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お城に行きます。

今日はお城に行くということで、使用人たちがかなり頑張って私とセイル兄様を着飾ってくれました。

そのお陰で、私とセイル兄様はすっかり小さな貴公子と化している。


「「……っ!!」」


私たちが並んだ姿を見た使用人たちが口元を押さえながらお互いにぐっ、と親指を立てている。

……ねえ、皆して鼻血出そうな感じだけど大丈夫?

集団鼻血事件とかなったらシャレにならないよ?

血溜りができて「何があった?!」と思ったら「使用人たちが一斉に鼻血を出しました!」って……ねえ?


「セイラート様、リュート様、馬車の用意が整いました。お乗りください」


そんな馬鹿なことを考えているうちに近づいてきたクラハにそう言われ、私たちは未だ悶えている使用人たちをそのまま放置し、玄関から出て馬車へ向かう。

お兄様が先に乗り、次に私が乗る……のだけど。

私はちょっと身長的に一人でセイル兄様のようにスマートに乗るのが難しいので、中にいる兄様に手を引いてもらって乗った。

……足を乗せる場所の位置がね!高いんだよ!この馬車!


「セイラート様、リュート様、城ではいつも屋敷でしている通りに振る舞えば何の問題もございません。生活の中で身に染み付いた素晴らしい礼儀作法を存分に発揮してくださいませ」


……え、もしかしてクラハ、屋敷での日常生活の標準を城レベルにしてたの?

クラハの礼儀作法の授業の内容がやたら仰々しくて厳しかったのって……日常の作法を城レベルにした上で、式典とか特別なパーティーとかそういう時の礼儀作法を授業でやってたからってこと?


うわー騙された。

あれがこの世界の一般的な礼儀作法のレベルなら式典とかの時はどんだけオーバーな作法で臨まなければならないのかと戦々恐々としてたのに。


「そう……。いつも通りでいいならあんまり緊張しなくて大丈夫みたいだね、リュート」


「え?あ、はい。そうですね!」


おっと、いかんいかん。

クラハの衝撃発言に半目になっててセイル兄様の言葉を聞いてなかった。

また怒られるとこだったよ……危ない危ない。

セイル兄様は若干呆れたような顔をしたけど、何も言ってこないからセーフだよね、うん。


「これをフィレンツ様にお渡しくださいね」


クラハから何やら袋を渡された。

中にはお父様が好んで食べる焼き菓子が入っているので、お父様への差し入れだろう。

用意するのすっかり忘れてた。

クラハは細かいところまでよく気がつくなあ……見習わないと。



「それでは、セイラート様、リュート様、お気を付けて行ってらっしゃいませ」


笑顔で言っているものの、心配そうな目をしたクラハに送り出された。

私とセイル兄様は顔を見合わせ、苦笑してからクラハに向き直り、安心させるように笑う。


「リュートと一緒に無事に帰ってくるから、安心して待っていてね、クラハ」


「そうそう。大丈夫だから安心して、クラハ。それじゃあ、行ってくる!」


尚も心配そうなクラハに手を振ると、馬車が出発した。

しばらくセイル兄様とお喋りしているうちに馬車が道を進んでいく。

……それにしても、馬車って思った以上にガタガタ揺れてあちこちが痛いなあ……。

道が日本みたいに舗装されてないし、馬車自体も車ほど安定してないから、仕方ないんだけどね。


「セイル兄様、馬車って痛いですね」


「そうだね……。それに、なんだか僕さっきから気分が悪いんだ。どうしたんだろう……」


……セイル兄様、もしかして酔った?

そういえば、顔色もあんまり良くないし、具合が悪そう。

少し眉間に皺が寄っているし、まさか吐き気に加えて頭痛もあるとか?

