8話
ギルドに来て仕事を探そうと思い西側の壁に向かったあと、思い出した。
魔癒草採取の依頼、受けたまま完了してなかった・・・・・・
期日の前でよかった。アホやで俺。
思わず似非関西弁が出てしまった。似非のはずだ。記憶喪失だから定かではないけれども。
受付で依頼完了処理をし400ルピーを受け取る。さて、何か仕事は無いだろうか。
取りあえず西側の柱に貼られた依頼書を見てみる。
<ダウソの森の調査> ランクフリー
ダウソの森の浅い場所にてダウソの番いの目撃情報あり。
至急調査に向かい、群れかハグレかを調査せよ。
報酬:3000ルピー
この依頼、報酬がいいな。調査で3000ルピーか。ま、パスだけど。
得に調査が得意という訳でもないのに危険な橋は渡らん。
<シャガ―フィッシュの捕獲> 推奨ランクD
ドドルの滝に棲息するジャガーフィッシュを3匹以上獲ってきてほしい。
最低でも3匹で2100ルピー。それ以上は1匹につき700ルピー出す。
報酬:2100ルピー+歩合
この依頼にしよう。現状、自分の体のスペックは把握できていない。ダウソはBランクの魔物だ。勝てる保証が無い。
という訳で、ダウソの森を突っ切っている川の上流、ドドルの滝までやってきた。幅30mはありそうな滝に、半径50mはありそうな滝壺。
泳ぐにも魚を取るにも大変そうなこの場所。
何故俺がこの依頼を受けたかというと――
「ダイブブレス」
水中呼吸の魔法と、
「フロームーブ」
水中移動の魔法を造り出せたからだ。
本日も大漁なり。
ジャガーフィッシュが23匹。それが本日の成果だ。
ギルドに戻って清算処理をする。自分用に10匹残して残りを引き渡す。気を利かせて、フリージングという新魔法で瞬間冷凍してある。
本日の稼ぎは9100ルピーでござい。
翌日、早くもダウソの番が討伐されていた。迷宮都市からきたというAランクパーティーの手によって。
ダウソの角は魔力を通すと電撃を発し、魔法発動時には雷が付与されるらしい。水や火の魔法とも相性が良く、風魔法とは相乗効果で増幅されるらしい。
攻撃魔法に限るが、強化に使用する魔力の効率がとても良いらしい。
今回は雄のダウソの一本角は小剣に、雌のダウソの二本の巻角は杖に加工され、その討伐した冒険者パーティーが使うらしい。
ともあれ。俺はそろそろ自分の能力を、スペックを把握しなくちゃいけない。
数ヶ月分の生活費は稼げたと思う。ティア様の恩恵なのか、それとも俺自身の力による所が大きいのかは分からない。
ただ、この先もやっていくんなら、もうちょっと自分を把握しなくちゃあいけないと思う。今は冒険者ランクDだけれど、それ以上は上に行けるのか。とか。
まぁ、俺みたいな16のガキが考えたところで、どうなるもんでもないだろうけど。
何より、記憶と一緒に自分自身も無くしちまった。ガキっぷりに磨きがかかっているようなもんだ。はっきりしない自意識に苛立つこともある。
自分が無い。記憶と一緒に拘りとか好き嫌いってもんまで無くしちまった気分だ。
ま、なる様にしかならないとは思うが、大人びた自意識ってやつが欲しいな。
先ず俺は、腰にメイスと鋼鉄斧を括り付け、村からダウソの森まで全力疾走してみた。結果息一つ乱していない。俺は森の外周を走ることにした。
そうして今、日が暮れる直前になっている。
ゼーハーゼーハー、と息切れしている俺。森の外周は半径2kmくらいありそうだった。そこをひたすら全力疾走した結果がこれ。何時間走ったか分からん。どうやら俺の体力は化け物並みになっていたらしい。
この時点で俺は重戦士になろう。と考えていた。重い鎧を着て壁役をこなす。
