2話
雷魔法の適性を(高)にしたい。
唐突だがそう思った。
思い立ったが吉日。丁度昼だし今から行って来よう。
「皆さん、私は今日ダウソの森に行ってきます。帰りは遅くなると思うので夕飯は先に食べていてください」
「「「分かりました」」」
うお、綺麗にハモった。誰一人どうしてとか、どんな理由でとか言わなかった。これは信頼の証だろうか? そうだと嬉しい。
「と言う事ですので行ってまいります」
「「「行ってらっしゃいませ」」」
また綺麗にハモった。
そんなこんなで送り出される俺。あまりの意思の統一ぶりにちょっと寂しくなったのは内緒だ。何だか、輪の外にいる。みたいな感じがして。
西門から出て1時間歩き、ダウソの森に到着した。さて、どうやって探したものか。気配察知は常に使うことでLVがソコソコ上がっているが、肝心の自分の気配は隠せない。これじゃあ、いくら探し回ってもこっちの気配を感じて逃げていくだけで遭遇は出来ない。
・・・・・・よし、あの手で行くか。
「シャドウダイブ」
唱えて鬱蒼と生い茂った木々の影の中に潜った。因みにこの魔法、影の中では呼吸が出来ないもの凄く使い勝手の悪い魔法だ。けれど俺には秘策があった。
まあ秘策と言っても――
「ダイブブレス」
本来なら水中で使うこの魔法を影の中で使っているだけなのだが。
効果は覿面。影の中でも楽に呼吸が出来る。後は気配察知でダウソを探すのみとなった。
魔法はどういう原理か分からない代物が多いが、ダイブブレスはどうやって俺に酸素を供給しているのかサッパリ分からん。
かといって研究する気も無いからそれでいいか。魔法万歳便利です。
などと取留めのないことを考えていると、ダウソの気配を察知した。かなり近い。まだ森の浅い所で発見した。10匹前後の群れだ。
「一狩行きますか」
ポツリ、と呟いて影の中から出てまず最初に一番近くにいたダウソの首を落とす。そこで漸く動き出したダウソの群れ。一斉に雷撃を放ってきたが俺の操練魔闘法には意味胃が無い。
無造作に近づき、一匹、また一匹と首を狩っていく。こいつら首長いから落すの楽だな。更に一匹狩ったら、ダウソたちが撤退し始めた。流石サブランクBだな、知恵が回るし撤退の判断も中々早かった。
「さて、戦果の確認だ」
<ダウソの肉>
雷属性の魔法適正が上がる。レア。
<ダウソリアムの角>
武具にするもよし、砕いて魔術儀式に使ったりと用途は多い。
<ダウソランダの角>
装飾品や武具にも使える。砕いて魔法薬にしても良い。
上々、といった所か。肉も3つある。
回収もそこそこに早速肉を焼き始める。今回はサイコロステーキにしてみた。
ダウソ2匹分の肉を食い、確認してみた。
◆
御手洗 清 (セイ・ハンド)
年齢17 男 LV91 種族:人間
称号:忘れん坊 迷子 魔獣殺し 戦女神の寵児 戦女神の信徒 冒険神の信徒 三人目 雷龍 ドロウルの師匠 迷い人
特殊:記憶喪失 適応補正 清めの手水 戦神の加護 冒険神の加護 炎の祝福
魔眼:麻痺LV8 看破LV11 選別LV8 暗視LV7(神)
神器;ユスティアックス、ユスティアーマー、公翼の盾、清女の腕輪
スキル
攻撃補正LV45 被ダメージ軽減LV21 回避補正LV38 欠損再生LV1 盾殴りLV35 戦場闊歩LV43 第六感LV23 操練魔闘法LV31(神)気功波LV10 高速思考LV9 気配察知LV19
魔法適正
・水属性(激高)・光属性(高)・雷属性(激高)・無属性(激高)・影属性(高)・土属性(神)・火属性(中)・神聖魔法(神)
使い魔:コアトル、エメラルド
◆
予想より上がっているが別段悪いことでもない。あ、でもこの残った肉どうしよう。勿体ないな・・・・・・
よし、イリーナにあげよう。彼女は、不要だと言っているのに毎月家賃を払ってくれている。なら、この位の贔屓をしても罰は当たらんだろう。
考えながら、以前に見つけた草原が見えて来た。そう、魔癒草と魔快草の草原だ。魔力を含む水を浴びると一気に成長するそれらを、一気にミネラルウォーターの魔法で花に変えた。
結果、魔癒草382個、魔快草349個と中々に有益な寄り道だった。
思ったほど時間がかからず、18時前後に神殿に着いた。
