第九話 再び王都へ
王都に出かけてから数週間が経った
もうあの事件で負った傷は完全に癒えている
僕とダニエスが壊滅させたあの誘拐組織は前々から被害報告はあったものの、なかなか尻尾が掴めず、衛兵達も困っていたそうだ。
なにせ元騎士が頭を張っているのだ。どこを衛兵が見回りしやすいだとかどういう所から犯人を探すかとかを熟知していたのだろう
ところで僕達が何のために王都に行ったのか覚えているだろうか
決して悪いおじさん達を倒すためじゃない
そう、学校の準備のためだ
僕の入学式はもう3日後まで迫っていた
「は~、楽しみだなぁ学校!図書館で本も読めるし友達も沢山作りたいし!」
前の世界では生まれつき体が弱く、小学校は休み勝ちだった。ましてや中学校なんて入学してすぐに入院だ。
学校で友達なんて作ったことが無かった。
つまり、僕にとってまともな学校生活を送るのはこれが初めてみたいなものだ。
あと本を読める様になるのも僕を楽しみにさせる理由の一つだ。
病院では本ばかり読んでいた。そのせいで本を読むのは好きになった
家にはあまり本がないので図書館があるのはとても嬉しい
入学したら入り浸ってやる!
僕が三日後から始まる生活を思い描いていると
「学校もいいけどお前はそれよりやることがあるだろ?なぁ?今日の分始めるぞ、庭に来い」
と僕の肩に手をポン、と叩く
「はーい」
僕は自分の部屋に木剣を取りに行く
あの事件の後、ダニエスは「鍛え方が足りなかった!」などと言い、僕との稽古の時間を増やした
しかも、稽古に手加減がなくなった。全ての打ち込みが本気なのだ。
お陰で吹き飛ばされる回数が増えた。反応はできても受け止めきれるだけの力がない
最近は受け止めるだけじゃなくて回避も使ってダニエスの相手をしてみている。最初の何度かは避けられるのだが、1度態勢を崩すと攻撃を受けてしまう。
回避はまだまだ練習が必要だ
それから街の衛兵を何人か家に呼んで多人数の相手の練習もするようになった
仕事中の衛兵にそんな事させていいんだろうか
ダニエスにそう聞いたら「王国騎士団長ってのは結構えらいんだぜ」と胸をはられた
完全に職権乱用だった
「今日もよろしくお願いします!」
「ああ、こちらこそ」
衛兵との稽古が今日も始まる
ダニエスが呼び出した人数は5人
10歳の息子に五人の衛兵を同時に相手しろというのだからなかなか無茶をいう
まぁ僕には無茶じゃないと思っているからやらせているんだろうけど
五人の衛兵が木剣を持って一斉に僕に襲いかかってくる
僕はそれを後ろに跳んで躱すと一気に衛兵の1人に近づき、その人の握る木剣をはね上げる
「くそっ!」
近くにいた衛兵が横薙ぎに木剣を振るってくるが、問題ない。ちゃんと見えている。
目の前で木剣を振っている衛兵も、背後から僕に襲いかかろうとしている衛兵も。
僕は姿勢を低くして目の前の衛兵の攻撃を躱す
頭の上を木剣が通り過ぎていき、背後の衛兵が振り下ろしていた木剣とぶつかる
その隙に僕は目の前の衛兵の手首に下から木剣を当て、木剣を弾き飛ばす
そしてすぐに背後にいた衛兵に視線をむけると、振り上げていた木剣をその衛兵の木剣の柄付近に向かって振り下ろす
振り下ろした剣に上から衝撃が加わることにより、衛兵は木剣を落としてしまった
残るは2人。
2人は少し離れたところで僕の動きを警戒していた
乱戦になるのを恐れたのだろうか
しかし、このくらいの距離なら問題ない。
「スフォルテス流剣術、『薊』!」
僕は地面を蹴って一気に距離を詰める。
衛兵達には僕が瞬間移動したように見えただろう
僕はそのスピードのまま近くにいた二人の衛兵に連続して突きを放つ
