで目を逸らしたらダメだと直感的に思ったから。

そうしてお父様と見つめ合うこと数十秒。

私の視線に何を思ったのか、お父様がふっと視線を和らげた。


「良いだろう。ふさわしい者を1名選定し、後日贈る」


「本当ですか?!」


自分の顔がぱあっと輝くのが分かる。

やったね、これで私も情報収集が出来るようになったよ!

お父様の役に立てるように頑張らなくちゃ。

私は屋敷の外にはあんまり出られないし、社交界デビューもまだだから自分で動くことは出来ない。

でも、影がいてくれれば影を動かすことで情報を集められるし、行動を起こすこともできる。

…エルクントの時みたいに手遅れにならないようにしないと。


「…『影』を使うには少し早いが、今のうちから信頼関係を築いておくのは悪くない。有効に使いなさい」


「はい!お父様、ありがとうございます!大好きです!」


「………」


座っていた椅子から降りてお父様に抱きつくと、お父様は眉を顰めて(多分)驚いた様子で沈黙した。

けれど、すぐに表情は和らぎ、頭を撫でてくれた。

うん、やっぱり落ち着く。


「…あ、そういえば…。お父様、セイル兄様を見ていませんか?」


「…?セイルならば、ずっとそこにいるが?」


「え?」


そこにって、どこに……あ。

なんか今、お父様の背後のカーテンが不自然な揺れ方したような。

もしかして…。


「…あっ」


「やっぱりここでしたか」


カーテンの裏を覗き込むと、セイル兄様がいた。

なんだ、いたなら出てきたら良かったのに。

お父様は最初っから気づいてたみたいだし、セイル兄様にも関係ない話じゃなかったんだし。


「どうして出てこなかったんですか?」


「いや、出るに出られなくて…。リュートを待ってたら外から鳥の鳴き声がして、窓から外を眺めてたんだ。そうしたら父上が入ってきて、咄嗟に隠れちゃって…」


なるほど。

まあそれならしょうがないか。

セイル兄様はバツが悪そうにそう言った後、お父様の方に向き直った。


「そんなことより、父上。僕たちが父上を嫌うなどありえません!確かに僕はリュートを傷つける者が嫌いですが、それは悪意を持ってリュートを傷つける者のことです。父上とは違います!」


「そ、そうか…」


いつもはお父様に対してどこか遠慮気味なセイル兄様が、語気を強めて言った。

お父様はそれに少し面食らったような顔をしている。

ふふん、私たちの愛を信じなかったお父様が悪いんだもんね。


「お父様、言わなければならないことってこれで全部ですか?」


「…いや、もう1つある。リュート、治療の際に自分で魔法を使ったのであろう?」


「ああ…そういえば。あれ、何だったんでしょう?びっくりしました」


いやほんと、びっくりしたよね。

何でああなったのかは本当に分からないし、やろうと思ってやったわけじゃないしね。

あれ、やっぱりおかしいことだったのかな?


「…その事は、誰にも言わないように。これは公爵家当主としての言葉だ」


公爵家当主としての言葉?

それってつまり、絶対の命令ってこと…だよね。

そこまでしないといけないことだっていうの?

…まあでも、『父親』でなく『公爵家当主』の言葉に逆らう事はいくら息子であっても許されないんだから、答えはイエスしかないんだけど。

逆らう理由もないし。


「…分かりました。決して口外しません」


だけど問題は、私は今回無意識でやったってことなんだよね。

制御する方法もわからないし…ハイルなら知ってるかな?

後で聞いてみよう。

とにかく、人前で使うことがないように気をつけないと。


「…よろしい」


私が口外しないと言ったことに満足したのか、何処か安堵を滲ませながらお父様はそう言った。

そして、私とセイル兄様の頭をさらりと一瞬撫で、お父様は私の部屋から出て行ったのだった。


え、もしかしてこれ言うためだけに今日お仕事休んだとか言わないよね、お父様?

いやいや、まさかそんなわけないよね、うん。

…あと、毎回思うけど、私もうちょっと長く撫でて欲しいです、お父様!


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