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7話

 実に今更だが、戦闘とか、生き物の命を奪うとか、そういったところで一切の躊躇いが無い自分に気づいた。いったい、以前の俺はどんな人間だったんだ?

 それとも、ティア様が言ってた進化の一端なんだろうか?

 考えていても答えは出なさそうだな。ただ、日本人なのは覚えてる。

 ラノベやゲームが好きだったのも覚えてる。けれど、名前以外は、自分がどんな人間だったのかすら覚えていない。

 などということをつらつらと考えながら、既に14匹目のパイクビートルを屠っている最中だったりする。。

 いや、大漁大漁。人間大のカブト虫がわんさか、出るわ出るわ。ものの数十分で10匹以上だ。なんか異常発生でもしてんじゃないか?

『お答えしましょう。それは私の称号のせいです』

(あ、ティア様。昨日ぶりですね、こんにちは。)

『ええ、こんにちは』

 朗らかに返してくれるティア様。もう俺にとっては癒しの女神だね。勝手に心を読まれても気にならなくなってきた

『ふふ。それで、称号の話しですが』

(ああ、あの戦女神の寵児とかいう・・・・・・)

『ええ。その称号を持つものは、常に騒乱や闘争に巻き込まれるようになります』

(癒しじゃなかった! 駄女神かよティア様!?)

『失礼な。愛あるからこその試練ですよ?』

「いや、望んでないですよ」

 思わず声に出していた。そのくらい衝撃だった。このぐらいの心身への揺さぶりを、俺のインパルスの魔法で発揮できるようになりたい。充分な隙が作れるだろう。何言ってんだ俺。

『そんなことを言わないで下さい、私の可愛い信徒。貴方は信仰心は普通ですが、強く思い、念じてくれますから私のお気に入りなんですよ?』

 お気に入り・・・・・・ちょっと嬉しい。

『死後は、こちらの世界に居場所を作って、私の眷属神になってもらいたいくらいなんですよ? 本当にお気に入りなんです。毎日会いに来るくらい。いつも見守っていますよ?』

 いや、毎日ってまだ二日目ですけどね。でもそうか。顔がにやけるな、これは。たとえティア様がブスだったとしても、こちらからお願いしたいな眷属神。人から求められる、必要とされるっていいもんだなぁ。人じゃなくて神だけど。

『失礼な!! これでもきれい系の美神びじんって言われてるんですからね!』

「それはますます楽しみですねえ。でも心を読むのはやめて下さい」

ティア様と雑談しながらのんびり帰途につく俺だった。



 ギルドについて依頼書とギルド証を出して完了のサインをもらい、余り素材の買取りの段階で苦言を呈された。

「あまりにも同じ魔物を乱獲すると生態系が狂ってしまいます。結果的に人里の近くまで魔物が出没することもあるんですからね。何より、新しく別の魔物が現れる様になったり、乱獲した魔物がいなくなったりもしますから。改めて、生態の調査が必要になることもあるんですよ?」

 との事だった。しかし俺も、別に狙ったわけじゃなしにこうなったんだけどなぁ。単純にパイクビートルが増えすぎていただけの可能性もある。

 「そうですか、気を付けます」

一応反省の姿勢でいこう。称号のせいだけど。 

「つい数日前にもホブゴブリンの群れがやってきて大変だったんですよ? 森の向こうで迎え撃ったのですが、たかがホブゴブリンと甘く見ていたら、討伐体の半数が死にましたし」

 なるほど。俺が転がってたのはそのあたりか。あの時はちゃんと調べなかったけれど、もしかしたらホブゴブリンの死体もあったのかもしれない。


素材部位の引き渡しと報酬の受け取りを完了し、帰ろうとしたところ。

「セイさん、ギルド証を更新しますので、提出して下さい」

 更新? と思いながらギルド証を渡す。

「パイクビートルを乱獲できる能力があれば問題ありませんし、武具に加工できる素材は重宝するんです。特にこの村はそういった、武具に加工できる資源が不足しているので。今回の事はギルドへの貢献度も高いのです」

話しているうちに終わったのか、赤銅で出来たギルド証を受け取る。

「はい、こちらが新しいギルド証になりますDランクともなれば一人前として見られますので、あまり粗相をなさらないで下さいね?」

 苦笑交じりに気を付けますと言ってギルドを後にした。

今回の稼ぎは依頼で5900ルピー。素材の買取りで12100ルピーと合わせて18000ルピーになった。大戦果だ。重くなった財布代わりの革袋をアイテムボックスにしまい、宿へと帰る。途中で肉の串焼きを買ったり、岩塩や胡椒を買ったりした。

 この村には不似合いな立派な宿へ戻る。只の村に何故こんなにも立派な宿があるかというと、この村は半日歩いたところにある都市の衛星村(?)らしい。

 同じような村がいくつかあって、それら全てと合わさって都市として機能しているようだ。ギルド職員もよく出向したりされたりするらしい。

 そういった理由から、金持ちの療養の為の屋敷みたいに閑静な村に立派な宿が建っている。というわけだ。

 そして、何故にその都市を囲むように村があるか、というと。

 迷宮がある。ダンジョンだ。不思議空間が広がっているのだ。これにワクワクしない男の子がいるだろうか? 男の子っても、俺16だからこの世界じゃあ成人だけどもさ。自分じゃ一人前の男って気がしないし。

そういう自負ってどうやったら身に着くのだろうか?

 武器屋に防具屋、魔道具なんかも売ってるらしい。楽しみだ。この村で金を貯めて、都市で身支度して、そして迷宮に潜る! 先ずは資金だ!