まあ確かに、ここまで揺れるんだから乗り物酔いとかする人には地獄だよね、この馬車。


「……ハイル」


『ティカ、どうしたの?』


ハイルに教えてもらった、声に魔力を乗せる方法でハイルの名前を呼ぶと、私の膝の上に光が集まり、ハイルが現れた。

声に魔力を乗せて精霊の名前を呼ぶと、精霊がその声に応えてくれれば呼び寄せられるんだって。

応えてくれなかったら呼び寄せられないらしいけど。

まあいわゆる召喚みたいなものだろう。


「ハイル、セイル兄様の気持ち悪いの、治せる?」


『もちろん!僕に任せてよ』


おお、さすがハイル。

光の精霊は浄化と治癒と光の魔法が得意だってクラハが言ってたし、乗り物酔いって確か病気に入るはずだから治せるんじゃないかなーと思って聞いてみたけど、楽勝っぽい。


『ティカ、魔力ちょうだい。これくらいの馬車酔いなら少しの魔力で大丈夫だよ』


ハイルの額に触れて魔力を渡す。

触れなくても渡せるけど、触れた方が魔力がこぼれなくて無駄にならないらしいからね。

そして、ハイルが小さく腕を振ると、セイル兄様が淡く発光してすぐに光が消える。


「セイル兄様、どうですか?気分は良くなりましたか?」


「リュート、ハイル、ありがとう。何だかすっきりしてすごく気分が良いよ」


そう言って微笑んだセイル兄様の顔色は確かに良くなっているし、すっきりした顔をしている。

それに安堵して、私も笑顔になった。


「良かった!ハイル、ありがとう」


……それにしても、私はこれだけ揺れる馬車に乗ってるのに酔う気配すらないな。

どうやら完璧なるリュート様は三半規管も強いらしい。

そんなことを考えながら、いつもクラハやセイル兄様にされているようにハイルの頭を撫でる。

すると、ハイルは嬉しそうに破顔した。


『僕がティカの頼みを断るわけないんだから、お礼なんていいんだよ。それよりも、僕はティカがお城にいる間消えておくけど、さっきみたいに呼んでくれたら飛んで来るから困ったことがあったら呼んで』


そう言ってから、ハイルは光となって消える。

今日はお城に行くので、お城の人たちを驚かせないようにするためにハイルとアインは一緒に行動しないのだ。

……といっても、近くにはいるらしい(精霊の言う『近く』がどれくらいなのか分からないけど)。

姿は見えなくしてるんだって……どうやってかはよく分からないけどね。


色々している間に大分お城に近づいたらしく、窓からお城が見えるので、あともう少しだ。

城下町は活気があって華やかで良いね。

いつか一人で出歩けるくらい強くなったら、お忍びで来てみたいなぁ。

なんて思いながら景色を見ていると、セイル兄様が「危ないから僕も一緒に行くからね」と言った。

……え?まさか兄様私の思考読んだ?!


「……一緒に行くよね、リュート?」


「……は、はい!喜んで!」


驚いてセイル兄様を凝視していると、有無を言わせない笑顔をした兄様に念を押すように言われ、気がついたら了承の返事をしていた。

返事を聞いた兄様は満足げに笑みを深めて頷く。

……セイル兄様、なんか笑顔が黒い気が……い、いや、気のせいだよね、うん。兄様は天使だもんね!

そうこうしているうちに馬車が城の前に到着した。


「セイラート様、リューティカ様、城に着きました。お降りください」


馬車が止まった後、御者が馬車の扉を開けて降りるように促す。

またも私は一人では降りられないのでセイル兄様と御者に手伝ってもらって降りた。

そして、お城の入り口を見上げる。

……いやー、豪華絢爛って感じでもないんだけど、でもすごく威厳があって気圧されるような感じのする大きい扉だね。


扉を騎士っぽい人たちが守っている。

その人たちに愛想よくにっこりと微笑むと笑い返してくれた。

私とセイル兄様が家名と用件を伝えると、すぐに納得して騎士たちに扉を開けてくれたので、お父様が話を通していたんだろう。

……まあ、今日行くって言ってあったんだから当たり前だけどね。


そして、開けてもらった扉から城内へと入る。

……なんか、城内の全体的な雰囲気はバロック調っていうよりロココ調って感じだね。

バロック調だと格式ばってて堅苦しい感じがするし、ロココ調の方が繊細で柔らかい感じがして好きなんだよね。


やー、お城って綺麗でいいね!

どこを見ても全部最高級なものが使われてるのが分かるからちょっと緊張するけど、雰囲気が良くてすごく好きな場所になりそうだ。

……そう思えるのは私の家が公爵家で最高級品に囲まれて生活することに慣れてきたからこそだよね。


まあそれより、お父様の職場に行かなくちゃね。

…………あれ?

ちょっと待って、お父様の職場どこ?

お父様のことだから案内人くらい手配してそうなものだけど、そんな人は見当たらない。

さっきの騎士たちは扉の外だし、他の人はちらほらいるけど皆忙しそうだし……。

え、私たちどうすれば良いの?


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