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The Blood in Myself   作者: すがるん
第2部 峡谷の底
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30 湊斗の記憶・夏④~夏祭り~

 陽が落ちて、風も少し涼しくなってきた。

 空はまだ西の果てに明るさを残していたが、商店街のそこかしこには提灯がぶら下がり、食べ物やヨーヨー釣りなどの夜店が並んでいる。さらに、奥の盆踊り会場の広場からは、早くも炭坑節が聴こえてきた。

「お、たこ焼き~! フランクフルトもある! 何か食おうぜ、流郷りゅうごう!」

「ハル、おれ焼鳥がいい。湊斗はどうする?」

 クラスメートにそう声をかけられ、金魚すくいの店をぼんやり眺めていた湊斗は、あわてて笑顔で答えた。

「ぼ……ぼくもそれにするよ」


 あれから期末試験も終わり、夏休みが始まった。この晩は近くの商店街で今年最初の夏祭りが開催され、湊斗もクラスメートに誘われて見に来ていた。

「でも、湊斗も一緒って、なかなかレアだよなー」

 ハルと呼ばれた少年が、たこ焼きをつまようじで刺しながら、ふと呟いた。

「え、どういう意味? 学校でいつも一緒だと思うけど――」

 焼鳥を口に入れたばかりの湊斗は、ハルの発言に少々戸惑った。

「教室ではつるんでるけどさ、休みの時にお前と遊ぶの、ほぼなかったじゃん? だからオレ的に、湊斗って、外では隠れキャラになってたわ」

「隠れキャラって……」

 ハルの声はあくまで冗談めかしたトーンだが、その言葉は湊斗の胸をちくりと刺した。せっかくの焼鳥もまずくなった気がして、半ば無理に飲みこんだ。

 湊斗がハルと知り合ったのは、今年同じクラスになってからだ。お互いに所属する部活も違っており、湊斗は不調の母に代わって家事をこなしていることを、ハルには話していない。

(今日は、久しぶりにお母さんの調子が良いから、ここに来れたのに……)

「ハル、人にはそれぞれ事情があるんだ」

 その時、傍らで焼鳥をかじっていた流郷という少年が、さりげなく言葉を挟んだ。

「湊斗は忙しいの。お前みたいなヒマ人と一緒にするなよ」

 やんわりとだが、流郷はきっぱりとハルをたしなめる。

「ちぇ~っ、何だそれ」

 ヒマ人という単語に、あからさまに頬をふくらませるハルを尻目に、

「湊斗、気にするなよ」

 流郷が励ますように湊斗に笑いかける。彼は三人の中でもっとも背が高いこともあり、もし自分に兄がいたらこんな感じなのだろうかと湊斗に思わせる雰囲気があった。

「……ありがとう、流郷」

 湊斗も微笑んで、小さく頷き返した。

(さすが、陸上部の部長に選ばれる奴だな)

 流郷は、湊斗のクラスメートであると共に同じ陸上部員であり、湊斗の家の事情を知る数少ない人物だった。

「あれ? 流郷先輩と、岡先輩やないですか!」

 やにわに、耳に馴染んだ関西弁が飛んでくる。

 声のした方を見ると、陸上部の後輩である中井が、人ごみをぬって駆け寄ってきていた。

「お疲れさまです!」

「中井、お前も来てたのか」

 二人に礼儀正しく頭を下げる中井に、流郷が気さくに言葉をかける。

 湊斗も軽く会釈を返しながら、中井の後を追ってきた数人のグループに気づく。その中に、いつもの仏頂面をひっさげた三景がいた。

「流郷、だれ?」

 たこ焼きを頬張りつつ、ハルが中井たちを見て問うた。

「ああ、中井は陸上部の後輩。短距離では、一年生でトップだもんな」

 流郷の説明に、中井は顔を赤くして首を横に振った。

「いえ、オレなんか、先輩に比べたらまだまだ……」

「な~んだ、一年坊主かよ」

 しかし、ハルはそんな話にまるで興味を示さず、つまらなさそうにそっぽを向いた。

「ハル、そういう言い方はよくないぞ」

 流郷が幼い子どもを叱るようにとがめても、ハルは態度を改めるそぶりがない。そんなハルを、中井の横に立っていた三景が、真正面から見上げる。三年生のハルたちに比べて背丈は低いが、生来のつり目が効果を発揮し、鋭い刃を連想させるまなざしだった。

「おい、お前、いきなりにらむなよ!」

 きつい視線を浴びたハルはたじろぎ、三景を指さして声を荒げた。が、足の方は後退している。

「俺、にらんでません。そっちこそ、いきなり人を指ささないで下さい」

 ところが、三景は即座に否定したうえ、微塵も臆することなく言い返した。

「何だとぉ!? こいつーー!」

 攻撃したつもりが、ブーメランのように一撃を返されたハルは、たこ焼きの載ったトレーを危うく落としそうになり、いよいよカッとなった。

「山那、あかん、相手は先輩やぞ!」

「落ち着け、ハル」

 中井と流郷が、それぞれ見かねて止めに入る。しかし、口をへの字に曲げたままの三景と、怒った猫みたいに構えたハルは、どちらも退く気配がなかった。


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