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悪役令嬢は令息になりました。  作者: fuluri
プロローグ
3/66

二歳になりました。

ご指摘があったので、主人公の年齢を少し上げます。

ストーリーにはあまり影響しませんので、気になさらずお読みください。

お母様が亡くなるという痛ましい事件があってからおよそ一年と九ヶ月ほどたち、私は二歳になりました。


この間に、私はクラハに本を読んでもらうことで文字を覚え、少しずつ本を読んできたので、今では普通にすらすらと本が読めるようになりました。

さすがにまだ書いたことはないのでそっちはまだ練習が必要だけどね。


魔法の本があるならそれも見てみたいと思うけど、さすがに赤ちゃんの手の届くところにそんな本はなかったので読めませんでした。

あわよくば魔法の練習でもしようと思ったのに……。


仕方がないから自分の中にある魔力らしきものを動かす練習をしてました。

なんかね、感覚であるのは分かるのに動かせなかったんだけど、それもやってるうちにだんだん動くようになってきました。


そして一歳前後からよたよたとだけど歩けるようになり、自分自身の容姿を確かめるべく鏡を探す旅へ出かけました。

まぁ20歩くらい歩いたところにあったわけだけれど、私はその時初めて自分の姿を見ることができたんだよね。

自分の姿を見た感想は……


『なんかどっかで見たことある美形』


でした。

割と中性的で可愛らしい顔立ちをしているのに、凛々しい印象を受けるこの顔立ち……。

うーん……こんな美形な人がいたら絶対覚えてるはずなんだけどなぁ……出てこない。

という、なんともモヤモヤした気持ちになる顔でした。

ここまで出かかってるのに!多分めっちゃ大事なことなのに!


ちなみに、私の髪の色はお母様譲りの薄い金色、瞳はお父様譲りの青みがかった銀色でした。

この色味もなぁ……どっかで……。


と鏡の前で首を捻っていると、乳母のクラハが「これは鏡でございます」と鏡の説明をしてくれた。

……うん、ごめんクラハ。それは知ってた。



そして、二歳になった今日。

私は初めて病弱らしいセイラートお兄様に会うことができる。

今まで病気が移ったら大変だとか、お兄様の体力的に赤ちゃんの相手は出来ないからとか、色んな理由で会えなかったからね。


でも!今日は私の誕生日!

半分諦めていたけど、お兄様に会いたいとクラハにお願いしてみたら、良い機会だから会わせてくれるって!

屋敷の者たちがお祝いをしてくれた後でお兄様のお部屋に少し顔を出す程度らしいけど、それでも嬉しい。


朝起きてすぐ、クラハに髪を整えてもらいながらにこにこと笑っていたら、笑われてしまった。

……何がおかしかったんだろう?


今日はお部屋で朝御飯を食べて、色々準備したり、クラハに本を読んでもらったりして過ごしていると、あっという間にお昼になった。

少しおめかしして、準備が整った後、クラハが急にこちらに向き直る。


「リュート様、お誕生日おめでとうございます。本日はセイラート様にお会いしますが、セイラート様は御体が弱くていらっしゃるので、あまり騒いだりしてはいけませんよ」


お兄様ってそんなに体が弱いのか……。

よし、お兄様に会ってもはしゃぐのは止めよう。

心の中で目一杯騒ぐだけにしておこう、うん。

っていうか、さっき笑ったのってもしかして私が「お兄様に会えるの楽しみで仕方ない」って思ってるのがバレたから?

だとしたら何か恥ずかしいな……。


「分かった、クラハ」


返事をして、部屋を出る。

あ、私こんなにはっきり喋ったの初めてだ。

今まで不自然にならないように気を付けてたのに。

どうやら私はお兄様に会えるのと、誕生日ということで相当浮かれてるみたいだ。

そんなことにも気を回せないなんて、もう少し気を引き締めないと!

……二歳で流暢に喋る赤ちゃん……い、いや、二歳ならまだ許容範囲のはず!


後ろでクラハが私が初めて単語ではなく文章で喋ったことにものすごく感激しているが放っておこう。

泣きそうだけど……いや、泣いてるけど……放って……うう。

……あーダメだ、放っておけない。


「クラハー?どうしたの?痛いの?」


……うん、赤ちゃんっぽいはず!……ぽい、よね?

