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バニッシュ・メール  作者: フィーカス
バニッシュ・メール
8/23

江戸田真里菜の推理

 夕食が終わると、夏鈴たちは再び佳恵の部屋でボードゲームを始めた。外は薄暗くなり、街灯がつき始めている。

「それにしても、カリンの食べっぷりはすごかったな。まさかあんなに食べるなんて」

 美藍はあっはっはと笑いながら言った。

「いやぁ、だって真里菜のカレー、とっても美味しかったから」

 夏鈴が真里菜の方を見ながら言うと、真里菜は腕を組んで得意げに語りだす。

「えっへへー、私のカレーはどんな人の胃袋でもつかんで離さないのだー!」

「野菜切って市販のルウを溶かしただけだけどね」

「ちょ、佳恵、それを言っちゃ夢が無いでしょ!」

「いや、だって事実だし……」

 あたふたした真里菜を見て、夏鈴と美藍が笑い出す。

「しかし、まさか五杯もおかわりするなんて思わなかったよ。見かけによらず結構食べるんだね」

「美藍だって、たくさん食べてたでしょ?」

「俺は三杯だ」

「三杯でも、結構大盛りだった気が……」

「いや、だってほら、俺、運動してるから、いっぱい食べないといけないんだよ」

「うーん、確かに……」

 夏鈴は美藍の身体をじっと見つめる。運動部らしく、引き締まった体が目を引く。

「あれだけ食べても、そんなに太ってないよね」

「でも、美藍は出るところは出ているのだー!」

 突然、真里菜が美藍にとびかかり、後ろから胸をわしづかみにする。美藍は驚いてボードを蹴飛ばしてしまった。

「うわっ、マリナ、突然何をするんだ!」

「ふーむ、引き締まった体とは裏腹のこの弾力、これもバスケで鍛えられたものですかなぁ」

「こら、いい加減にしろ!」

 美藍がコツン、と真里菜の頭を小突く。

「いたっ! もー、ぼーりょくはんたい!」

「お前が変なことをするからだろう、まったく……ってか、これどうすんのさ?」

 ひっくりかえってしまったボードゲームをもとに戻すも、駒がどこに置いてあったか分からなくなってしまった。

「うーん、全然わかんなくなっちゃったから、最初からやる?」

「あーあ、私トップだったのに……仕方ないか」

 結局ボードゲームは勝負が付かないまま、片付けられることになった。

「あ、そうだ、すっかり忘れてたけど、例のメール……」

 佳恵と夏鈴が片付けている傍ら、美藍がスマホのメール画面を出す。

「これこれ。カリンたちが言ってたのって、これじゃないか?」

「えっと……そうそう、これだよ」

 美藍が差し出したスマホの画面には、「折原美藍様、48時間以内にお迎えに上がります」と書かれている。

「同じだ。送り先……」

 美藍に来たメールも、やはり送り主は「banishmail」だ。

「ふぅん、これがこの前言ってた、学校の七不思議のひとつってやつ?」

 美藍はスマホをポケットにしまいながら言った。

「うん。このメールが来ると、四十八時間以内に行方不明になって、後でミイラになって発見されるんだって」

「ミイラかぁ。さすがにそれは嫌だなぁ」

「だから、みんなで美藍を見張って、行方不明にならないようにしようっていうわけなの」

「にわかに信じがたい話だけどなぁ。それで、ユウアもリオもいなくなったってこと?」

「まだわからないけどね」

 夏鈴は首を振りながらそう言うが、佳恵は話を聞いて落ち着かない様子だ。

「でも、おかしくない? 優愛ちゃんも莉緒ちゃんも、同じメールが来た後にどこに行ったか分からなくなるって。これって、偶然なの?」

「うーん、でも中上さんは二日ほど見てないし、もしかしてもしかして、これは本当に大事件かもしれない!?」

「本当に事件なら、警察に言う必要があるが、今の状態ではなぁ……」

