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弟王子の悩みです。

アシュレイを追いかけても何と声をかければ良いのか分からず追いかけられないラズと、私を追いかけたいけれどラズを放っておくわけにもいかずに困っているセイル兄様を置き去りにして走っていくと、すぐにアシュレイの背中が見えた。


「……っ、待ってください!」


一瞬敬語を使うべきか使わないべきか迷って、使うことにした。

敬語無しでいいと許可をもらったのはラズであってアシュレイじゃないからね。

アシュレイは後ろから聞こえてきた声が予想もしていなかった声だったのか、驚いたように振り向いた。


「……君は……リューティカ?」


アシュレイが戸惑っている間に、私はアシュレイに追いついた。

いきなり走ったために少し乱れた息を整えながら、アシュレイの近くまでゆっくりと歩いていく。

そして目の前に立ち、まっすぐにアシュレイの目を見ながら、真剣な顔で『お願い』をした。


「──アシュレイ様、僕に、貴方の想いを、聞かせてくれませんか」


「え……?」


私の『お願い』を聞いたアシュレイは困惑し、大きくてくりっとしたかわいらしい空色の瞳を瞬いた。

……ほらね、今はまだ困惑するだけで、むやみに拒絶などせず、話しかければちゃんと聞いてくれる。

さっきのラズに対する態度も、アシュレイは元々素直な性格だから、悪口を真に受けて傷ついてるだけなんだと思う。


「……貴方が感じてること、言いたいこと、聞いてほしいこと……何でもいいんです。僕に、聞かせてください」


私はアシュレイを落ち着かせるように、優しく微笑む。

けれど、アシュレイはまだ困惑したままで、どうすればいいのか迷っている。

私はその様子をただ見守っていた。

すると、アシュレイが困ったように私の方を見ながら呟いた。


「……僕は別に、何も言いたいことなんてないよ……」


「そうですか」


そうですか、と言いながら気にした様子もなくにこにこ笑ったまま動かない私。

私とアシュレイの間に微妙な沈黙が広がる。

どうすればいいのか分からないアシュレイと、アシュレイの心の声を聞き出すまで粘ると決めた私の無言の攻防が続く。


「……」


あまりに沈黙が続くので、これはもう今日はダメなのかもしれないと思い、明日また出直そうかなーなんて考え始めた頃、アシュレイがいきなり目を閉じ、そのまま固まってしまった。

……どうしたんだろう、まさか立ったまま寝たとか?

不思議に思いながら見ていると、目を閉じていたアシュレイがぱっと目を開き、何かを決意したような真剣な瞳でこちらを見つめる。


「……リューティカ。僕の話を聞いてくれる?」


……話してくれるみたいだ。

よっしゃ、私の粘り勝ちだね!

少し緊張したように固い表情をして問いかけてくるアシュレイに、大丈夫だという思いを込めて微笑みながら答える。


「もちろんです。……立ったままでは疲れますし、座りましょうか」


私はそう言ってクラハに持たされたハンカチを広げ、アシュレイを誘導してハンカチの上に座らせる。

そして、私自身はその隣にそのまま座った。

それを見ていたアシュレイが申し訳なさそうに私を見たので、少しおどけたように笑う。


「たまにはこういうのもいいでしょう?」


私が悪戯っぽくそう言うと、アシュレイは少しの間の後、ふわりと笑って「そうだね」と言ってくれた。

何だかほんわかした気持ちになって、二人でにこにこ微笑みあう。

……って、和んでる場合じゃなかった!

私はアシュレイの話を聞きに来たんだよ!


アシュレイを追いかけてきた理由を再確認し、同時にある可能性に思い至ってはっとする。

……そうだ、話してる途中でセイル兄様とラズが現れたらせっかくの機会が台無しになっちゃうよね。

そうなったら困るし、何か誰にも邪魔されないようにする方法は無いかなあ……うーん。

……あっ、そうだ!


「ハイル、アイン、来て!」


『どうしたの、ティカ?』


『私の出番かしら?』


「………?」


声に魔力を乗せ、ハイルとアインを呼ぶ。

名前を呼んだら間髪いれずに返事をしながら現れた二人に「来てくれてありがとう」と言っていると、アシュレイが不思議そうな顔で首を捻っていた。

……おおっと、アシュレイは精霊が見えないのか。

それだと、もしかして私は一人で誰もいない空間に向かってお礼を言う変人に見えてるんじゃ……。

……うん、なるべく小声でしゃべろう。


「ハイル、アイン。僕たちの姿を外から見えなくして、僕たちの話し声も外から聞こえないようにできる?」


『姿を見えなくするのはできるよ。僕に任せて』


『なら、私は風の精霊たちに音を遮断してくれるようお願いしてくるわね』


「ありがとう、二人とも!」


偽装工作は二人に任せて、私はさっきからずっと不思議そうな顔をしたままのアシュレイに向き直る。

精霊のことは言っても良いのかよく分からないし、視えてないなら偽装工作のことは言わずに話を進めようか。

そう思って口を開きかけた時、アシュレイが驚きの発言をした。


「……ねえ、あの子たちは誰?ここでは見たことなかったけど、すごく力が強そうで綺麗な子たちだったね」


……ん?んん?

あれ、もしかしてアシュレイさん、生まれつきの精霊眼の持ち主ですか??

不思議そうだったのって『誰?』って思ってたからなの?

え、ゲームのアシュレイにそんな設定あったっけ……?

うぅーーーーん、思い出せない……。

……まあいいか。

とりあえず、バレてるんなら隠す必要もないよね。

隠すと逆に怪しいし。


「あの子たちはハイルとアインです。ハイルは僕の、アインは兄様の契約精霊で、ハイルが光、アインが地の精霊なんですよ」


上級精霊だのなんだのはさすがに言わない方がいいだろうと思って、最低限のことだけを教えた。

すると、アシュレイはキラキラさせていた瞳を悲しげに曇らせ、「そう……」と力なく言った。

急激に沈んだアシュレイの気分に戸惑っていると、アシュレイがぽつりぽつりと話し始めた。


「……僕は、兄上より出来が悪いダメな子なんだ……」


……あ……そういうことか……。

ああ~~もう、私のバカ!

何でもっと考えてしゃべらないの?!

アシュレイが『兄上』のことで悩んでるのに、嬉しそうに『兄様』とか言ったらそりゃ落ち込むでしょうよ!

せめていつものように『セイル兄様』って呼べばまだましだったのに!

はぁ~~……まあでも、自己嫌悪と反省は後だ。

今はまずアシュレイの話を聞かないと。


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