わざとらしすぎるというツッコミは聞きません。


私が心配の言葉をかけると、クラハは嬉しそうに笑って、私の頭を撫でてくれた。

クラハの手は温かくて、優しくて、私はクラハに撫でられるのが大好きだ。

お母様の手に似てるんだよね……。


「痛いのではなく、嬉しいのですよ。リュート様が成長した証ですもの。さあ、皆がリュート様をお待ちしています。行きましょう」


そう言って手を引かれ、歩いていく。

こんなに広くなくて良いでしょって思うような食堂に着くと、この屋敷の使用人たちがずらりと並んでいた。

そして、執事が手で合図をすると、皆が声を揃えてお祝いしてくれた。


『リューティカ様、お誕生日おめでとうございます!』


皆笑顔で私のことを見ていて、その眼差しの温かさがすごく嬉しくて満面の笑顔で「ありがとう!」と答えた。

すると、皆が顔を赤くして手で口元を押さえ、悶えるような感じで「はい……!」とか「リューティカ様、お可愛らしい……!」とか言ってきた。


ちょっと照れ臭くて照れ笑いすると、鼻血でも出すんじゃないかってくらい顔が赤くなってきてさすがに心配になった。

この人たち、大丈夫だろうか……。


私がそんな使用人たちを見て困惑しているのが伝わったのだろう。

クラハが私を席まで誘導して、座らせてくれた。

そして、目の前のテーブルにはたくさんのごちそうやフルーツが乗っている。

まあごちそうとは言っても私はまだ二歳児なので、胃に優しいものばかりだけど。

お父様はお仕事が忙しくて来られないと聞いたし、お兄様はお部屋から出られないし、私しか食べる人がいないんだよね。

残ったのは使用人たちが食べるんだと思うけど、それなら今この場で一緒に食べちゃってもいいんじゃないかな?


「ねえねえ、これ、皆で食べよう?」


言いながらこてんと首をかしげる。

すると使用人たちが『ぐはっ!』とか変な声を出しながらも、丁寧に、私が傷付かないように配慮しながらそれはできないと伝えてきた。

それでも少し悲しい顔をする私に、どうしようかと悩んでいるのが分かる。

……うーん、お父様もいないし、良いと思うんだけど。

あ、そうだ!

『お願い』じゃ叶えるのは難しいかもしれないけど、『命令』ならどうだろう。

試してみる価値はあるかも?


「これは命令だよ、皆で食べるの!」


『……!!わ……分かりましたっ!』


物は試しと命令してみたら、使用人たちが『初めての命令だ!』とかなんとか言いながら狂喜乱舞しだした。

……本当に大丈夫かな、この人たち。

まあでも私の『命令』を聞いてくれるみたいなので良しとしよう。


そうして、パーティーがスタートし、私は改めて使用人の一人一人からお祝いの言葉を受け、とても楽しい時間を過ごしたのだった。



―――――――――――――――――――――



……さて、次はお兄様のお部屋に突撃だー!


……いえ、嘘です。

突撃しません。そーっと入ります。

驚かせてお兄様が心臓発作とか起こしたら本気でシャレにならないからね!



またクラハに手を引かれ、静かなお兄様のお部屋に入っていく。

柔らかい陽射しの入る大きめの窓が少し開き、爽やかな風が頬を撫でるお兄様の部屋。


奥へ進んでいくと、ベッドから半身を起こして背中に置いたクッションに寄りかかりながら本を読む───天使がいた。


その天使の姿を見た瞬間、私はある「乙女ゲーム」を思い出した。



──『クロイツ・ヒルフェ~君想い謳う~』通称『クロヒル』という名前の乙女ゲーム。

この天使は確かにその乙女ゲームの攻略対象だ。

ちょっと待て、この天使があの『セイラート・リート・レーツェル』だとすれば、私は、あの……?!

あの、身分も性格も能力も人気も攻略対象たちより優れていた才色兼備のリュート様?!

あの人が攻略できないからと運営に苦情が殺到した、あのリュート様なのか?!


待て待て待て、ひとつずつ整理しよう!

悪役令息の名前は?

──『リューティカ・リート・レーツェル』。

私の名前は?

──『リューティカ・リート・レーツェル』。


……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

どう考えても同一人物だぁぁぁぁぁ!!

ってゆーか何で今まで気づかなかったんだ!!



