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天使の御尊顔です。

お待たせしました。

ハイルとの同調を切った私の意識は、引き戻されるようにして私の体に戻った。

体の感覚が戻り、うっすらと目を開けた途端、目の前に私を心配そうに見つめるセイル兄様が鼻先が触れそうなほどのドアップで映る。


「…っわぁ?!」


「っと。リュート、大丈夫?」


び、びっくりしたぁ…!

いきなりセイル兄様の天使な御尊顔が目の前に!

あー、心臓が止まるかと思った。


「リュート、御尊顔って…」


セイル兄様が呆れ顔で何か言っているけれど、声に出してもいないのに聞こえているわけがないのでスルーしよう。


「いや、さっきから声に出てるよリュート」


スルーだ、スルー。


「え、無視…?っていうかスルーって何?」


聞こえません。

それより、話を戻そう。

…あ、ちなみに、御尊顔のドアップに驚いて膝から落ちかけた私はセイル兄様にキャッチされ、しっかりと元の位置に戻されました。


「ねえ、リュート?」


どうやら私がハイルに同調することに成功した後、セイル兄様は意識を失って倒れた私の体を膝に乗せ、見守りながらずっとソファーに座っていたらしい。

何故倒れた後ベッドに寝かせるのではなくセイル兄様が抱えているのかという疑問については触れないでおこう、うん。

…特に理由はないけど。


「もう…」


私はセイル兄様の膝の上でごそごそと体勢を整え、落ち着く位置を見つけると、ちょっといじけた様子で唇を尖らせているセイル兄様にようやく笑顔を向けた。


「僕は大丈夫です!」


「それなら良いけど…」


私の満面の笑顔を見て軽く溜息をついたセイル兄様は、私の頭を撫でながらしょうがないなあ、とでも言いたげに苦笑した。

けれど、すぐに少し怒ったような拗ねたような声と口調になって私に文句を言い出す。


「…もう。リュートの様子が変だと思って様子を見てたら、いきなり倒れるからびっくりしたよ。受け止めるのが間に合って良かった」


「無防備に地面に倒れたにしては体のどこも痛くないと思ったら、セイル兄様のお陰だったのですね」


なんと、私が倒れた時セイル兄様は結構離れた位置にいたはずなのに、間に合ったっていうのか。

ありがとうセイル兄様、と私が屈託のない笑顔で言うと、またも軽く溜息を吐かれた。

そして、さっきと違って今度は声に出して「しょうがないなあ」と言われ、頭を撫でられる。

どうやらいきなり倒れたことについては許してもらえたようだ。

お礼の気持ちと謝罪の気持ちを込めて、セイル兄様にぎゅーっと抱きつくと、セイル兄様も抱きしめ返してくれた。


「…ところで、リュート。何があったの?」


私が離れると、セイル兄様が真剣な表情になって聞いてきた。

私が今までのことを掻い摘んで話すと、聞き終わったセイル兄様は顎に手を当てて少し考え込んでしまった。

暇になった私がそれを「うわーまつ毛長いな〜本当天使にしか見えないわ。……天使様が御降臨されたぞ!!みんな道を開けろ〜!!」なんて、ふざけながら表情だけは真剣に見えるようにして黙っていると、考え事が終わったらしいセイル兄様が私の方へ顔を向け、口を開いた。


「…うん、リュートの言う通り情報が圧倒的に足りないね。この状態で父上の言葉や行動の意味を推測するのは無意味だと思う。多分直接聞いた方が早い。父上がお帰りになるのを待とう」


「っえ、あ、はい!」


ちょうど興に乗ってきて「ふははははは!!!」と脳内で高笑いしている途中だった私は、いきなり声をかけられてちょっとどもりながら返事をする。

それをセイル兄様に訝しげに見られ、慌てて目を逸らした。

早く帰ってこないかなー、お父様。


「…待っている間に、父上に聞きたいことをまとめておこうか」


5秒ほど視線の攻防をした後、セイル兄様が諦めたのか話を進めた。

…ふっ、勝ったぜ。

あ、嘘ですごめんなさい、謝るからそんな目で見ないで!

そ、それにしても、聞きたいことかぁ…。

確かに予め決めておいた方が効率よくいろんなことを聞けるよね。

うーん、何があるかなあ?


「聞きたいこと…。そうですね…大まかには、襲撃の主犯は誰なのか、その者たちの目的は何なのか、お父様の目的は何なのか…このくらいでしょうか?」


「後は僕達がこれからすべきことは何かあるのか、王族はどう動くのかも知っておきたいかな。…それと、母上のことと何か関わりがあるのか…ってことも」


私の意見に付け足しをした後、少し目を伏せ、暗い表情になったセイル兄様が私が言えなかった言葉を言った。

…そう、それが一番気にかかるのだ。

お母様のことは、この屋敷の者は誰も積極的に口に出そうとはしない。

皆、まだお母様のことに関しては納得できない部分が多いせいか、思い出になど出来ていないのだ。

せめて真相が分かったなら、少しずつでも思い出に昇華していけるのに。

…お父様だけは、真相も大体分かっているのかもしれないけど。


「…そうですね。それも聞きましょう」


「………」


私が返事をした後、私もセイル兄様も何となく口を開く気になれず、無言になる。

きっとお母様のことを思い出しているんだろう。

…今回の事件、もしもお母様のことと繋がっているのだとしたら…。

敵はお母様のみならず、お父様まで私たちから奪おうとしたということだ。

何が目的なのか分からないけど、そんなの絶対に許せない。


レーツェル家はリート一族の頂点に立つ公爵家だ。

公爵の位を持つ者とそれに連なる者たちがこのような仕打ちを受けて黙っているなど、貴族社会ではありえない。

そんなことをしたら他の貴族に示しがつかないし、公爵家としての矜持もある。

ここまであからさまに喧嘩を売られては、買わなければ公爵家の顔に泥を塗ることになり、リート一族の者たちに迷惑をかけることになってしまうのだ。

だからこそ、受けた害に対しては相応の報復を行わなければならない。

あくまでも…《復讐》ではなく、《報復》を。

それが今すぐの事ではなくとも、レーツェル公爵家の名にかけて…必ず。



一人で黙ってそんな事を考えていた私は、隣でセイル兄様が穏やかな顔のまま私よりももっとずっとえげつない報復を考えていた事には全く気がつかなかったのであった。

セイル「…ふふ」

リュート「?!…何か今、悪寒が…」

セイル「リュート、大丈夫?風邪でも引いたの?」

リュート「いえ…何か、邪悪な気配がしたというか…」

セイル「…そう?それなら、僕がリュートを守ってあげるから大丈夫だよ」

リュート「セ、セイル兄様…!やっぱり天使ですね!!」


…さて、リュートの悪寒の原因とは…?笑

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