1話
ザクッザクッと土を耕す。所要時間は僅か30分、一本の鍬でもう予定の半分を耕している。
ロバートさんとゴルバスさんも結構耕している。レミリアとマチルダが神殿に詰めていてくれているから心配はいらないだろう。
さて、なぜ畑を耕しているのかは昨日に遡る。
大人達による昼食後のティータイムの時の事だ。
「そういえば、この辺りの土地はセイ様がお買いになられたんですよね?」
急にエリヤさん(ユーノの母親)が訪ねて来た。
「ええ、そうですよ。その分の土地は今も聖域の結界に包まれています」
だから今も雪が積もっておらず、模擬戦なんかに使用している。
「・・・・・・思ったんですが、あの土地、勿体なくありませんか?」
かろうじて建っていたあばら家は全て取り壊して、今は土だけがむき出しになっている。学校の体育館一つ半は収まる土地が余っている。
確かにあれは勿体ない。何かに使えるだろうか?
「・・・・・・畑でも作りますか」
「いいですねそれ、自給自足にもなるし、最近体が鈍ってもいましたし」
「そうですね。聖域内だから泥棒も入れないですし」
ぽつりとつぶやいた俺の言葉に皆からの賛同が得られた。
「じゃあ、半分の面積を畑にしちゃいましょう。道具なんかは今から仕入れてきますね」
という具合に畑づくりが決まった。今は畑を耕している途中だ。
まだまだ初期段階。ここからが大変なんだ。
「セイ様。もう苗と種植えちゃって下さい。こっちもそろそろ終わるんで」
ロバートさんに指示された俺はその言に従いカブを植えていく。
「分かりました。端はカブから植えていきますね」
「はい、お願いします」
アイテムボックスからカブの種を取り出して植えていく。
こうして、農園が出来た。今は子供たちがジョウロで水をあげている。
人手は豊富だからな。あっという間に水やりが終わる。
「収穫が楽しみですね」
「ええ、手間を掛ければ掛けるほど愛着が増しますからね」
ロバートさんは元々農夫だと言う事で、管理を全面的にお願いした。
一通りの片づけも終わり、さあ神殿に戻ろうという所で、その神殿からマチルダが誰かを連れて来ていた。
「どうしました、マチルダ。何事ですか?」
後ろに連れているのはギルド員らしく、ギルドが統一規格で作っている制服を着ている。あと、付け加えるのなら捨てられた犬の様に弱弱し気な所だろうか。
「はい、ギルドからの指名依頼だそうです。時間が差し迫っているらしいです」
「詳しい話は中で聞きましょう」
今回の指名依頼はトロールの脂身を10個確保すること。それも、明日までに。
話によれば、始めは普通の依頼として張り出された依頼だったらしく、期日が迫って初めて依頼者が焦りだしたらしい。
そこでの依頼者の無茶ぶりによって、急きょ俺への指名依頼に依頼を変更したとの事だ。二日足らずで集めて来いとの無茶ぶりで。
「期限は明日の17時です。どうか受けていただけないでしょうか!」
「受けましょう。戦女神の使徒として迷宮の30階層程度、日帰りでやって見せましょう」
二つ返事で引き受けた。この程度、ユスティア様の試練に比べれば児戯に等しい。
「有難う御座います! どうか、どうかおねがいします!」
「依頼書はありますか?」
「あ、はい。ここに」
「では、いってまいりましょう」
そう言って依頼書を受け取り、神殿内のワープポータルから迷宮の30階層まで転移した。鎧は着てない泥が落ちていないので汚したくないのだ。
と、そこまで考えて魔法で洗えばいいかと思い立った。
「リフレッシュ、ピュリファイ」
途端に汚れは浄化された。これで安心して鎧を着られる。アイテムボックスから鎧を転移させて、今日も名刺代わりの全身鎧だ。着てると落ち着く。
さて、トロールは居るかな?
