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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

妹2人が兄を追いかけて異世界に行くようです

作者: ユーリアル

いつか書いてみたい作品プロローグシリーズ的な。



 ふと、目が覚めた。窓から差し込む朝日が否応なしに私を現実の朝へと揺り起こしたのだ。今日に限って、眠気という眠気が全くない……すがすがしさすら感じる目覚めだった。


(現実よ、おはようございます……か)


 昨日まではカーテンがかかり、朝日だって柔らかく差し込む程度だった部屋の窓には何もない。初夏の日差しが遠慮なしに部屋を照らし、しばらくすればすぐに温かくなって、ついには暑くさえなるでしょうね。


「おにぃ……本当に、いないのね」


 不自然なほどに何もない部屋。あると言えば自分が部屋から持ち込んだ毛布1枚だ。この季節なら、これ1枚でも床の硬さにさえ目をつむれば何ら問題ない。ただ1つ、本来の部屋の主がいないことを除いて。


 どれだけそのままぼんやりしていたのか。耳にインターホンの音が響く。今日は土曜だ……学校だってお休みだし、訪ねてくる人だっていないはず。たった1人を除けば、だけど……。


「ユキ、来てくれたの?」


「メイちゃん、落ち込んでないかなって思って……上がっていい?」


 扉の向こうにいたのは私より頭1つ分ほど背丈の低い少女、中学生になったばかりの黒木雪だ。私とおにぃとは兄妹同然に育ち、休みの度によく出かけていた。高校に上がってもあまり育っていない私と比べて既に体はモデルのような体形。もうすぐ初夏だというのに、春を感じるピンク色のワンピースが良く似合っている。女としての魅力と、少女の可愛らしさが同居した姿は私とは大違いだ。

 片手にはどこかに寄ってきたのか買い物袋。断る理由が無い私はその中身を気にしつつも彼女を家にあげた。


「本当に何もなくなっちゃったんだね。物も、記憶も」


「ええ、何の冗談かと思うぐらいに……昨日、両親に聞いたわ。あの部屋は何のために空けてあるの?って。ひどく困惑して、多分物置に使う予定だからよだってさ……ふざけてるわ」


 恐らくはこの世界でたった2人、私とユキだけが本当のことを知っている。何もなくなった部屋に、私の兄がいたことを。そして、あの雷雨の日に忽然と存在事姿を消したことを。最初、それを目撃した私とユキは動揺しながらも警察に電話し、おにぃがいなくなったことを告げた。……が、答えはひどい物だった。いつの間にか親にまで話が行き、こう言われたのだ。


─この子には兄はいません。一人っ子です


 って。真顔で、何の疑いも無く言いきられては警察だってそりゃ困るわよね。なおもわめく私達に、いたずらはやめなさいなんて叱るんだもの……今日だってさっさと仕事に行ってしまった。


「ユキ……私たちが揃って狂ってるのかしら?」


「そんなことありません! メイちゃんのお兄さんであるシンさんは確かにいました!」


 3つも年下の子に何を言わせているのだろうか? 自分が嫌になる……けど、彼女ぐらいしか私の記憶を肯定してくれる人はいない。だからと言って甘えるのは罪なのか? それとも……。


「そうだ。試してみたいことがあるんです。ウチの家系が古いけどソッチ系の家系だって言ったことありますよね」


「ええーっと、オカルトというか、お稲荷さんというか……そんなだったっけ?」


 正直、だいぶ前に話したきりだ。異なる世界につながる穴を守る妖狐とそれに惚れた今で言う武士との恋愛劇。その子孫がユキの家系で、今も小さいながら社を守ってる……まさか!


「そうです。昨日、父と母になんとなく尋ねてみたんです。いたはずの友達が急にいなくなった気がする、だけど誰も覚えてないのって。お兄さんの件もあってピンと来たんでしょうね。あるいは私を慰めるためかな? 神隠し、夕暮れ時の世界の境界……可能性はゼロじゃない、そう思いませんか?」


 ユキの言葉を聞きながら、私はおにぃがいなくなってしまった瞬間、確かに言いようのない物を感じたことを思い出す。寒気とも違う、自分から何かを(・・・)抜き取って(・・・・・)いきそうな感覚。あれはそう、きっとおにぃの記憶やらなんらやを奪うための何かだったんだ。


 自然と、自分の握った手に力が入るのがわかった。誰が犯人か、あるいは神様のせいなのか、それはわからない。だけど、私から……私達からおにぃを奪った。それが絶対に許せなかった。


「私も、その犯人を許せません。だから、追いましょう……2人で」


「ユキ……」


 ユキは私の親友だ。歳は少し離れてるけど、同じ相手を好きな(・・・・・・・・)者同士、普通の友達よりだいぶ近いと思う。私のおにぃに対する気持ちを知っても嫌悪するどころか、応援してくれた。出来れば自分も反対側にいていいか?なんて言いながら。






 そして私たちはこっそりとユキの家、そのそばにある社に来ていた。彼女の家に伝わってる通りに油揚げだけじゃなくてお米とお豆腐も用意した。本当にこれでお話を聞いてくれるんだろうか?


