プロローグ
ひとまず第一章の終わりまでを連日投稿する予定です!よろしくお願いします!
人はみんないつか死ぬ
なら人はなぜ生きるのだろう
歴史上の偉人は何かを成した後に死を迎えている
それは結構なことだ。素晴らしいことだ
僕自身何かを成して死にたいと、そう思う
しかし、何もやらずに、何も出来ずに死んでいく人達はなぜ生きたのだろうか。
そのような人たちは決して少なくはないはずだ
彼らの人生に意味はあるのだろうか
僕はその答えが分からない
分からないから僕は何者かになってから死にたいと、そう思う
「優人ー。入るわよー」
「うん。どうぞ」
優人は読んでいた本を閉じて返事をする
「母さん、新しい本持ってきてくれた?」
「持ってきたけどねぇ。本を読むのも良いけどもっと体を休めなさいよ?アンタ生まれつき体弱いんだから」
「ちゃんと寝る時は寝てるって。ここに居ると寝ること以外やる事ないし、ずっと寝てるわけにもいかないしさぁ。本くらいいいでしょ?」
「別にダメとは言ってないわよ。まぁ早く体治しなさいな」
「うん、頑張るよ」
まぁ僕がどうにか出来ることじゃないんだけどね
僕の持病は現代の医療技術をもってしても原因が分からないという謎の病気らしい。
そのため、僕にはおろか病院の先生にもどうにも出来ていない
暫く僕と少し話をすると、母さんは席を立って帰る準備を始めた
「もう帰るの?」
「そうね。次のお客さんもいるみたいだし、お邪魔虫は帰った方がいいでしょう?また明日来るわ」
「お客さん?」
優人が部屋の入口に目を向けるとチェック柄のスカートの裾が見え隠れしているのが目に入る
「あいつか。入ってくればいいのに。」
「気遣ってくれてるんでしょうに。いい子よねぇ瑠奈ちゃん。それじゃあ後はお2人でどうぞごゆっくり」
そう言うと母さんは本を何冊か置いて部屋を出ていった
僕達がそんな関係じゃないのくらい知ってるだろうに何言ってるんだか
外から少しの間彼女らの話し声が聞こえ、それが止むと見慣れた顔の女の子が入ってきた
「また来たの瑠奈。いつもありがと」
「いいっていいって。私が来たくて来てるんだから。それより、体調はどうなの?」
「今日は特に体調が良いんだ。お陰で読書が捗る」
「優人君、ほんとに読書好きだねー」
「病院のベッドってこれくらいしかやる事ないからね」
「携帯ゲームとかは?」
「ここ病院だよ?使っちゃダメだって」
「あ、それもそっか」
瑠奈は週に1、2回の頻度で僕の様子を見に来てくれている。基本僕は暇人なので人と話せる機会が増えるのは嬉しい
「あれ?その膝の傷どうしたの?」
ふと瑠奈の膝についている切り傷の様なものが目に入った。
前に来てくれた時にそんなのあったっけ。脚なんてそんなによく見ないからなぁ
瑠奈は足の傷を見てその後ニヤッとしながら顔をあげる
「あ〜、どこ見てんのよ優人君。やらしいんだぁ〜」
「ちょっ、そんなんじゃないって!」
「ふふっ、分かってるよ。顔赤くしちゃって、ほんとからかいがいがあるんだから。」
むむっ。してやられた。
思わず顔を顰める
「……瑠奈のアホ」
「ごめんごめん」
瑠奈は笑って受け流す
「で?その傷はどうしたのさ。ここ病院なんだから痛いんだったら診てもらえば?」
「そんな大事にしなくていいよー。ちょっと転んだだけだから。ありがと、心配してくれて」
「……そっか。それならいいや」
その後は最近読んだ本の話だとか最近の学校の様子だとかとりとめのない話をしてその日の夕方を過ごした
「……もう優人君がここに入ってから1年半くらいだっけ?」
「そーだねー。なかなか出られないもんだよ。もう病院で迎える2回目の誕生日が来ちゃう」
「誕生日いつだっけ?」
「来週の水曜」
「誕生日会やるの?」
「そんな大それたものはやらないよ。母さんがケーキ買ってきてくれるって言ってたけど」
「ケーキ!」
瑠奈の目が輝く