迷宮都市は戦士や剣士が多い。しかし、識字率も高いこの都市は、インテリ系や魔法使いの数も少なくない。そして壁役は何方にも需要がある。
然し、供給は足りていない。なぜなら重い装備に身を固め、動き続ける能力、そう体力。そして敵の攻撃にさらされ続ける度胸が必要だからだ。
その点俺は有り余る体力に任せ、度胸もカバーできるはずだ。重量級の装備に、ガッチガチに固める事で。
などと考えながら、森のそばに生えている魔癒草のところに行き、ムシャムシャ食べる。あー、身体を魔癒草の魔力が流れる。疲れが癒されるー。
この魔癒草、軽く洗ってから食べようと思ってミネラルの魔法の水をぶっ掛けた所、いきなり花が咲いた。気になって魔快草にも水を掛けたら、やっぱり花が咲いた。全く同じ花が。
ジャガーフィッシュを捕獲したときに看破のレベルが上がっているので、改めて見てみたところ両者は同一の花で、魔癒草が雄花、魔快草が雌花だった。
ミネラルは魔法で出した水だ、魔力が含まれているのだろう。それで花が咲くわけだ。本来は魔力濃度の高い土地でしか花が咲くことはないらしい。
花が咲いた状態での効能は何方も同じ、体力と魔力を同時に回復できる。その効果は劇的で。2輪食べたら体中を魔力が巡り、身体を癒していくのがわかった。
『そんな時だからこそ言うのですが』
(あ、ティア様こんにちは。)
『ええこんにちは。それで、身体に流れる魔力をこう、練り上げて拳に集束してみて下さい』
(え、と。こう、かな?)
徐々に拳が赤く光り始める。
『そうそう、上手ですよ。それじゃあその状態でそこの木を殴って見て下さい』
(えいやー)
ズバギャアッ
とんでもない音がして俺の胴体二つ分くらいはある木の幹が丸く抉れ弾けた。
「え、え、え、え?」
倒れて来る木を支えながら、言葉も無い俺。
「あ、アイテムボックス」
黒い空間が倒木を覆っていく。
倒木をアイテムボックスに収納して一旦落ち着いた。
「ティア様、マジヤバイっすよこれ」
思わず三下口調になる俺だった。
ティア様に魔錬気功の初歩を教わった後、俺は魔法を使うことにした。
連続でどれだけ発動できるか、だ。既に周囲は暗い。偶然人に遭うことも無いだろう。
「ライト、ライトアップ、ミネラル」
続けざまに三回三種類連続同時発動する。
「フローボール、ウォーターガントレット、シャドウアブソープ」
更に三回三種類発動。そろそろ限界だな。
後はこの状態をいつまで維持できるか・・・・・・
「ティア様、俺もう帰ります」
日が完全に落ちて月が中天に昇るころ、魔法の維持を止めながらそういった。
結果だけみれば維持数は限られているものの、3、4時間は魔法を使い続けることができるようだ。その3、4時間はティア様と話したり、魔錬気功の使い方を教わったりした。
肉体を生命エネルギーで活性強化して、そのうえで練り上げた魔力を纏う。素の防御力も上昇するし、身体にかかる魔錬気を使う時の不可も軽くなる。
ティア様の編み出したオリジナル、らしい。操練魔闘法と名付けたんだとか。
普通は別じゃなくて気と魔力を同時に練り上げるらしい。でも、そうすると体が長時間の使用には耐えないのだとか。
同じ名前のスキルを授かったので、練習して鍛えて行こうと思う。
気で肉体を活性化させ、そのうえで魔力で強化する。同時に魔法を使う事を考えると、魔力は体内で練るよりも体外で練り上げた方がいいとか。そういった点でも優れているらしい。
『修業は怠らないように。特に活性化と体表に魔力壁を作る練習は欠かしてはなりませんよ?」
(解ってますって。それじゃあお休みなさいティア様。)
『おやすみなさい、私の可愛い信徒よ』
月夜の街道をゆったりと歩く。門の無い村だから、門限は気にしなくていい。