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隠シゴト  作者:
2/2

秘メゴト{男性視点}

男性視点。



『さようなら。大嫌い』



そうだ、それでいい。

俺はお前のことを、本当に愛しているから。




「他の女と寝たんだ」


俺がそう言ったとき、彼女の瞳の中には確かに『悲しみ・怒り』が存在していた。

しかし思った通り、それだけではなかった。


『安心感』それと同時に『恍惚の思い』

それらが全て混ざっていた。



一通り話を終えて、彼女は去って行った。


『ごめんなさい、アナタを心から愛してるのよ。愛してるから許せないの』


『さようなら。大嫌い』


こんな言葉を残して。



「ふぅ…」


身体の力を抜き、座っていたソファに深く沈み込む。

追いかけるつもりは毛頭なかった。

きっと彼女もそれを望んだに違いない。

今は静かに涙をながしているであろう。


(あとで確認しなくちゃな)


彼女の涙を見逃すわけにはいかない。



浮気を告白するなんて下手な芝居で、本当に関係が切れるとは。

俺はなんだか可笑しくなった。

大笑いしそうになるのを堪えつつ、手で口元を覆い、隠しカメラに映らないよう口角をゆがませる。


やはり、やはり彼女は知っていた。

予想はしていたが、相手と条件まで突き止めていたとは。探偵を雇うなんてことも彼女からは考えられない。


「あぁ、本当に愛しているんだ…」


思わずそんなことを呟いてみる。極力小さな声を出したつもりだが、はたして今の言葉は隠しカメラに記憶されただろうか。



俺が彼女と出会ったのは6年前。

俺の一目惚れだった。

彼女と知り合ったのは半年前。

彼女が好きだと交際を申し込んできた。

彼女は、5年間、俺のことを「見ていた」らしい。


愛してやまない人からの告白だ。

受けないような馬鹿な奴はいるまい。

俺はもちろん喜んで承諾した。


しかし


この関係は俺にとって恐怖だった。




知れば知るほど愛おしくなっていく。

殺したいほどに彼女が欲しい。

死にたくなるほど彼女は俺を愛してくれた。

トントン拍子に結婚が決まり式が近づくにしたがって膨らんでいく想い。

彼女のすべてが俺の物にならない事実。

結婚の約束をしたって、彼女が俺を最大に愛してくれたって彼女は一生、永遠に、俺の物にはならない。

だから

嘘をつくことにしたのだ。



女と寝たなんてヘタな芝居。

お前以外なんかと寝れるわけがないのに。


(お前はまだまだだったな…うそに気づかなかった)


いや、もしかしたら気づいていたのかもしれない。気づいてその芝居に乗ったのかもしれない。


ほら、わからない。

こんなにも愛してるのにお前の気持ちをすべて知ることができない。

俺のものなのに俺がわからないなんて、あっていいはずがない。




(わからないのが証明だ。彼女は俺のものじゃない。俺のものにならない。)


ぼんやり天井を眺める。


なにはともあれ俺の望む結果になった。

彼女はきっと二軒となりの隠し家に帰って、

俺の家中に設置したカメラの映像を眺めていることだろう。

俺も早く彼女の家中に設置したカメラを確認したい気持ちでうずうずしているが、

まぁそこは我慢しよう。





彼女には言わなかった。

俺が6年も彼女を「見ていた」なんて。

彼女は知らないのだ。

俺が全て知ってるなんて。

俺の方が先に「見ていた」なんて。


『話さない方がいいことだってあるのよ、知らせないほうがいいことだって。アナタが秘密にしててくれれば、嘘をついてくれれば。

そうしたら、私だって』


俺たちは隠し事や秘め事が本当に多いな。

よく似ている。


あの時の瞳の中の感情。俺にはわかるよ。

嬉しかったんだろう、自分の能力が落ちていなくて。

付き合った頃から、お前は俺を「見る」ことが減ったもんな。「見」なくても目の前にいられるんだもんな。そりゃあ「見る」必要はないかもしれない。

けれど、俺はそれじゃ嫌だ。

俺はまだお前を「見て」いたいし、お前にも「見て」いてほしい。


なんたって、お前はまだ俺を愛しているだろう?


もちろん俺だって、

永遠にお前を愛している。



お互いを監視する日々に戻ろう。

俺たちにはそれが最高の愛だ。





end

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