第五話 お買い物に行こう
稽古を始めて数年が経った
素振りの回数が少し前に1日100回になった
ちょうど50回は問題なくこなせるほどの体力が付いてきた頃だったのでタイミングとしてはいいのかもしれない
ダニエスは剣の事だけは色々と的確なんだよなぁ
僕は10歳になり、そろそろ学校に行ける時期らしい
今日は入学するにあたって必要そうなものを買い揃えるために王都に行く事になった
王都イルガルム。
この世界最大の都市でこの国の首都みたいなものだ
そこに行けば大抵のものは買えるらしい
家族全員での買い物なんてこの家族では初めてかもしれない
ずっと家で本を読むか体を鍛えるかしてたからなぁ
スフォルテス家は王都から馬車で1時間ほどの所にある『アルメス』という街にある
4人は馬車に乗り込み、王都を目指して出発した
馬車に乗って暫くすると、ずっと黙っていたアーシアが僕の服の裾をクイクイッと引っ張ってきた
今日は珍しくアーシアがおとなしい。いっつもは遊んで遊んでと僕にまとわりついてくるのに
「どうした?」
「お兄ちゃん、もうすぐ学校に行っちゃうの?」
「ん?そうだよ。来週からね」
「……やだ」
「え?」
「やだ!お兄ちゃんと離れたくない!」
僕の通うことになっているイルガルム国立学校という学校は全寮制らしい。
なので僕は基本的には今の家にはいなくなるということである
アーシアはそれが不満だったみたいだ
「そんなこと言ってもなぁ…。あ、お前今日元気なかったのってそれが原因か?」
アーシアはコクっと頷く
「うーん、絶対週末には帰ってくるからさ。それでどうだ?」
学校は週末の二日間は休みになる。ここらへんは前の世界と変わらないらしい
言っても馬車で一時間の距離だ。帰ろうと思えば簡単に帰れる
「絶対だよ?」
「ああ、分かったよ。一週間我慢できるか?」
「うん!私頑張る!」
アーシアに笑顔が戻る
うん、やっぱりこの子は笑顔がいちばん似合う
「おいお前ら。イチャイチャするのもいいけどもうすぐ着くから降りる準備しとけよ?」
アーシアの機嫌を治すと、ダニエスが白い目を向けながらそう言ってきた
「イチャイチャって……。」
「イチャイチャだろうが。言っとくけどお父さん兄妹での結婚なんて許しませんよ?」
「するかっ!」
何なんだこの父親は!
隣から「え……?」と困惑した声が聞こえてきた気がしたが、気のせいだろう
うん、絶対に気のせいだ。そう思っておくことにしよう
馬車を降りると目の前には高い壁が広がっていた。
僕とアーシアはその壁の迫力に口をあんぐりと開けて壁を見ていた
「何してる。入り口はあっちだぞ」
「ほらほら。いつまでもポカーンとしてないの」
二人に声をかけられることでハッとなって二人の後ろをついていく
この世界に来てからこんな大きな建造物初めて見た
前の世界では嫌というほど目にしていたが、中世風のこの世界で見ると新鮮に感じる
アーシアなんかは本当に見るのは初めてだろう。ポカーンとするのも無理はない
二人について行き、巨大な門の前についた
ここが王都の入り口なのだろう
門の前には門番みたいな人が何人かいて通行人になんか色々聞いてから通行させている
見たところお金は払っていないようなので通行税みたいのはないっぽいが何かカードみたいなものを門番に渡している。通行証のようなものだろうか
「はい次の人どうぞ!……ってダニエスさんじゃないですか。どうしました?今日は休みでしたよね?」
「ああ、ちょっと子供の入学が近いからな。いろいろと買いに来た」
そう言いながらダニエスも懐からカードを取り出し、門番に渡す
「お子さんもうそんなに大きくなったんですか。良いですねぇ子供。私も早く欲しいですよ」
「お前はその前にさっさと相手を見つけろよ」
ニヤッとしながらダニエスがそういうと門番の人は眉をしかめる
「う……。出会いがないんですよ出会いが。はい。手続き終わりました。通って大丈夫ですよ。」
「はいよ。お勤めご苦労さん。あ、そうだ。この二人の通行証作ってくれねぇか?」
「あそこの学校に通うんでしたよね。それなら確かに必要ですね。そっちの女の子の方もですか?」
「どうせ一年後には同じとこ通わせるんだしな。ついでだ」
「分かりました。じゃあ二人共、こっちに来てくれるかな?」
門番がおいでおいでをするので二人で門番についていき、小さな部屋に案内された
「ちょっとそこで待っててね。いま準備するから」
門番はそういうと部屋を出ていき、数分後大きな水晶のような透明な球体を持って戻ってきた
「はい。それじゃあ一人ずつこの球体に手をかざしてくれる?いろいろ個人情報読み取るからさ」
「「はーい!」」
僕たちは元気よく返事する
へー。そんな物があるのか。この世界個人情報筒抜けだなこれ
僕が先に手をかざすと球体が青白く光る
「はい、もういいよ。手を放して」
僕が言われたとおり手を離すと、門番は光続けている球体に何も書いていないカードをかざす
すると球体から光の線がカードに向かって飛び、それがカードに文字を刻んでいく
僕たちはさっき壁を見たときと同じ顔でその光景を見ていた
すごっ!何これ。これ、魔法か何かなのかなぁ
そう、この世界には魔法が存在する
ダニエスが使っているところはあまり見ないが、よくエヴァリーナが料理する時に水を出したり火をつけたりするのに魔法を使っていた
僕はまだ使えないが、学校が始まると魔法の授業があるらしい
基本的にはそこで魔法に初めて触れるそうだ
なんでも学校に入れるくらいの歳にならないと、魔力量が足りず、うまく魔法が使えないらしい
魔法。いいね、異世界っぽくて
教わるのが楽しみだ
僕が未来に思いを馳せている間にアーシアの通行証の発行も終わる。
「このカードは王都から出たり入ったりする時に俺達門番に見せなきゃいけない物だから絶対に無くしちゃダメだよ。あとは一応身分証の代わりにもなるかな。とにかく大事なものだからね」
門番はそう忠告してから僕達にカードを渡した。
僕達はそれをポケットにしまい、ダニエス達の元へと戻った。
「お、終わったか?」
「うん、凄かったよあの珠。綺麗だった」
「あーあれな。アーティファクトの一つらしいけど、綺麗だな確かに」
「そんなに貴重なものだったの!?」
アーティファクトとは遺跡などで見つかる、今の文明では理解出来ない道具の事だ。
絶対数が少なく、非常に希少なものである。
「まぁ腐っても王都の入口だしな。まぁそんな事はいい。さっさと行こうぜ」
「おー!」
そして僕達は門をくぐり抜け、王都に足を踏み入れた