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3話

「ただいま。皆元気にしてましたか」

 孤児院の方へと向かいながら子ども達が次々に挨拶を返してくれる。

「院長先生おかえりなさい!」

「院長先生っ。ぼく、イリーナお姉ちゃんに褒められたんだよ! 筋がいいって!」

 木剣で素振りをしていた、この孤児院で一番年上の、11歳のカルロが嬉しそうに報告してくる。

「良かったですね、カルロ。ですが慢心してはいけませんよ? そのまま修練をお続けなさい」

「はい! しょーじんします!」

 カルロが嬉しそうに素振りを続ける。むう、成程、きちんと一振り一振りに気合を込めている。決して雑には振らない。これは将来が楽しみだな。

「セイ様、お役目、お疲れ様です」

「昼食は御済おすみですか? まだなら直ぐに用意いたしますが」

  マチルダとレミリアが厨房から声を掛けてくる。生憎とソルランの屋台で食事は済んでいる。

「いえ、昼食は食べた後ですので私の分は不要です」

「「分かりました」」

 そう告げると直ぐ顔を引っ込めた二人。相変わらず息があっている。

今はそれよりも、一っ風呂浴びたい。孤児院に備えつけられている大浴場に行って汗を流すことにする。

 


 旅の垢、ではないが暫くまともに風呂に漬かっていなかった為、垢が良く出る。つい夢中になってしまって、一時間近く経っていた。

 「いかんいかん。もう出よう」

 脱衣所に戻ると手早く体を拭き服を着る。出ようとしたらドアの前にイリーナが居た。危うくラッキースケベになるところだった。気を付けよう。

「やあ、イリーナも昼風呂ですか? 中々に気持ちが良いですよね」

「セイさん帰って来てたんですね。おかえりなさい」

「ええ、ただいま。戻って早々に風呂で一月分の垢を落としていました。一時間以上入ってましたね」

「そんなに長く・・・・・・今回の御神託は大変な御勤めだったんですね」

 イリーナがしみじみと言う。まあ、大変と言えば大変だったな。

「丸々一ヶ月間、迷宮に潜りっぱなしでしたからね。流石に疲れました」

「一ヶ月間もですか。想像もつきませんね」

「中々の苦行でしたが、食料は一年籠っても尽きない程備蓄してありますので。服もアイテムボックスに予備がありましたし、後は床の寝心地だけが最悪でしたね」

 冗談めかして言うと「それはそうでしょうね」と含み笑いで帰って来た。




 イリーナと別れた後。食堂に行くと、大人たちが雑談していた。

 俺に気付いたバルト夫妻が椅子から立ち上がり、こちらに進み出てくる。

何だろうか?と思いつつも「先程戻りました」と声を掛けた。

「お帰りなさいませセイ様。実はご報告したいことがあるのです」

 ゴルバス氏がそう切り出してくる。すると奥さんのエリヤさんのお腹が膨れているのに気づいた。

「妻が懐妊しました。新しい我が子、共々にあらためて宜しくお願いいたします」

 やっぱりか。まあ、今は取り敢えず祝福しよう。

「おめでとうございます、ゴルバスさん。エリヤさんも、元気なお子を産まれますように、願っております」

 二人で照れ笑いをしている。微笑ましい限りだ。



 新しい家族が増えるとあっては張り切らずにはいられない。次の日から毎日迷宮に潜り続けて、10日が経った頃には遂に60階層までたどり着いた。

 ここまでの稼ぎは巨大魔石762個。ギルドで売っても金貨3000枚程。中々の稼ぎだと思う。

 さあて、まだまだ稼ぐぞ!

 意気揚々と前人未到の60階層へと歩を進める。すると――

 いきなりモンスターに出くわした。それも、これまでの様なゴブリンやオークじゃない。

 オーガだ。しかも鎧と槍を持った。瞳には知性の光が宿り、こちらを敵だとはっきりと認識している。

「ぐがぁ!」

 鋭く叫び、槍を突き出してきた。だが、これならまだハーフオーガの方が強かった。とはいっても、あれクラスがゴロゴロしていたら流石に探索を躊躇うが・・・・・・

 軽く斜めに一歩踏み出し槍を避けつつ間合いを詰める。次の一歩でオーガが槍を引く動きに合わせて更に間合いを詰める。するとオーガの身体は目の前。後は首を刎ねるだけでいい。簡単なお仕事。