「そうだねぇ、中上さんのメールも、莉緒のメールも見せられないし、本当に行方不明である証拠もないからねぇ。こういう時こそ、名探偵マリナちゃんの出番かな?」

「茶化すな、ったく……」

 そう言って、美藍は佳恵のベッドに腰掛けて倒れ込む。ふと、美藍は何か思いついたように「あっ」と声をあげて起き上った。

「そういえば、このメールが送られてきた人って、何か共通点があるのかな?」

「共通点?」

 夏鈴が尋ねると、美藍は「うん」と首を縦に振る。

「テレビとかでよくあるじゃん。こういうのは、何か決まった人に送られるっていうの」

「ほほう、共通点かぁ。なかなかおもしろそうだねぇ! 今こそ、名探偵マリナちゃんの……」

 部屋にゴツン、という音が響き渡る。

「いったーい! もう、美藍、暴力反対!」

「まあまあ、美藍ちゃん、真里菜ちゃんって、こういう時に意外と鋭かったりするんだよ」

 頭を押さえる真里菜をなでながら、佳恵がフォローする。

「へぇ、マリナって、そんなに頭よかったっけ?」

「成績は中の下だけど、クイズとかなぞなぞとかは得意なんだ」

「クイズ、ねぇ……」

 美藍は少し疑っているようだが、とうの真里菜はやる気満々だ。

「さーて、早速この謎を解くために状況を整理しちゃいましょう! 佳恵、紙と書くもの!」

「はいはい、ここにあるよ」

 佳恵は机からメモ帳とボールペンを取りだすと、真里菜に手渡した。


「えっと、最初にメールを貰ったのは中上さんだったよね」

 真里菜はメモ帳に「中上優愛」と綺麗な字で書きこむ。

「それから、莉緒にメールが来て、いなくなっちゃった」

 さらにその下に、「相野口莉緒」と書きこむ。

「で、今は美藍だから……」

 莉緒の名前の下に、さらに「折原美藍」と書きこんだ。

「うーん、こうしてみても、女子高生だとか、同じクラスだとかくらいしか共通点がみつかんないなぁ。部活も髪型も、身長も胸の大きさもばらっばらだし」

「胸の大きさ……って、関係あるのかなぁ?」

 夏鈴が突っ込むと、真里菜はボールペンを夏鈴にビュッと向け指した。

「わっかんないよ? もしかしたら巨乳好きの犯行かもしれないし、あるいはロリコンの仕業かも……」

「ロリコンだったら、女子高生っていうのは微妙な気が……」

「……それもそっか」

 ボールペンを下すと、真里菜は「ふーむ」と考え込んだ。

「あと思いつくのは名前かな。メールの送り主の狙いがイマイチ分からないけど、もしかしたら特定の文字が含まれている人を対象にしてるかも」

 美藍が言うと、真里菜は「それだっ!」と、今度は美藍にボールペンを向けた。

「……でも、名前の共通点? 全員『あ』が入ってるとか?」

「漢字で『あい』と読める字が全員入ってるけど、関係あるのかな?」

「漢字? ひらがな? う~ん、わっかんないなぁ」

 全員でいろいろ案を出すが、これといった共通点は見つからない。

「うーん、例えば、文字だけじゃなくて、声に出して読んでみるのはどうかな?」

 メモ帳とにらめっこをしている三人に、夏鈴が提案する。

「声に?」

「うん、音に何か共通点があるのかも」

「音かぁ」

 早速真里菜が、名前を読み上げてみる。

「なかがみゆうあ……なかがみ……うーん、特に思いつかないなぁ」

 ひらがなでも書いてみるが、うーんとうなったまま考え込んでしまっている。

「わかんない。次、あいのぐちりお……あいのぐち……あい……あいやー、わかんなーい!」

「マリナ、ふざけるなら蹴るぞ?」

 美藍が蹴りの構えを取ると、真里菜は「ひぃっ」と両手で防御態勢を取った。

「うーん、順番が関係あるのかなぁ? なかがみ、ゆうあ……あいのぐち……あっ、もしかして!」

「え、夏鈴ちゃん、わかったの?」

「うん、多分」

 夏鈴がそう言うと、三人は夏鈴の方へ耳を傾けた。

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