4話
それにしてもでかい魔石だ。今日の競りに、とびこみで出してみようかな。
よし、思いついたが吉日。早速王都まで転移し、競りの会場の裏手にまわる。屈強そうな男達が二人、道を阻もうとして、俺の正体に思い当たったのか、脂汗を流し始めた。
「とびこみで出品したいので、通らせていただきますよ」
そう声を掛けつつ中に入る。と、直ぐに誰かが近寄ってきた。
「使徒様。本日は如何なるご用件で?」
「とびこみで、出品したいのですが、如何でしょう」
男は喜色満面で二つ返事。手数料も払って、モノを見せた。
「こ、これは・・・・・・」
「迷宮都市ジルタル産、超巨大魔石です。今の所、私にしか入手出来ない超がつくレアアイテムです」
まあレアアイテムっつってもあと37個持ってるけれど。
「・・・・・・」
呆けている。無理も無いか、俺でも一瞬驚いたからな。
「使徒様。こいつを本日の目玉商品にしてもいいですかね?」
「ええ、問題無いですよ。好きにして下さい。私は会場から見ていますから」
「へえ、ありがとうごぜいやす」
で、どうなったかというと――
「900万ルピー!」
「1100万ルピーだっ」
「ええい、1300万ルピーだ!」
「なら1500万ルピーだ! これでどうだ!?」
「まだまだ! 1700万ルピーだ!」
「「「「なんだと!?」」」」
「くそ、1800万ルピーだ」
「私は2000万ルピー出すわ」
「2500万ルピー。これでどうだ」
「「「「ぐっ」」」」
「よしよし、私の落札で宜しいかな?」
くそー、とか畜生とか周りから声が上がった。
本当に悔しそうだ。皆一様にローブ姿なのを見ると、全員魔法使いや錬金術師なのだろう。
まあ、落札したのは成金趣味全開のおっさんだったけど。
「あんな成金より俺の方が確実に有意義に使えるのに」
「ああ、あれを媒介に使えば、例え鉄と混ぜ合わせたとしても強力な武具が造れるのにっ」
「あれが有れば儀式魔法の単独起動も可能かもしれないのに!」
皆さん全員ご立腹。まあ仕方ないだろう、俺としては誰が落札しても良かったんだしな。
早速交換所まで行って、金貨二千五百枚を受け取り割り符を返す。金をアイテムボックスに仕舞い、踵を返すと護衛らしき人物が四人で囲んでくれた。
「お気遣いなく。これでも人類最高峰の一角ですので」
そう言うと、若干戸惑った様子でいたが、納得してくれたのだろう、引き下がってくれた。
意気揚々と家路を急ぐ。もう既に夜中と言っていい時間帯なので人通りは少ない。小腹が空いたので、屋台村の方へと行ってみると、何軒かは酒とつまみを提供しているようだ。鎧をアイテムボックスに転送して、シャドウウルフのコートを着ると空いている席を見つけて入る。
「すいません、熱いの一つ付けて下さい。」
「へいらっしゃい!」
この世界には米も日本酒もある。日本酒の呼称は米酒か清酒だけども。
「へいお待ちっ」
既に文化ハザードの後のようで、お猪口と徳利が出て来る。
「どうも。あと串焼き10本お願いします」
「あいよぉ!」
すっかりほろ酔いになった俺は勘定に銀貨を5枚渡した。釣りはいらねぇよってやつをやってみたかった。それだけだ。結構飲み食いしたけど、いいとこ銀貨2枚位だろう。
銀貨三枚。たかが銀貨三枚でも、多少の稼ぎにはなる。少しくらい設けたって罰は当たらないだろう。
神殿まで帰って来て、誰かが待っていると困るので、一応、孤児院の食堂に向かう。
すると案の定レミリアが編み物をしながら待っていた。
「レミリア、こんな遅くまですみません、一度帰ってくるべきでした」
「お帰りなさいませ、セイ様。編み物がしたかっただけですのでお構いなく」
「それなら自分の部屋でやるでしょう? 気を使わなくてもいいですよ。今回は、私が悪い」
「そんな、セイ様に悪いところなど一つもありません。私が勝手にやっていたことです」
「それでも、ですよ。今夜も寒い、今日はもう寝た方がいいでしょう」
俺はレミリアの手を取って毛糸玉を拾い、強引に神殿へと連れていったのだった。
翌日。良く晴れた冬空を見上げて、満足げに頷く俺。本日のお仕事はお休み。かわりにジルタルに存在する各孤児院を巡るつもりだ。
先ずは一件目。北西にあるクランクフルト修道院。200年まえにクランクフルトさんが経てた孤児院だ。
築200年とあって結構ぼろい。只、それでも手入れは行き届いているようだ。壁のペンキを塗り直し、庭もきちんと整えられている。来るのは初めてだが意外と、と言うと失礼かもしれないがきちんとした印証を受ける。
――実は、どこの孤児院の人とも、炊き出しの時に面識がある。只、実際に訪問するのは初めてだったりする。
がつんがつん、とドアノッカーを叩くと直ぐに、「はーい」と返事が返ってくる。
「どちら様でっ!? し、使徒様! どうなさったのですか・・・・・・?」
驚きに目を見開いているのはシスターのアルティだ。ここ、クランクフルト修道院は、うちと同じくティア様を奉じる小さな修道院だ。とは言っても収容人数が40人前後が限界なので、何人かはあぶれてうちに来ている。それだけ孤児の数が多いともいえる。
「いえね、昨日臨時収入が入ったもので。おすそ分けに来たんですよ」
そう言ってアルティの手を取り金貨を10枚握らせた。
「有難う御座います。御蔭様でうちの子たちも飢えずにすんでいます」
言いながら、財布に金貨を入れようとして、そこで気が付いた。
「し、使徒様!? き、金貨、金貨をお渡しになられてますよ!?」
「そうですね、金貨ですね。昨日の臨時収入は額が多かったのでこの程度は誤差の範疇ですよ」
「で、ですが・・・・・・」
「感謝するのであればユスティア様にお願いします」
そう言って、有無を言わさずに修道院を後にした。
次の目的地は迷宮都市の北東に位置する孤児院で、サイサリス孤児院だ。
この孤児院は50年ほど前に作られた比較的新しい孤児院だ。収容人数は80人程。中々に大きな孤児院だ。
ゴツンゴツン、とドアノッカーを叩き、数秒待つ。
「はーい、どちら様ですかー?」
言いながらドアを開けるミルシィ。この孤児院出身の冒険者だ。22歳の彼女は17歳ごろから頭角を現して行ったらしく、現在のランクはCだ。
「セイです。おすそ分けに来ました」
「使徒様? あら、お早うございます」
ぺこりと頭を下げるミルシィ。
「ええ、おはようございます。朝の忙しい時間にすみませんね」
「いいえ、最近は皆手がかからなくなってきて、むしろ少し寂しく感じますよ」
「そうですか、子どもが育つのは速いものですね。あ、これおすそ分けです」
金貨を10枚取り出して握らせた。
「こんな賄賂みたいな渡し方しなくても有り難く受け取りますよ。――え?」
「感謝はユスティア様にお願いしますね。それでは」
踵を返して早歩きで逃げる。金渡して逃げるとか我ながら訳が分からない事をしている。
「さて、次は――」
同じようなことを更に二回やって、家路についた。




