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騎士になった少年  作者: ルネ
第一章 幼年期編
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第八話 騎士と騎士

くそっ

予想以上にダメージが大きい

もう立つのすら苦しい

体は限界をとうに超えている


しかし、今ここで僕が倒れたままならアーシアはどうなる?

その一つの憂いが僕に立つ事を義務付ける

立て。あいつを倒せ。アーシアを助けろ。


「まだ立つのか。根性だけは一流だな。」


「うる……せぇよ……。騎士ってのはな……、しっかり周りを守らなきゃないんだよ……。」


僕は剣を構える。剣を握る腕が震えているが関係ない。身体中が痛むが関係ない

僕の全力をもってアーシアを守ろう


「うぉぉぉっ!」


僕はハゲ男に向かっていく

その時だった


「よく言ったエルヴィス!」


背後から声を掛けられ、大きな手で背中を叩かれる

ゴツゴツとした手。何年も触れ合ってきた安心出来る手。


振り向くと、そこにはダニエスがいた





「それにしてもエルヴィス?何でそんなにボロボロなんだよ。こりゃあ剣術の修行やり直さなきゃなんねぇか?」


「う……。」


そう、スフォルテス流は相手の一挙手一投足に気を配り、一人一人的確に屠っていく剣術だ。

相手の動きをきちんと見極められれば当然攻撃を受けることもない。

相手が複数人だったとしてもだ。いや、むしろこちらの方が大切だ。そのための剣術なのだから。複数人の動きを同時に見極めてこそスフォルテス流は成り立つ

つまりこの傷の数は僕の未熟さを表している


「まぁいい。それはおいおいな。で?久しぶりじゃねぇかジャネット。騎士団を辞めたお前に久しぶりに会えたと思ったらなんでこんな所でうちの子らにちょっかい出してやがる」


「やっぱりお前の子か。お前と同じ剣術を使うからそうかとは思ったけどよ。」


「あぁ、良い子だろ?」


「いんや、悪い子だ」


「見る目のない奴め」


言い合いが終わると2人は剣を抜き、打ち合いを始める


「ハハッ!騎士団長サマから直々に試合をして頂けるとはなぁ!」


「これは試合じゃない。俺はお前を殺す為に剣を振っている」


「っ!」


ジャネットはダニエスの気迫に一瞬たじろぐ


「エルヴィス!よく見とけ!」


ダニエスはジャネットから一旦距離を取ると、剣を構える。

あの構えは僕がまだ出来ない『白椿』の構えだ


「おいおいおいおい、戦闘中に子供に剣術の講義とは随分余裕だなぁ騎士団長様ァ!」


「ああ、余裕だ。何をしようと、剣を捨てた騎士に負けるほど腕は鈍ってない」


ダニエスはいつになく冷静に返す

こんなダニエスを見るのは初めてかもしれない


「スフォルテス流奥義、『白椿』」


そう呟くのと同時にジャネットの両腕が彼の体から落ちる


「あ?……あ……あ……ああああっ!」


ジャネットが突然の痛みに悲鳴をあげる

『白椿』は他の要素をできる限り削り、速さだけをひたすらに重視した抜刀術だ。

ダニエスの放つそれは剣筋は愚かいつ刀を抜いたのかすら見えない


「じゃあな、ジャネット」


ダニエスは剣をジャネットの胸に突き刺し、ジャネットは目の光を失った。



やっぱりこの人はすごい。別格だ。


「おいエルヴィス。歩けるか?」


「多分大丈夫」


そう言って立ち上がるが足元がおぼつかない

生まれたての子鹿みたいに足をぷるぷるさせていると急に体が持ち上がった。


「ったく、しょうがねぇなぁ。」


ダクネスが右腕に抱えてくれたのだ


「……ありがとう父さん」


「おう。ところでアーシアはどこにいるか知らねぇか?ジャネットの野郎に聞いとくの忘れてたわ」


見直したばっかりなのに、どこか抜けてる人だ


「店の奥の床に地下室に繋がる階段があるらしいんだけどその地下室にいるって聞いたよ」


「そうかぁ。じゃあアーシアの方も助けに行くか」


ダニエスは僕を抱えたまま店の奥に入る


「あ、あそこじゃないかな」


よく見るとキッチンの床の下が外れるようになっている

ダニエスがその床を外すと階段が出てきた


「ビンゴだな」


ダニエスは僕を抱え直すと階段を下って行く

階段の先にはいくつかの牢屋があった。


「……お兄ちゃん?お父さん?」


僕達が声のした方に振り向くとその牢屋の中には僕が全力で守ろうとしていた妹の姿があった


「アーシア!」


「離れてろアーシア」


ダニエスが僕を降ろし、剣で牢屋の鉄格子を斬る


「う、うゎ、うわあぁぁぁぁん!お父さぁ~ん!お兄ちゃぁ~ん!」


鉄格子が切られた途端、アーシアが僕とダニエスに飛びついてきた


「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!勝手に細い道に入っちゃってごめんなさい!こんなにボロボロにさせちゃってごめんなさい!」


「いたっ、ちょっ、傷口触んないで!痛いっ!」


「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめ…うわあぁぁぁぁん!」


言っても僕達の上からどいてくれなかった。まぁ仕方ない。こんな痛みくらい我慢しよう


「良かった、アーシアが無事で。体を張った甲斐があったよ」


そう言ってアーシアの頭を撫でる

アーシアはその後も30分くらい、ずっと僕達の上で泣いていた




今この地下室に閉じ込められていたのはアーシアだけだったらしく、ほかの牢屋は空だった。

もう売られてしまった後だったのだろうか。

そう思うとあの男達への怒りで頭がいっぱいになる


アーシアが泣き疲れて寝てしまうとダニエスは僕とアーシアを両腕に抱え、階段を登る


「……ありがとう父さん」


「おう、まぁ親だからな」


「……そっか」


「……ところでエルヴィス、ジャネット以外は皆殺したのか?」


「2人は動けなくしただけだけど、それ以外は殺した」


「……そうか」


その後は特に会話もなく、ダニエスは噴水のある広場へと向かった




広場には僕達の帰りを待つエヴァリーナの姿があった


「エルヴィス!アーシア!大丈夫なの!?」


エヴァリーナは僕達の姿を見つけると駆け寄ってくる


「アーシアは寝てるだけだ。エルヴィスは……まぁ名誉の負傷って奴だ」


「呑気な事言ってないの!エルヴィス!今治療してあげるからね!《ヒール》!」


エヴァリーナの魔法により、徐々に傷が塞がっていく。

1分ほど魔法をかけ続けられ、僕は自由に体が動かせるようになるまで回復していた


「やっぱりエヴァリーナの魔法はすげぇな」


「褒めても何も出ないわよ?さぁ、帰りましょうか。私、お腹すいちゃったわ」


「そうだな」


もう辺りはすっかり暗くなっていた

僕達は夜道に馬車を走らせ、アルメスに帰った

その日の夕食はいつにも増して美味しく感じた

これで第一章は終わりとなります!

第二章以降は明日から毎週土曜日に更新していこうと思います

これからもよろしくお願いします!

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