「えーっと……これで手を叩いて……出でませ出でませ。世界を渡りし者が出てしまいました。急いで追いかけるべし……どうです?」


「どうって、別に何も……ユキっ!」


 そういう服装も家に伝わっていたのか、いわゆる巫女服みたいなものを着こんだユキが何やら唱え、それっぽい空気が流れたけれど特に何も起きなかった。やっぱりはずれか、そう思った時私は視界にいつの間にかいた相手からユキをかばうようにして木刀を構えていた。


 小柄な、子供ぐらいなのに妙に歳を感じる不思議な相手。だけど間違いない、さっきまでそこには誰もいなかった。


『やあ、若い女の子が2人なんて嬉しいね』


「随分フランクな神様ね。本物かしら?」


 私の口からそんな言葉が出てしまうのは仕方がないと思うの。だってねえ? 古めかしい言い方で喋ってくるかと思いきや、バリバリの現代語じゃないのよ。

 見た目だけはユキの服装をもっと古くしたような感じだから雰囲気は出てるけど。


「メイちゃん、間違いないよ。感じるもん」


『こちらは私の子孫か……つまるところ、君の家族か誰かが消え、子孫を頼ってきたというところかな? 確かに穴を通ったゆらぎがあるね。ここ500年なかったからね、失敗した』


 それからの私の動きは人生で一番早かったと思う。ユキが止める前に私は自称神様っぽい相手につかみかかると、その小さな体を前後に激しく揺らした。


「どこ! どこにおにぃは連れていかれたの!?」


『おっ、おぅっ! ちょっ、まっ!』


 私の手の中で相手が目を回し始めたところでようやく自分のしたことに気が付いた。慌てて手を放すと相手はふわりと床に降り立ち、何やら不思議な物を見る目つきで私の方を見てくる。


『驚いた。天然の巫女かい。これなら2人とも行けるかな。君たちの望みはその……君の家族が向こうにいったのを追いかけたい、それでいいかい? なんなら自分が力を分けてあげるけど』


「おにぃの貞操を守って」


 気が付けば私はそんな台詞を口にしていた。横にいるユキも、目の前にいる狐神様(仮)も呆然としている。そんなにおかしなことを言っただろうか?

 おにぃは格好いいし、優しいし、文武両道の完璧超人な人だ。異世界だからといってそのスペックが落ちるとは思えない。きっと出会いに満ちた生活のはずだ。悪い虫がついてしまってはいけないのよ。


『ま、まあこのぐらいじゃないと生き残れないかな? 子孫の方はそれでいいのかい?』


「私もそれでいいです。自分の身は自分でなんとかします」


 ユキもなんだか覚悟を決めたみたいでそう言い切って狐神様を正面から見つめた。

 たぶんはあきらめたようにため息をついて、5本ぐらいあった尻尾を1本ずつ私達に差し出した。

 詳しくはないけど、狐の尻尾の数がそのまま力だったはず……いいのかな?


『いらないと言っても何もなしで向こうは大変だからね。無事に帰ってきた時には利子をつけて返してもらうよ。大丈夫、帰ってこれたらそれだけで力がついてると思うよ』


「よくわからないけど、ありがと。ユキ、後はアンタだけが頼りだわ」


「そんなことないよ。メイちゃん、2人で頑張ろう」


 内心の不安を互いに隠すようにして手をつなぎ、狐神様の前に立った。いつの間にか彼の背後にはぽっかりと何かの洞穴のような物がある。これが異世界への……穴。


『勝手だと思うけど、応援してるよ。あっちの神様は好き勝手にこっちの人間を世界中から連れていくからね、正直困ってるんだ。もし見かけたら殴っていいよ。僕が保証する』


「あ、そう? じゃあそうするわ」


 彼なりの景気づけだろうか?なんて思いながら私とユキは手をつないだまま穴へと向かう。この先は異世界……下手をしなくても私達のような小娘は命を奪われるか、あるいは死んだ方がマシなんて状況になるかもしれない。だけど、おにぃのいない世界なんて死んでるのと同じなんだ。


「ユキ」


「うん。メイちゃん、行こう」


 そうして私達は愛する人を救うための旅に出た。

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