「……来る?」
瑠奈はぶんぶんと何度も頷いた
「この話題に突っ込んだの絶対ケーキ目当てだろお前……。まぁいいよ。後で母さんに言っとく」
「やりぃ!」
瑠奈がガッツポーズをする
「まったくもう……。ところでくいしん坊さん?時間は大丈夫なの?もう5時半だよ?」
「え?ほんと?やばっ!」
瑠奈が腕時計を確認し、慌てて荷物をまとめる
「じゃあ私行くね!また来る!」
「うん。待ってるよ。じゃあね」
僕は手を振って瑠奈を見送った
それにしても傷のことを聞いた時、瑠奈の顔が一瞬曇ったのは何だったんだろ
まぁ瑠奈自身が大丈夫って言ってたし、大丈夫だろう
それから6日が過ぎた
これまで特出して何か起きたわけでもなく、ただ寝てただ本を読んで過ごしていた
明日は遂に誕生日だ。
別に何かある訳でもないが、また瑠奈が来てくれる。
明日はどんな話をしよう。どうやってあの子の笑顔を引き出そう
そう期待に胸を膨らませつつ、ぼんやりと夕日を眺めて明日が来るのを待つ
窓の外には沢山の蝙蝠が空を舞っていた。
不規則にパタパタと羽を羽ばたかせる黒い影がいつもの倍はいるだろう。
なんだか蝙蝠に祝福を受けているような気分だ。
「ほんと、明日が楽しみだな」
優人はその後も本を読んで時間を潰し、その日を終えた
「ん……」
昨日は遅くまで本を読んでたせいで目が覚めたらもう日が高いところまで来ていた
時計を見るともう12時前だ。だいぶ寝ちゃったなぁ
しばらくぼーっとして眠気の残る頭を覚醒させる
いくら寝坊したって言っても瑠奈の学校が終わるまではまだ時間があるし、本の続きでも読んで待とう
僕はそう決めて読みかけの本に手を伸ばそうとした、その時
ダダダッと廊下を誰かが駆ける音が響き渡る
誰だよ全く。ここは病院だぞ?
その足音は次第に近づいてきて、優人の病室の前で止まったかと思うと、勢いよくドアが開かれた。
足音の主は母さんだった
「どうしたの母さん?そんなに急いで。病院は静かにしなきゃだめなんだよ?」
「そんなこと言ってる場合じゃないの!いい?落ち着いて聞いてね?」
優人は首を傾げながらも言われたとおり母さんの言葉に耳を傾ける
「―――瑠奈ちゃんが昨日亡くなったそうよ」
「え?」
何を言ってるんだ?瑠奈ってあの瑠奈が?一週間前に見舞いに来てくれて、今日は一緒にケーキを食べようと言っていたあの瑠奈が?
「………本当に?何かの間違いじゃないの?」
「さっき瑠奈ちゃんのお母さんから電話が来たの。そんな冗談言うと思う?」
「嘘だ。ウソだ!何でそんな突然。なんで今日。なんで、なんでだよっ!」
「……彼女、学校でいじめられてたみたい。理由までは知らないけど。
今回もいじめの一環で池に突き落とされたんですって。その時溺れちゃったらしくって、引き上げられた時にはもう息を引き取っていたって。」
それを聞いて、前に膝の傷について訪ねた時の瑠奈の表情が脳裏を過ぎった
くそ。あの時のあの表情はこういう事だったのか
なんで相談してくれなかったんだよ。こんな僕でもなにか出来たかもしれない。
いや、僕がこんなだから気を使われたのかな
情けない。本当に情けない。女の子一人守れないのか僕は
ドクンドクンと心臓の鼓動が早まる。嘘だ。そう言いたいのだが何故かこれが現実だと体が知っているように優人の心臓は暴れ始める。
「ぐっ……」
優人は体を支えきれなくなり、ベッドに倒れ込む
心臓が尋常じゃない速度で脈打つ。
体が熱い
呼吸するのが辛い
いつもの発作にしては症状が重すぎる。何だこれは
「優人!大丈夫!?先生!優人が!」
そんな母さんの慌てて自分を心配する声が遠ざかっていく
あぁ……これが死ぬってことなのかな……
何も出来なかったな……。
ずっとベッドの上だったし、その兆候に気づきながらも大切な友達を守れなかったし、まったくダメダメな人生だ
こうして向田優人は14歳の誕生日の日、その命を終えた