虱潰しに探しながら歩いていると血潮マネキが寄って来た。
「違う、お前じゃない」
さくっと倒してドロップアイテムの甲殻を適当にアイテムボックスに転移する。
32階層、漸く一匹目が現れた。久々の浄化のメイスで頭をかち割る。先ずは一匹。33階層でも二匹現れたので油身を確保。やっと三つか。
「ブモーォ
赤角猛牛が襲い掛かって来たが拳一つで頭をかち割る。
ドロップアイテムは赤い角と霜降り肉だった。
35階、ここでも1匹。残り6匹、か。
38階層で漸く群れと出くわした。6匹だ。トロールは思考速度があまり早くない。出会い頭に拳とメイスで頭をかち割った。残りの4匹が一斉にこちらに向かってくる。それを、来た端からかち割っていく。これで10個だ、戻るとしよう。
懐中時計を確認すると18時を回った所だった。5時間くらい迷宮に籠ってたことになるな。
ギルドへ行くと、俺が入った途端、何故か静まりかえった。
構わずカウンターに向かう。
「依頼の品、トロルの脂身10個です。どさどさっと、依頼の品をアイテムボックスから転移させて取り出す。
直後、先程とは逆にギルドに居る(酒場含む)全員から賞賛された。
「おい、やっぱりランクSってのは違うな、誇るでもなく当たり前の様に今回の無理難題を片づけやがったぞ」
「ああ、やっぱ神の使途は普通の人間とは違うんだな」
喧騒が凄くて話がしずらい、しかし言っておかねばならん。
「あまりに無茶な依頼はこれっきりにして下さいよ」
「ええ、すみません。ですが、たった5時間で依頼を完了してしまうなんて、流石は戦女神の使徒様ですねっ」
受付でもそれか。まあ、ティア様に感謝するのは良い事だ。
「今回の報酬金貨10枚ですお確かめください」
「ええ、確かに。では、依頼主にもユスティア様に感謝をするようにお伝えください」
そう言ってしずしずとギルドから退散した。
神殿に戻った俺は収穫されたばかりらしきカブを目にした。
「セイ様、お帰りなさいませ。一つご報告があります」
奥からマチルダが出てくる。
「その報告というのは、この株の事ですか?」
「はい、種を植えたその日に収穫となりました」
マチルダ曰く、蛟の肉をしょっちゅう食べている子ども達には水魔法の素養が備わって来た。その魔法の練習も兼ねて、ウォーターの魔法を使って水を撒いた所カブが急成長し、収穫するに至ったということらしい。
あまりに急成長したために、土の養分が激減するのではないかと考えた俺は、魔法による水やりを禁止した。
カブの漬物が足りない、等の理由がある時だけ許可をすることとした。
それらの事を話しながら、俺の脳裏には以前に魔癒草と魔快草にミネラルウォーターの水をやった時の事が思い浮かばれている。
(ティア様、この聖域って魔力濃度が高いと言う事はありませんか?)
『ご明察。聖域はいわば魔力だまりです。子ども達の身体能力を、そして魔力を高める効果があります』
(やっぱりですか。最初から教えて下さいよ)
『因みにですが大人にも効果があるので皆さん鍛えられていますよ。試しにイリーナに看破を使ってごらんなさい。急成長していますよ』
ということは、俺の水属性の適性は・・・・・・うわ、激高になってる。やっぱりか。
◆
御手洗 清 (セイ・ハンド)
年齢17 男 LV91 種族:人間
称号:忘れん坊 迷子 魔獣殺し 戦女神の寵児 戦女神の信徒 冒険神の信徒 三人目 雷龍 ドロウルの師匠 迷い人
特殊:記憶喪失 適応補正 清めの手水 戦神の加護 冒険神の加護 炎の祝福
魔眼:麻痺LV8 看破LV11 選別LV8 暗視LV7(神)
神器;ユスティアックス、ユスティアーマー、公翼の盾、清女の腕輪
スキル
攻撃補正LV45 被ダメージ軽減LV21 回避補正LV38 欠損再生LV1 盾殴りLV35 戦場闊歩LV43 第六感LV23 操練魔闘法LV31(神)気功波LV10 高速思考LV9 気配察知LV19
魔法適正
・水属性(激高)・光属性(高)・雷属性(中)・無属性(激高)・影属性(高)・土属性(神)・火属性(中)・神聖魔法(神)
使い魔:コアトル、エメラルド
◆
名前:イリーナ 種族:人間 性別:美少女 年齢:14 LV42
称号:お雛さん 舞う乙女 風の踊り子 冒険神の信徒 戦女神の信徒
特殊:癒しの御手 冒険神の加護
魔眼:暗視(神)LV8 麻痺(神)LV7
神器:冒険神の剣
スキル
魔法剣LV23 並列思考LV8 回避補正LV20 魔法強化LV18 練気功LV28 攻撃補正LV18
魔法適正
・水魔法(中)・風魔法(高)・空間魔法(中)
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称号の戦女神の信徒は、この神殿に移り住んだ時に感謝の念を持って礼拝した時に着いたものらしい。




