34 湊斗の記憶・夏⑧~夏祭りⅤ~
「リナさん!」
まさか、こんな所で会うとは。湊斗の声が1オクターブほど跳ね上がった。
「久しぶりね~、湊斗くん。元気してた?」
そう言って、茶目っ気たっぷりに笑うリナ。相変わらず、茶髪のショートヘアに、赤いTシャツと黒のショートパンツという出で立ちは、彼女の白い手足をいっそう鮮やかに見せている。
「うっわ~……」
湊斗の後ろから、ハルの驚きとも感嘆ともつかぬ呟きがもれる。彼の目は、突如現れた知らないお姉さんのくっきりしたボディに釘付けになっていた。
そんな反応を知ってか知らずか、
「へえ、今日はお友達と一緒?」
リナは湊斗のそばにいる少年たちをぐるりと見渡した。赤いネイルが塗られた彼女の左手には、缶チューハイが握られている。
「……こんばんは」
にやけ顔のハルを腕で小突きつつ、流郷がやや硬い表情で挨拶した。
「初めまして! あたし、リナ。君たちより少~し年上だけど、実は湊斗くんと仲良しなの。よろしくねっ☆」
軽やかにウインクするリナの口から出た『仲良し』という台詞に、湊斗はなぜかドキドキして、
「あの、リナさんはお父さんと同じ職場の人で、社宅も一緒なんだよ」
まるで言い訳でもするように、皆にしどもどと説明した。
「そ。世間は狭いってこと」
おどけた調子のリナだったが、缶チューハイを一口飲んだ後、そのようすが変わった。
「あら、君、イケメンじゃな~い!」
リナがそう声をかけたのは、他ならぬ三景に対してであった。
「――は?」
一方の三景は何を言われているか全く理解できず、訝しげにリナを見つめ返した。
「あたしね、イケメンのタマゴを見つけるのが得意なの。よく当たるのよ、あたしの予想。君、何年生?」
「中1です」
学校では怖いといわれる三景の目の鋭さも、リナにはてんで効果がなかった。むしろ、まじまじと観察され、三景は居心地悪そうに身を縮める。
「えー、じゃあ、つい最近までランドセルしょってたの? かわいい~! 君、2~3年後にはもっと背が伸びて、キリッとした超絶イケメンになるわよ。女子が放っとかないわね!」
「俺、別にそういうの興味ないんで……」
かわいいとまで言われた三景は完全に閉口し、助けを求めて湊斗を見た。
「えっと……そういえば、リナさんもお祭り見に来たんですか?」
リナにイケメン扱いされる三景がうらやましくないといえば嘘になる。だが、滅多にない困りように、湊斗はまず後輩を救わねばと、リナの気をそらすよう努めた。
「モチのロンよ。安くお酒が飲めるなら、あたしはどこにだって行くわ――な~んてね。ホントは会社の子たちと遊びに来ただけ。そろそろ行かなくっちゃ」
リナは思い出したように言い、
「それじゃ、湊斗くんたちもお祭り楽しんでね!」
ひらひらと手を振って、気まぐれな風のごとく去っていった。
「おい、湊斗! あんなセクシーなおねーさんと知り合いだったのか!?」
リナの背中が人ごみに消えた途端、ハルが鼻息を荒くして湊斗を問いつめた。
「……湊斗と仲良しってタイプには、見えなかったけどな」
ハルとは対照的に、流郷は慎重な表情を浮かべて言う。リナの服装や言動に、あまり良い印象を持たなかったらしい。
「だから、あの人はお父さんと一緒に仕事してるだけだって」
「いいな~。オレ、一瞬でいいから、おねーさんがつけてる下着に転生してえ~。それか、百歩譲ってあの短パンでも……」
しかし、ハルは湊斗の釈明など耳に入らず、目じりをだらしなく下げておかしな妄想にふけっていた。その姿に、中井は妙な顔をし、三景に至っては白けきったまなざしを隠そうともしない。
「ハル、このバカ!」
後輩たちの視線に気づいた流郷は、嘆息した直後、迷わず足に力をこめ、ハルの靴を踏んづけた。
「イテッ!! 何すんだよ流郷!」
「さ。みんな、バカは置いて行こう」
いきなり足を踏まれてわめくハルを尻目に、流郷は湊斗たちを率いて、さっさと盆踊り会場へ入っていく。
「流郷、ちょっと待てってば!」
ぎゃいぎゃい言いながら追いかけてくるハルが滑稽で、湊斗は思わずクスクス笑いをもらす。すると、流郷や中井もつられて笑い出し、三景は一人きょとんとしていた。
こうして、夏祭りはにぎやかに過ぎていった。