どぉん!という衝撃音とともに二人の衛兵は吹き飛ばされた
一応衛兵達には防具を付けてもらっているので大丈夫なはずだ。たぶん
「そこまで!」
ダニエスの声により今日の稽古が終わった
「いやー、流石騎士団長さんの息子さんですよね。大人5人で1人の子供に手も出ないんですもん」
「だろぉ?自慢の息子だ!」
ダニエスが嬉しそうに胸をはる
「衛兵の皆さん、毎日付き合わせてしまってすいません」
「いやいや、いい訓練になるよ。むしろ感謝したいくらいだよ、ありがとう」
上司のわがままに文句一つ言わないなんて、素晴らしい精神だ
それから衛兵の人達と少しお喋りをして、今日の練習は終わった
それから3日が経ち、遂に入学式の日になった
「忘れ物無いわよね?お財布は持った?ハンカチは?」
朝からエヴァリーナはわたわたと王都に行く準備をしている
入学式は2時間後、そろそろ出発した方がいいかもしれない
僕は制服を着て忘れ物がないかもきちんとチェックしている
きちんと木剣も忘れていない。学校に行っても素振りは続けるつもりだ。
「大丈夫だって。ほら、そろそろ行こ?」
「そ、そうね」
「なんでお前が緊張してるんだよ……」
「だって、だって、息子の入学式よ!?緊張するわよ焦るわよ!」
「分かった!分かったから!エルヴィスの言う通りそろそろ行くぞ!余裕持って着いておきたいだろ」
「じゃあアーシア、またね」
「待ってるよお兄ちゃん!」
アーシアはあの事件のあと、外に出るのが怖くなってしまったらしい。あれから1度も外に出てはいない。
なので入学式にも行けない。お留守番だ。
心配だな……
エヴァリーナはまだ落ちつかない様子だったが、アーシアを除いた家族三人で馬車に乗り込んで王都目指して出発した
1時間ほど馬車にゆられると、王都の高い壁が見えてきた
前と同じ様に馬車を入口の所まで走らせる
僕達が一人一人門番に通行証を見せると馬車は王都へと入っていく
王都に入るとまず、門の近くにある車庫に馬車を入れる
中では馬車を使えない。
王都の中での移動は基本的に徒歩だ。
これで前みたいに離れ離れになることは無いだろう
入口から15分ほど歩くと、道の先に大きな建物が見えてきた
「あれがお前の通うイルガルム国立学校だ」
ダニエスがそう教えてくれる
すごっ!思ってたよりでかい!
近づいていくとよりその大きさが鮮明になる
敷地の幅だけ見れば某ドームが3つは入りそうだ
その大きさに驚きながら、僕は学校の正門をくぐった
「はーい!入学するお子さん達は右!保護者の方々は左にお進みくださーい!」
スーツを着た女の人達が次々と来る人たちを誘導している
ここで家族と分かれるようだ
「じゃあなエルヴィス、またな。入学式ちゃんと見てるからな」
「うん!ばいばい!」
僕は家族に手を振りながら別れ、右の道を進んだ
しばらく進むと子供たちの列が出来ていた
僕も周りに合わせてその列に並ぶ
列はどんどん進んでいき、僕の番がきた
「はい、次の子ー。お名前教えてくれるかな?」
「エルヴィス=スフォルテスです」
「ありがとー。えーと、エルヴィス、エルヴィス……。あ、あった。2組ね。あそこの緑の服着たお姉さんのとこに並んでねー」
「はーい」
見ると先生のような人達が8人並んでいてその人たちの前には子供たちの列が出来ている
言われた通り緑の服の人の前に出来ている列の後ろに並んだ
暫くすると全員揃ったようで、列が動き出し、講堂のようなところに連れていかれた
暫く待っていると壇上に誰かが上がってきた
「これから入学式を始めます!」
その人の合図で入学式が始まった