 他の階と同じ様にオーガの身体が光の粒子となって半分が俺の身体に、もう半分は迷宮の地面に。

 ところが、その後がいつもと少し違った。

「これは――なんてデカイ」

 そう、ドロップアイテムで残った魔石はいままでの物よりも更に一回り大きかった。

 一度、競りに持ち込んでみよう。幾らの値がつくか楽しみだ。

 その後も手強いオーガやミノタウロスと戦っていて、ふと、何気なくオーガを看破で見た所。


 ◆

名前:無し 種族:オーガ 性別:オス 年齢:722歳 LV82

称号:暗黒神の信徒

特殊:無し

魔眼:暗視(神)

スキル

知力向上LV4 怪力LV8 狂化LV16 鍛冶:LV13

魔法適正:無し

 ◆


 年齢がおかしいと思う。こんな迷宮によく七百も・・・・・・

 でもおかしいことがまだある。先ずレベル。60階層なのに82もある。

しかも、スキルにある鍛冶。一体何処で鍛造しているのか。それも二番目にレベルが高いし、何やら良さ気な鎧と槍を持っている

 まあいいや。重大事、と言うことでもない。サクッと片付けるか。

「フッ」

 鋭く息を吐き、一気に近付いて首を落とす。もう何度もやっていることの繰り返しだ。息をするように殺せる。と、思ったのだが――

 ギィンッと音が鳴り、斧は槍の穂先で防がれた。

「グゴオオオオォッ」

 怒りの形相でこちらに向かって突進してくる。だが変わらない。先程よりも早く近寄って斧を一振り。

「グゴっ」

 今度は防げなかったようだ。あっさり首を落とすことに成功した。成程、この位の速さなら余裕で首を落とせるわけだ。


 その後は特に苦労も無く61階層への階段を発見し、階段を下りたところでワープポータルを設置し、転移。冒険者ギルドへむかった。

 オーガやミノタウロスからドロップした巨大魔石も38個程確保した。

「買い取りお願いします」

「おや、セイさん。一ヶ月ぶりですね。噂は聞いていますよ、ジルタルの戦女神を奉じる神殿は失った手足もモノさえあればつなげてしまう、とか」

「ええ、うちの神官たちは凄腕ですので」

「今日の買取りは・・・・・・ゴツい鎧と武具ですか。結構品質が高いですね。え――」

 買い取り窓口のギルド員が固まった。

「せ、セイさん・・・・・・? これ、製作者がオーガになっているんですが・・・・・・」

「みたいですね。何処でどうやって造っているんでしょうね? まあ考えても仕様が無いですし、そのあたりはいいんじゃないでしょうか?」

「まあ……確かにそうですが。これ、何階層での品ですか?」

「60階層ですね、手強いオーガやミノタウロスがいました。しかも知力上昇や鍛冶なんてスキルもありました。一番驚いたのがオーガの年齢が軒並み700越えだったこととLVが80前後だったことですね」

「なな、な、ななひゃっ? はち、はちじゅっ!?」

 おーおー、面食らってる。そりゃそうだよな、どもりもするわ。

「それで、お幾らぐらいになるんでしょうか。買い取り額」

「は、そ、そうでした。只今査定します」

 慌てたようにギルド員が反応する。

「品質はどれも良いですね。あれ? セイさん、この魔槍も売ってしまわれるんですか? 少々勿体ない気もするのですが・・・・・・」

「魔槍? そんなものありましたっけ?」

「これですよこれ。この穂先が青みがかったやつ」

 看破発動。

 ◆

銘;魔槍一角鬼

二千年前のオーガの大英雄、青角一角鬼の死後、その角を使って削りだした槍。

槍全体から使用者には無害な青い炎を発する。

 ◆


 成程これはいい槍だ。最初に看破を使たオーガの持っていた槍だな。操練魔闘法を使っていなかったとはいえ、神器でぶっ叩いても壊れなかった逸品だ。

「この槍だけは売らないことにします。教えて下さってありがとうございます」

 軽く頭を下げる。

「そんな、滅相も無い。セイさんがして来たギルドへの貢献に比べれば、大したこともありません。お気になさらず」

「ではお言葉に甘えて」

 言いつつ槍をアイテムボックスに転送する。

「買い取り額ですが、52万ルピーで如何ですか?」

「ええ、構いません。宜しくお願いします」

 少し待っていると、直ぐにギルド員の男が戻って来た。

「では、こちらが買い取り金となります」

 カウンターに置かれた金貨の入った袋を受け取り、ギルドを後にした。


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