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持ち帰られた爆弾です。

間に合わなかった…。

お父様と別れてすぐ、ハイルが私と同じくらいの大きさで目の前に現れ、どーん!と勢いよくタックルしてきた。

ぐはっ!と呻き声を上げるも、御構いなしでそのままぎゅうぎゅうと抱き着かれ、しばらくされるがままになる。


「はは…ハイル、おかえり」


「ただいま、ティカ!僕、嬉しいよ!」


何の脈絡もなくそう言うハイル。

…まあ恐らく、「嬉しい」というのは同調ができたことを指しているんだろう。

さっき同調についてアインから話を聞いたところによると、『同調』とは心が通っていないと絶対に成功しないものであり、それが出来るということはすなわち絆が深いことの証明になるらしいから。

それを聞いて、私もかなり嬉しかったし。


「うん、僕も嬉しい!それに、よく頑張ったね」


「ティカの為だからね!」


お父様とアルが強すぎたのと、襲撃者が大して攻撃をせずに去ったためにハイルと私の出番がほとんど無かったけれど、使った魔法は相当高度なものだ。

それに、私がお願いしたことをしっかり実行してくれたし、本当にハイルは頑張ってくれたと思う。

感謝とお礼の気持ちを込めて、全身全霊でハイルを褒める。

思いっきり甘やかしてあげよう。


「リュート、それくらいにして移動しないと父上を待たせてしまうよ」


セイル兄様が私たちがじゃれているのを見て苦笑しながらそう言うので、甘やかすのは後にして食堂へ向かう。

私とセイル兄様が夕食の席に着いて少しすると、お父様が食堂へ入ってきた。

以前とは違い、気詰まりな雰囲気になることもなく和やかに食事が進んでいく。

食後のティータイムまで終わったところで、穏やかな空気を変えるようにしてお父様が口を開いた。


「セイル、リュート。…後ほど私の執務室へ来なさい。少し長くなるので、諸々の用事を済ませた後で構わぬ。…今後に関わる重要な話だ」


「…はい」


「分かりました、父上」


お父様の真剣な声に、少し緊張しながら返事をする。

いつもの談話室でお話を聞こうと思っていたのにわざわざ執務室に呼び出されたのは、それだけその話が重要だということなのだろう。

私は一刻も早く話を聞きに行くためにお風呂や着替えを素早く済ませ、お父様の執務室へ向かおうと部屋から出る。

すると、示し合わせたかのようにセイル兄様も部屋から出てきた。


「…セイル兄様、行きましょう」


「…うん」


執務室へ向かっている最中、セイル兄様は緊張からか唇を引き締め、だんだんと早足になっていく。

脚の長いセイル兄様に早足になられるとまだまだ成長が足りない私では追いつくのも一苦労で、そちらに必死になっているせいで緊張が行方不明だ。

こんな風に競歩するくらいなら小走りになった方がいくらか楽だろう。

…くっ、そろそろつらくなってきた!!


「着いたね。リュート、入ろう」


「ハァ、ハァ…セ、セイル兄様、ちょっと、待ってくださ、い、息が…」


「え、リュート?!どうしたの?!大丈夫?!」


やってる最中より止まってからの方がしんどい。

私の息が整うようにセイル兄様が背中をさすりながら心配してくれるけれど、そもそもこれ兄様のせいですからね!

待ってとか言わなかった私も悪いけどさ!

喋れない私の代わりに、後ろからついてきていたクラハとセイル兄様付きの執事であるハストが何故こうなったのかを説明してくれた(ちなみに、ハストはレーツェル家筆頭執事であるナードの息子である)。

後ろにいて全て見ていたのに何故諌めなかったのかって?

兄様に追いつこうと頑張っている姿が微笑ましくて、諌めるほどのことではないと判断したんだってさ。

むぅ、こっちは必死だったっていうのに。


「…ふう。もう大丈夫です」


「本当に?ごめんね、気づかなくて…」


心底申し訳なさそうなセイル兄様に、もう一度大丈夫だと笑みを浮かべる。

まあ何はともあれ、着いた。

落ち着いた私は改めて扉を見上げる。

扉は重厚な造りで、行方不明になっていた緊張が私の元に戻ってくるのを感じる。

ハストが観音開きの扉を開けていき、少しずつ中の様子が見えてくる。

ごくり、と喉が鳴ったのはどちらだったのか分からないけれど、どんな話でも受け止める覚悟はできた。

よし、行こう。


中に入ると、夜だからか薄暗い部屋の中央に長方形の大きいテーブルがあり、両側に上等なソファーが置いてあるのが見えた。

右と左の壁際には、壁が見えないほどの巨大な本棚が置かれ、その中は本で埋め尽くされている。

入り口から見て正面の、テーブルとソファーを挟んだ奥の方にはお父様の執務机と思しき大きな机があり、その上には書類が山積みになっている。

その書類の中心に、お父様が居た。


「…来たか。そこに座りなさい」


言われるがままに、私たちはソファーに座る。

私たちが来るまで仕事をしていたらしいお父様は、作業を中断して反対側のソファーに座った。

クラハたちはお茶を淹れてすぐに退室し、執務室には私とセイル兄様とお父様の3人だけが残される。


「…………」


「「…………」」


何なんだろう、この沈黙。

さっきからずっとお父様は目を瞑って口を開く気配もないし、セイル兄様はそわそわと落ち着かなさそうだし。

お父様の沈黙には最近割と慣れてきてむしろそれが心地いいくらいになっていたし、それが分かっているからいつもは私が喋り倒すんだけど…。

なんか今日の沈黙は喋るのが躊躇われるというか、空気が重いというか…微かな音すら立てるのを戸惑うような、息苦しさがある。


「…………」


どうすればいいんだろうか。

お父様の表情は相変わらず無表情のままだけれど、少しだけ眉にしわがよっている。

でも、ブリザードは放たれていないから、怒っているわけではないらしい。

…少なくとも私たちには。

黙っているだけの状況に耐えきれなくなってきた私がお父様の顔を観察していると、不意にお父様が目を開けたので慌てて目を逸らした。

…いや、別に逸らす必要なんてないんだけど、何となくね。

それに気づいたのか気づかなかったのか、お父様は目を伏せて話し始めた。


「…すまぬ。何から話すべきかと悩んでいたのだが…結論を先に言おう」


…結論?

襲撃とか、諸々のせいで何かあったってこと?

今後に関わる重要な話、って言ってたけど…あの襲撃が、何に繋がったっていうんだろう。

私とセイル兄様の続きを促すような真っ直ぐな視線を受け、お父様が一つ息を吸った。


「二週間後、この屋敷に三人の者を迎える。…私の後妻となる者と、その娘…お前たちの義妹となる者が一人ずつ。…それとは別に、もう一人」


お父様の重い口から紡がれた言葉は、なるほど確かに今後に関わるものすごく大事な話であった。

てゆーか私の生死に関わる爆弾でしょ、これ!!


リュート「………」ぽかーん

セイル「………」唖然

お父様「………」反応がないので何も言えない

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