 もう日も暮れている。英気を養うために宿で休むか。あ、寝る前に筋トレしよう。



 翌朝。ギルドに来たらやけに騒がしかった。

正にガヤガヤという感じで誰も彼もが色々と話してる。何かあったようだ。

 取りあえず、カウンターに行って聞いてみよう。

「おはようございます。何があったんですか?」

「おはようございます。ダウソの番が森の浅いところで目撃されたらしく。ギルドの方でも注意を呼び掛けているんです。

 今、Bランク相当の戦力はこのギルドにはありませんから」

 森の代名詞になってる魔獣か。名前はダウソリアムとダウソランダ、ダウソリアムがオスだったな。たしか。

「そうですか、今日は森には近付かない方がよさそうですね」

 それが賢明でしょう、と受付嬢は続けた。その通りだ。触らぬ神に祟りなし。

 (ティア様に触れられるなら、祟りくらいいいかな・・・・・・)

『お上手ですね。今はまだ無理ですけれど、寿命をまっとうした暁にはそれも叶うでしょうね』

 しかし、そうなるとどうしよう。手ごろな依頼があったかどうか・・・・・・

 受付嬢にあいさつし、ランクフリーな西の柱を見に行く。

 

<自警団の戦闘訓練への参加> ランクフリー

報酬:一日200ルピー

村の自警団の訓練の充実化を図るために、冒険者の参加を求める。実戦経験があるならランクは問わない。定員5名。

 

 これにしよう。丁度外には出ないんだし、素人の俺でも訓練の相手くらいにはなるだろう。新人が特訓の為に受ける事もあるらしいし。自警団としても色んな相手と戦う経験が積める。何せ中心は青年団とはいえ、老若男女入り混じってるんだ。中には戦闘は苦手な人もいるだろう。

皆で一緒になって何かに打ち込むことで自警団も冒険者もやる気に繋がり、それが切っ掛けで村に活気も出るかもしれないしで一石二鳥。中々にwin-winじゃないか。



 差即、依頼を受けて村の会合場まで行った。初心者でも大歓迎とのことだ。

一緒になって剣の型をなぞったり素振りしたり。色々とトレーニングした。

「セイ、そろそろ今日の訓練は終わりだ。もう帰っていいぞ、依頼完了のサインしてやるから依頼書だせ」

 強面の自警団団長からそういわれて、アイテムボックスから書類を一枚出した。すると、なぜか驚かれた。

「駆け出しのペーペーだってのに、空間収納の魔法が使えるのかよ」

 成程。そういえば俺は冒険者になってから三日しか経って無かったっけか。

「俺、神様から加護をもらってるんで」

 笑いながらそういうとより一層驚かれた。

 ギルドで報酬をもらい、宿についてその場で向こう10日分の宿代を払った。残りは17000ルピーを切った。買い食いや、保存食を買い貯めたりしているからだろうか、少し減り気味だ。けれどまだまだ余裕がある。明日は防具でも買いに行こう。



 翌日、宿屋のおかみさんに防具屋の場所を聞いて朝一で向かう。

ギルドに程近い場所だったので迷うことも無かった。看板には剣と盾。武器も防具も両方売っているようだ。あっさりついて、すぐ店内に入っていく。

 と、扉を開けた瞬間金槌の音が聞こえた。建物の防音は完璧なようだ。

 武器も防具も打ってるし武器も防具も売ってるし。

「・・・・・・」

 取りあえず中に入る。店員が居ないから声をかけたいが、槌の音が止むまでは待っていようか。勝手に触るのはまずいだろうが、俺には看破がある。見るだけでも相当な量の情報が得られるだろう。目ぼしいものはないものか。

 あ、あのグリーブ良いな。あっちのブーツは、底とつま先とにパイクビートルの甲殻が仕込んである。サイズも丁度いいのがある。お、シャドウウルフ革のグローブがある!

 いっそ上半身はシャドウウルフの装備で固めてしまおうか。



 そろそろ2時間が経過している。だが、未だに槌を振るう音が聞こえる。

一端帰ろうかと思ったものの折角待ったんだからもう少し待とう、と思い続けて今に至る。どうしたものか・・・・・・。

 と、遂に槌を振るう音が途切れた。今だ!

「すみませーん!」

「ハーイ。少々お待ちくださーい」

 若そうな男の、何とも軽い声が聞こえた。ま、そりゃあそうか。向こうは俺が2時間の間待ちぼうけていたなんて知る由も無いだろうからな。

 「はい、お待たせしました。何かご用命でしょうか?」

思った通り、若い男。朗らかな笑顔だ、額の汗もキラリと輝いている。うん、やっぱり言わないでおこう。

「そこのブーツとそっちのグリーブを下さい」

「かしこまりました、少々お待ちください」

 ガントレットがあるのでグローブはやめておいた。

「合わせて、12000ルピーになります」

 これで残りは5260ルピーか。大事に使わないとな。

「ありがとうございました! またのご利用をお待ちしております」

 丁寧な御辞儀と共にそういわれると、また来たくなってしまう。何せ、2時間もの間待ちはしたが、それは俺が自分から待とうとした結果だ。

 声をかける事もせず、何もせずに待ち続けたのは俺だ。だから完全に悪いのは俺だ。それでも待った甲斐があったと思ってしまった。

 ただまあ、今度来るときは遠慮なく声を掛けさせてもらおう。

 そう思い、新品の装備を見につけ(ドロップ品はサイズが自動調整されるが今回はあの鍛冶師の作品だ)ギルドへと向うのだった。

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