お父様とセイル兄様です。
お父様は私たちに声をかけた後、執事と一言二言話してお父様の部屋に行ってしまった。
この後夕食だから、着替える必要があるのは分かるけど、もう少し私たちとお話ししてくれたって良くないですか、お父様!
むうー……と思いながら、セイル兄様の方を見上げる。
すると、セイル兄様はきちんと挨拶が出来て安堵したような表情をしていたけれど、瞳の奥に寂しさも感じた。
やっぱりセイル兄様もあの短時間のふれあいじゃ不服なんだね。
私も不服だよ!
お父様め、絶対に今日のうちに距離を縮めてやるんだから!
そうと決まれば、さっさと移動だ。
お父様が着替え終わって食堂に移動してくる前に食堂で座って待ってないとね。
「座りましょうか、セイル兄様」
食堂に着き、席へ座ろうとするが、座る直前で今日は席が違うことに思い至った。
あーそうだ、今日はお父様がいるからセイル兄様の隣に座れないんだった。
……今日エリンギが出てきたら根性で食べるしかないのかー……。
「そんな『この世の終わりだ』みたいな顔しなくても大丈夫だよ、リュート。今日はエリンギは入れないであげてって料理人にお願いしておいたから」
「本当ですか?!」
私がよほど絶望的な顔をしていたのだろう。
セイル兄様が笑いを堪えながらそう言ってくれた。
なんて気が利くんだ。さすが兄様!
「リュートは本当に顔に感情がよく出るね。お陰で緊張が少しほぐれたよ、ありがとう」
そう言って頭を撫でてくれたセイル兄様は、確かにさっきよりも肩の力が抜けているように感じる。
狙ってやったわけではないので若干不本意ではあるが、セイル兄様に頭を撫でられるのは嬉しかったので良しとしよう。
「じゃあ僕は向こうに座りますね!」
そう言って向かい側に回り、席に座ると同時にお父様が食堂へ入ってきた。
入る機会を窺っていたのかと思うほどぴったりなタイミングだね。
「…………」
無言のまま食事が進む。
食事中はあまり喋るのは行儀が悪いので、セイル兄様と二人の時も大して喋りはしないから、それは良い。
けど、この息の詰まるような無言はつらい。
あまりに無言がつらいので出来るだけ優雅に丁寧に、けれど全速力で食事を食べ終えた。
それなのにお父様とセイル兄様よりも時間がかかっているのだから、この二人も早めにこの気まずい時間を終わらせたかったのだろう。
「……お父様、この後お暇ですか?」
「ああ、この後は何も予定はないが……」
食事が下げられた後、食後のお茶が出てきて少しリラックスしたところで話しかけると、お父様が片眉を少し上げながらそう答えた。
……お父様、怖いよ、その答え方。
もしかして嫌がられてんのかなとか思っちゃうから嫌がってないならその仕草やめて!
「それなら、一緒に客間に行きましょう!」
そう思いながらも「予定はない」との返事をもらったのでちょっとわざとらしいくらいに顔を輝かせながら、お誘いをかける。
……どうかな?断られないよね?
「……良かろう」
よっしゃあ!
許可とった!許可とりました!
そろそろ私もお茶を飲み終わるので、お父様の気が変わらないうちに移動しよう!
……あ、そろそろ気がつきましたか?
そう、私が思い付いた『良いこと』とは……『幼さを利用して無邪気にガンガン攻める』です!
……ね?すごいフツーだしごり押しでしょ?
っていうか、それ以外に今すぐ出来ることって無かったというか……あんまり奇抜なことやってお父様に距離を置かれちゃ本末転倒だしね。
よし、そんなことを考えてる間に飲み終わった。
……ちなみにお父様とセイル兄様はとっくに飲み終わってます。
小さい時の四歳分の成長の差ってかなり大きいよね……。
……身長がね、全然違うんだよ、うん。
そ、そんなことはどうでも良いから、とりあえず客間へレッツゴー!です!




