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二人の王子の確執です。

というわけで、残された私たちはとりあえず会話をしようと王子二人の方へ近寄っていく。

すると、第一王子であるラズが私たちに話しかけてきた。


「お前たちの名前はリューティカとセイラートだったな?俺のことは敬称無しでラズと呼べば良いが、俺はお前たちのことを何と呼べば良い?」


「そうですね……僕のことはリュートと呼んでください」


「では、僕のことはセイル、と」


私とセイル兄様がそう言うと、ラズは不満げに眉をしかめた。

……え、何で急に不機嫌になったの?

私たちが何かしてしまったのかと困惑しながらラズの言葉を待っていると、ラズが眉をしかめたまま口を開いた。


「……公の場では仕方がないが、公でないときくらいは敬語をやめろ。父上とフィル殿も公の場ではふさわしい態度をとっているが、先程は敬語など使っていなかっただろう」


……なるほど。

確かにお父様とヘル様は敬語を使ってなかったし、きっとラズはそういうやりとりに憧れていたんだろうな。

ヘル様はさっき「初めての友」って言ってたし、周りにいるのは家臣ばかりで対等な関係にはなれないもんね。

私たちも対等とは言い切れないけど、他の人よりは気兼ねない友人になれるはずだ。

私たちにもまだ対等な友人はいないし、ラズたちとそういう仲になれるのならなりたい。


「分かった。僕もそういう友達が欲しかったんだ。よろしくね、ラズ」


ラズはセイル兄様と同い年だったはずだから、私よりも四歳も年上になる。

年上ということでタメ口をきくのに若干抵抗はあるものの、笑顔で言ってみると、なんだかさっきよりもずっと親しくなれたような気がする。

私のその様子を見て、ちょっと迷っていたセイル兄様もラズに向かって微笑み、手を差し出す。


「よろしくね、ラズ」


「ああ!」


ラズは嬉しそうに頷き、差し出された手をとった。

そして、それをにこにこしながら見ていた私の手もとり、さっきと同じように振り回す。

またもへろへろになる私を見て、ラズは笑い、セイル兄様は心配そうに私の顔を覗き込みながら支えてくれた。


その様子を少し離れたところから見ていたアシュレイはふいっとそっぽを向き、私たちに何も言わずにどこかへ歩いていこうとする。

それを見つけたラズが、途端に曇った顔になり、遠慮がちにアシュレイを呼び止めた。


「……アシュレ」


「……何ですか?」


ラズの呼び掛けに、アシュレイは立ち止まりはしても振り向きはしない。

アシュレ、というのはアシュレイの愛称なんだろう。

そう呼ばれたアシュレイの返事は口調こそ丁寧だけれど、その声は緊張して少し震え、背中から話しかけて欲しくないというオーラを出している。

そんな態度を向けられたラズはさらに顔を曇らせ、どうすれば良いのか分からないといったように悲しげに視線を逸らしてしまった。


「いや……何でもない」


「そうですか」


返事をしてすぐに歩き出したアシュレイの後ろ姿からは悲しみを感じるというのに、ラズに対する拒絶も感じる。

『クロヒル』では、ラズは元々アシュレイを可愛がっていたし、アシュレイもラズに懐いていたはずだ。

だからこそ、ラズは急に変化してしまった弟の態度に困惑し、何が原因なのか分からないままに傷つき、声をかけられずにいるのだろう。


……まずい。

思ってたよりも二人の確執が深くなる時期が早い。

アシュレイは今三歳だし、もう少し時間に余裕があるだろうと高をくくっていたけど、現時点でもう既に二人の関係に決定的なヒビが入る手前まできてしまっている。


『クロヒル』のストーリーだと、この後に何かあってアシュレイが引きこもるようになってしまうのだ。

その出来事を過ぎると、周りの者たちによって一気に二人の距離が離されてしまうんだけど、それがどんな出来事だったのか思い出せない。

私は乙女ゲームが結構好きだけど、全部のストーリーとか選択肢とかを細かく覚えるほどやり込んでるわけじゃなかったからなぁ……。

こんなことならもっと真剣にやっておくんだった。


でも、覚えていることも結構ある。

確か……王子二人のこの確執は、放っておくと双方にとって心の傷となり、良いときはヒロインが解決するけど、悪いときには国が割れる原因にもなる。

王子ではないルートの時でも関わってくるような一大事なのだ。

この確執だけは何としても解決しないと、私の未来は確実に無いし、国の未来もヒロインの選択によっては危うい。

あーもう、どうして私はそんな重要な出来事のことを全部覚えてないの?!


今はまだアシュレイは兄と比べられることに混乱しているし、幼いから話を素直に聞いてくれると思う。

……聞いて、くれるといいなあ。

でも、ここを逃したら間違いなく私たちにも心を開かず、聞く耳も持たなくなってしまうだろう。

あーもうどうしよう、事態は一刻を争うよ……!


「……追いかけないと」


ボソッと呟いた声が聞こえたのか、セイル兄様が驚いたように私の方を向いた。

セイル兄様が私に話しかけようとするけど、それよりも早く私はアシュレイを追いかけて走り出した。

リュート、と呼ぶ声を背中に聞きながら走っていく。

……セイル兄様はラズをお願いします!


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