そのまま自室へと戻り、すり鉢とすりこぎを取り出し、魔癒草と魔快草を5つずつすり鉢の中に入れ、ゴリゴリと磨り下ろしていく。さらに追加で5つ入れ、また磨り下ろしていく。出来あがったペースト状のものを小麦と混ぜ合わせて捏ねていく。
それを小さな玉状に小分けする。後はこのまま乾燥するのを待つ。
一段落した所で時計を見たら19時過ぎだった。そろそろいい頃合いかなと食堂に顔を出す。
案の定、マチルダたちが一息ついて、そろそろ自分たちの食事を取ろうかという段階だった。
「間に合ったみたいですね」
「セイ様。お帰りなさいませ」
ゴルバスさんを皮切りに皆、口々に労いの言葉をかけてくれる。
「イリーナ、これはお土産です」
彼女の前にダウソランダの肉を置く。
「え、お土産、ですか?」
訝し気に葉の包みを開けている、出て来たのは肉の塊。
「なんの肉なんですか、これ?」
「ダウソランダの肉です」
「んなっ!?」
うんうん、イリーナはいい反応を返してくれるよな。
「超のつくレア食材じゃないですかっ、食べると雷魔法の素質を与える!」
「そうなのですか? 私はユスティア様の加護の御蔭で9割くらいの確率で手に入るんですけれども」
「きゅうわ、え!? 9割? 9割って言いましたか今? 競りに持ち込めば金貨1000枚くらいの値段が付く代物ですよ!?」
「そのくらいなら魔石を二つ持ち込めば御釣りがくるし」
「ですが、こんな高級食材をおいそれといただくわけにはいきません。セイさんが食べて下さい」
「いえ、私は既に能力値の限界まで食べています。これを私が食べると折角の雷魔法の適正強化が勿体ないことになります。イリーナが食べて下さい」
「・・・・・・分かりました、いただきます。ありがとうございます」
「いえいえ、気兼ねなく食べて下さい。唯一家賃を払っているあなたに送る精一杯のお礼ですので」
何名か肩身の狭そうな人が目につく。仕方ないフォローしとくか。
「まあ、他の方々は他の所で支えてもらっているのですから、文句はありませんが」
ほっとしている数名を含む皆さんに提案した。
「そろそろ夕食にしませんか?」
苦笑が帰って来た。なぜだ?
食後の休息は腹休めに必要だが俺の脱ボッチの一角を担っている。
「そういえばこの間、アルティさんとミルシィさんからお礼を言われましたよ。うちの神官長から金貨を喜捨していただいた、との事でしたが」
「ええ、臨時収入が入ったのでおすそわけしてきました。何せ2500万の臨時収入はかなりの儲けと言っていいでしょう?」
全員、口を開けて呆けている。
「セイさんの事だから、貴重品を競りにでも出したんでしょうけど」
「ゴルバスさんご明察。今までの魔石よりも更に大きな魔石を入手したので競りに持って行ったんですよ。そしたら2500万ルピーになりまして」
ゴルバスさんの口元がひきつる。
「ジルタル中の孤児院に配っても、まだ金貨2460万残ってますからね。誤差の範囲内と言えるでしょう。」
「ソウデスネ、ゴサのハンイナイですね」
「この孤児院は何かがおかしいと思うのは私だけじゃないはず」
「諦めて現実を受け入れよう。ここはその日にまいた種が、その日のうちに収穫できるようになる場所なんだから」
「飢饉になっても生存できるような孤児院って一体・・・・・・」
◆
名前:イリーナ 種族:人間 性別:美少女 年齢:13 LV42
称号:お雛さん 舞う乙女 風の踊り子 冒険神の信徒 戦女神の信徒
特殊:癒しの御手 冒険神の加護
魔眼:暗視(神)LV8 麻痺(神)LV7
神器:冒険神の剣
スキル
魔法剣LV23 並列思考LV8 回避補正LV20 魔法強化LV18 練気功LV28 攻撃補正LV18
魔法適正
・水魔法(中)・風魔法(高)・空間魔法(中)・雷魔法(中)
◆
「え・・・・・・」
「どうしましたイリーナ?」
「あ、あの、雷の魔法適正が」
もの凄く困惑しているがどうしたんだろう。
「ちゅ、中になっているんです、たったあれだけの量のお肉しか食べてないのに」
「そうですね。私もその肉で魔法適正が限界まで上がりましたからね。上りが良いのは潜在的に雷魔法の素養があったのかもしれませんね」
「そういうものなんですか・・・・・・」
どこか呆然としている口調で言うイリーナ。
「使いこなす為に練習有るのみ、ですよ?」
「! そうですね、精進します。ありがとうございました、セイさん」
「お礼は、もういただいていますよ」
今日も夜は更けていく。