―――――――――――――――――――



ちょっと私が混乱状態なので落ち着くまで『クロヒル』について説明すると、『クロヒル』のストーリーは非常に王道です。


一般家庭で育った慎ましやかながらも充実した幸せな生活を送っていた主人公が、本来平民は持たないはずの魔力を暴走させる。

そして、類稀な魔力を持つことが判明し、そのコントロールを学ぶために急遽魔法学校へ入学することとなる。


学園は全寮制で、入学式前に、精霊と契約しているところに美しい男が声をかけてくる。

そのときはすぐに別れたが、後で在学生代表挨拶を壇上でする第一王子がその人だと気づく。


入学生代表で第二王子が現れ、他にも攻略対象である王子たちの側近である宰相の息子二人、近衛騎士団長の息子、女好きの魔法の名門家の息子、国内に大きな権力をもつ商家の息子etc.と様々な形で出会う。

隠しキャラも一人か二人いたはず。


そして、色んなイベントで主人公は色々な人に認められるようになり、攻略対象たちのトラウマとか悩みを解決することでルートに入る。

……のだが、誰ルートに行っても宰相の令息が邪魔をしてくる。


けれども、数々の試練やイベントを乗り越えて、最終的に主人公は王家の隠し子(?)的な存在だった事が判明し、ハッピーエンドだと主人公は幸せに暮らす。

ノーマルエンドはお友だちで終わり、バットエンドはまぁいろいろで、逆ハーレムエンドもあり。

色んなエンドがあって、私は全部攻略しきれてなかったから、知らないルートもある。

トゥルーエンドとかもあったのかな?

色々このゲームについての知識が欠落している私だけど、ひとつだけはっきりしてることがある。


それは──邪魔をしてきた宰相の令息はどのルートでも処刑されて死亡するということ。


この情報だけは、ゲームは攻略本なしでやりたい派の私が他の情報を見ないように頑張って探したのだ。

こんな素敵な人が死ぬルートしかないなんて、そんなことはないだろうと。

けれど結果は、どのルートであっても例外無く死ぬという結論に至り、嘆き悲しむネット住民たちしかいないという悲惨なものだった。


宰相には息子が三人いて、名前を上から順にセイラート、リューティカ、エルクントという。

一番目の息子であるセイラートは攻略対象。

三番目の息子であるエルクントは途中で養子としてくるから、今はまだいないが、攻略対象だ。

そして、二番目の息子であるリューティカ……つまり、私は、どのルートでも死ぬのが確定な悪役令息。



色々まとめて、ひとまず落ち着きました。……が。

おうふ。詰んでいる。

このままだと私はどうあっても死んでしまうではないか。

何とかしないと……。

いや、でもあの優しく公平だったゲームのリュート様が、何故主人公に嫌がらせなんかしたのか分からないんだよね。

私は全てのルートを攻略してないし、色んな情報が明かされるファンブックが発売される前に死んじゃったみたいだから。

けど、転生して分かったこともある。

リュート様が攻略できなかったのは女だったからだってことだ。

それでも良いから攻略したかったけどね!


「……ト?……ート?」



まぁそれが分かっても他に分からないことはたくさんある。

それでも何とかしないと私死んじゃうし……はっ、私がその学園に行かずに嫌がらせもしなければ良いんじゃ……。


「……ート?リュート」


あーでもそれは出来ないか。

公爵家の跡取りがあの学園に行かないなんてあり得ないし。

嫌がらせはしないけど。

それに、関わらないのもムリ。

これも同じ理由で、公爵家の跡取りだから。

身分の高さが似ている攻略対象たちとはおそらく一生の付き合いになる。


「リュート、……リュート!」


なら、とりあえずよくある悪役令嬢の小説みたいに、先に攻略対象たちのトラウマや悩みを解決してしまおう!

そうしたら攻略対象たちがヒロインに惚れることも無くなって、私の死亡フラグも折れる!……はず!

よし、その方針で決まり!


「リュート!!」


「ふぁい?!」


「やっと返事したね……。突然頭を抱えて動かなくなるからどうしたのかと思ったよ」


「ご、ごめんなさい……。」


なんかずっと声が聞こえてたような気がしてたけど、天使……ごほん、お兄様が私を呼んでたらしい。

いやしかし、お兄様儚げ美人だなぁ……ほんと天使みたい。

あ、挨拶しなくちゃ。


「お兄さま、初めまして。リューティカです」


「うん、初めまして。僕はセイラートだよ。ごめんね、僕は体が弱いから今まで会えなくて……けほ」


「いえ、僕は今日お兄さまに会えてうれしいです」


……あれ、なんか……。


「僕もかわいい弟に会えてうれしいよ……けほっ」


なんかさぁ……。

お兄様が咳をする度にお兄様の胸の辺りに、なんか黒いもやが見えるんだけど気のせいでしょうか?

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